第二章①『白百合の祠』

 或る屋敷の裏庭と繋がっている山道を登り歩いた先にある緑の丘。

 色褪せた朱い鳥居を潜ると、左右に白百合が咲き満ちる石畳が連なっている。

 中央奥には、小さな子どもの背くらいの淡い朱色の祠が建っていた。


 『ここにミーコの墓を作ってあげよう』


 人形のように動かなくなった猫のミーコを抱いて静かに泣いている私に、“彼”は優しく諭した。

 “彼”はミーコを弔うために地面へ穴を掘り、私と一緒にそっと優しく土と草を被せてあげた。

 山道で拾った拳台の石を立たせ、白百合の花をまんべんなく植えてあげた。


 『ここは、神様が住んでいる場所なんだって』


 青空を埋め尽くす緑は涼やかに舞い、間隙から降り注ぐ太陽に澄み輝く。

 山の奥から響き渡る無垢な鳥の囀りに、清らかなせせらぎの音。

 木陰に深まる地面を照らすように咲き満ちる白百合の花。

 聖なる自然に満ちる空間が、私達を見守ってくれているような気がした。

 このような場所なら、ミーコも安心して眠りにつけるだろう。

 神様が一緒ならきっと寂しくはならないし、私達も会いに行ける。

 それに、この聖なる場所であれば、ミーコや私をいじめてくる奴らも入って来られないはず。

 きっと、そのために“彼”は私をこの秘密の地へ初めて案内してくれたのだろう。


 『ねぇ、――は“約束”を覚えているかな?』


 ミーコの墓の前で手を合わせている最中“彼”が不意に私へ問いかけた。

 もちろん、と私が顔を見上げながら告げると“彼”はよかった、と天真爛漫に笑った。


 『これからさ、神様に“お願いごと”をしようよ』


 いつになく無邪気な“彼”の笑顔に、何だか私も嬉しくて一緒に笑った。


 “彼”と一緒に朱い祠の前に立ち、ポケットに入っていた五円玉を賽銭へ投げ入れ、丁寧に手を合わせた。


 『『何があっても、ずっと一緒にいられますように――』』


 ほぼ同時に、無意識で声に奏でてしまった願い事を聞いた私達は、また笑い合った。


 ねぇ、君はあの時――。


 あの願いの言の葉にどんな祈りを込めていたのだろう――。


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