第一章⑥『白百合の記憶』

 太陽の光に煌めく葉っぱが、新緑の水晶みたい。

 深い緑で円状に囲まれた虚から見上げると、青空の湖みたい。

 翡翠と純白の絨毯によって、上品な甘い香りに包まれる。


 『僕もね、ここの白百合の花と青い空が大好きなんだ』


 隣で一緒に草の緑と百合の白に寝そべりながら、“彼”は教えてくれた。


 『白い百合ってさ、“純潔無垢”で“威厳”のある花なんだって』


 図書館で何気無く読んだ花図鑑に載っていた花言葉についても、“彼”は無邪気に語ってくれた。


 『ここで白い百合の花と空を眺めているとね……全ても自分のことも忘れて、心が綺麗になれる気がするんだ……それに』


 草村の上で転がり彷徨っていた片手に、“彼”の白くて綺麗な手が優しく重なる。


 『この場所でなら、僕は僕でいられる……――と“友達”でいられるから――』


 小さな手から微かに伝わった振動から、“彼”が怯えているのが分かる。

 私だけが知っているつもりだった。

 完璧のようにみえる“彼”が抱えているものも。

 心優しい“彼”が最も恐れていることも。

 だから――私は。


 『どこへ行っても、私は――と、ずっと“友達”だよ――たとえ』


 学校では一緒に笑い合えなくても。

 最後の言葉を呑み込みながら、それでも心からの声を絞り出した。

 すると、“彼”はこのうえ屈託無く笑ってくれた。


 『うん――約束、だよ』


 指を交わしてすらしていない何気無い言葉と笑顔。

 けれど、確かにそれは花のように純粋な気持ちだった。

 君にとっては指を千切るように重く、大切な約束だったのだろう。

 けれど、私は“彼”を置いて逃げてしまった。


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