第4話 緊急会議

 エヴィグフィエル中央大陸に長くあり続けている帝国ストルカリム。

 その帝国の首都、帝都にある宮殿の一室で、皇帝を含む帝国の重鎮を集めた緊急会議が行われていた。


 「勇者様が殺されてしまっては、魔族相手だけでなく、他国との外交上でも大きな痛手だぞ」


 「そうは言っても殺されたことは変わらないんだ。まだ国民に広まっていないことが幸いだが」


 目の前で重臣が色々な考えをぶつけあっている。

 この緊急会議の目的、それは勇者が殺されたことへの、対策を打ち立てるためである。

 100年以上続いている人魔戦争。その希望として帝国と教国との共同ででっちあげた勇者。それが殺されてしまった。

 今までも、人魔戦争における切り札として、帝国有利の外交を幾度となく押し付けてきた。

 それがなくなるということは、帝国にとって大きな痛手だ。

 人魔戦争先導国として今まで受けてきた融資すら、打ち切られる可能性すら出てくる。

 もちろん、今まで積み重ねてきた歴史と、その軍事力で戦争を仕掛ければ勝てるかもしれない。

 だが、人魔戦争で軍をエルドルヴ島に送り込んでいる以上、軍国や公国には負ける可能性が高い。


 「とにかく、勇者に代わる英雄を生み出さなければなら、む」


 喋り始めようとした瞬間、バタン、と大きな音を立てて扉が開かれた。

 扉を開けたのは鎧を着ている一兵士。


 「今は重大な内容の会議を行なっている。それを知った上で扉を開けたなら、相応の知らせでない限り、重大な罰が与えられるぞ」


 皇帝のいる部屋自体、招かれたものしか入ることはできない。

 それをただの一兵士が開け、かつ会議を中断させた。

 であれば、相応の知らせでない限り、重刑が与えられうる罪である。


 「きょ、教国の送り込んだ10,000の騎士団は壊滅!生き残ったアストリッド団長は、新たな世界の敵が現れたと。至急お耳に入れていただきたく!」


 その兵士が伝えた情報。それは、帝国の今後をさらに複雑にさせるものだった。

 勇者の仇である大魔族を討つために教国が送り込んだ10,000もの騎士団。それが壊滅した。

 教国の騎士団は、もれなく女神様より力を与えられた、圧倒的な強さを誇る軍勢だ。

 それが、アストリッド団長を残し、壊滅したということは、勇者を殺した大魔族がそれほど強かったことを示している。

 でっちあげたとはいえ、勇者は竜をも殺した。さらに、アストリッド団長も教国最年少で団長になった、紛れもない実力差だ。

 それが、まさか。


 「すぐに教国行きの早馬を出せ、内容は」


 「お父様!見つけました!」


 また言葉を遮られた。

 そして走って目の前までやってくる。

 だが、今度は無礼であると言われない。それは、目の前にいるのがこの帝国の皇女であるからだ。


 「私のことは陛下と呼べと言っているだろうが、まったく。それを渡してくれ」


 そう言って皇女の持っている厚い本を指差す。

 皇女から受け取り、1ページめくる。

 本は年季が入っており、少しでも余計な力を加えれば破れてしまいそうだ。


 「あの、陛下。それは?」


 「あぁ、これは……これは1,000年前の人魔戦争でも実際に使われた、大魔術について書かれた本だ」


 「そ、それは本当ですか!」


 椅子の倒れる音と一緒に、魔術士団長が立ち上がる。


 「あ……、も、申し訳ございません。その、その魔術とは一体」


 「これは、召喚魔術であるらしい。祖父から聞いたことあったものの、冗談だと思っていたが。異界より、絶大な力を持つとされる人間を召喚するものだ」


 「人間の召喚……。それは、本当なのでしょうか」


 当然の疑問である。普通、人間は魔術で召喚することは不可能である。

 しかし、その魔術が実際にこの本に書かれているらしい。


 「教国に新たな勇者を認めさせる旨を伝えろ。魔術の発動は任せたぞ、ヴェイガル殿。祖父の話では、神代の魔術だそうだ。詳細は本を読んでみなくてはわからないが、準備を頼む」


 神代魔術の発動。それが示すのは、膨大なる魔力が必要になるということ。

 そしてそのためには。


 「承りました。急いで、準備を集めます」


 魔術はこれでいい。しかし、新たな世界の敵。その対策は絶対に行わなければならない。

 まだ詳細はわからないが、おそらく件の大魔族だろう。

 世界の敵たる魔王。魔王の他に新たなる世界の敵が現れるなど、あってはならないことだ。

 だからこそ、今、新たな勇者が必要になる。

 そのためのあの召喚魔術。絶対に成功させなくてはならない。


 「その世界の敵という話が聞きたい。すぐにアストリッド団長を宮殿まで寄越させてくれ」


 「わ、わかりました。それもお伝えいたします」


 この帝国はどうなってしまうのだ。

 絶対に帝国だけは存続させなくてはならない。たとえ他国を犠牲にしようと。


 「あの……おと、陛下。また、あれをしなくてはならないのですか」


 「すまないな。しかし、必要なことだ」


 「いえ、問題ないです。私の全ては、帝国のためにありますから」


 とりあえず会議はこれで終了にしよう。今は情報が少なすぎる。

 まずは情報を集めなくてはならない。

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