第8話 邂逅

 ファーレンハイトが入港した3番ドッグには、レジーナを出迎えるために、政府の高官や軍人、研究者など一定以上の身分の者が多く参列していた。その中にヴォーダンエイム・ヘルシャフトの姿もあった。彼らは微動だにせず、レジーナが姿を見せるその瞬間を待っていた。周囲は静寂に包まれていた。ファーレンハイトの昇降口が開き、緩やかな傾斜を描きながら、タラップが地上まで伸びてきた。明るい白色を放つ照明が、左右にそれぞれ設置され照らし出す者の出現を参列者と同じく待っていた。永遠にも思えた数分の後、荘厳な雰囲気に包まれた中、レジーナ・アインクルシュが純白の体のラインが強調されたドレスを着た姿で現れた。彼女は無言でゆっくりとタラップを降り始めた。照明が斜め下方向からレジーナを照らす。光に包まれた彼女の姿は見る者にその高貴さと、神秘さを感じさせた。レジーナの後にハレルも続いた。レジーナに目を奪われ誰もハレルのことを気にも留めていなかったが、ヴォーダンエイム1人だけが、興味ありげに獣のような鋭い視線を向けていた。2人がタラップを降り切ると、1人の男がレジーナの前に歩み出て、仰々しくお辞儀をした。

「姫様、この度は地球への偵察任務まことに」

 今回の騒動はレジーナの権威付けのために、対外的には偵察任務に付いていたということになっていた。ファーレンハイトのネイハム及び乗組員、レッドラムのパイロットなど一部の人間しか真相は知らされていなかった。

「世辞はよい。父はどこか」

「は、謁見の間にて」

「分かった。私は父に会いに行く。務めご苦労。解散せよ」

「ははぁ」

 男が下がり手で合図すると、参列者たちはぞろぞろと自分の居るべき場所へと帰っていった。

「小生もご一緒させていただきましょう」

 そう言ってレジーナに近づいてきた男がいた。ヴォーダンエイム・ヘルシャフトだった。

「ヴォーダンエイム・・・」

「よくぞご無事で姫様。いかがでしたか、ガイストの乗り心地は」

「口に出す程のものでもない」

「左様で。・・・失礼、紹介が遅れましたな。私はヴォーダンエイム・ヘルシャフト。アインクルシュ家に使えるヘルシャフト家の長で、軍務を司る者です」

 ヴォーダンエイムはレジーナの後ろに居るハレルに声をかけたハレルはヴォーダンエイム程の大男を生まれて初めて見た。ハレルは半ば圧倒されつつも、そつのない返事をした。

「は、はじめまして。地球人のハレル・ニールダンです」

「ハレル・ニールダン。どうぞよろしく。ところでハレル少年、君がガイストを操ってレッドラムの一機を撃墜したと聞いているが、本当かな?」

「は、はい。仲間の命を奪ってしまい、すみませんでした。謝って済むようなことではないのですが・・・」

「なに気にするようなことではあるまい。彼は軍人であったし、姫様の貴き命を救うためだったのだ。大変結構!」

「しかし・・・」

「ヴォーダンエイム、そこまでよ」

 ドスのきいた強い声色でレジーナがヴォーダンエイムを止めに入った。

「ははは!これは失礼を。ガイストを動かした少年に軍人としては興味を持ったもので」

 ヴォーダンエイムは大して悪びれた様子もなく、形式的に頭を下げた。

「・・・行きます」

 レジーナが歩き出すと共に二人の衛兵がレジーナに従った。その後にハレルとヴォーダンエイムが続いた。ハレルにとってポリス・アステートも興味と好奇心を駆り立てる場所だった。白く照らされた廊下に、そこをどこからともなくやって来て、そして去っていく小型のロボットたち、エレベーターと呼ばれた乗り物、自動で開くドア。そのおかげで目的地に到着する間、重苦しい雰囲気を感じることはなかった。ハレルが気が付くと一同は重々しい空気を放つ、巨大なドアの前まで来ていた。

「こちらをお願いします」

 衛兵の一人が、壁に備え付けられた装置へレジーナを促す。レジーナは促されるままタッチパネルで操作を開始した。

「認証。レジーナ・アインクルシュ。どうぞ」

 機械的な女性の声が静かに鳴った。それからその姿に反してドアは音もなく軽快に開いた。

 レジーナたちの瞳に飛び込んて来たのは、太陽を思わせる暖かな光だった。光は吹き抜けの天井から注がれていた。床の中央には金の刺繍が彩られた、赤い絨毯が奥まで続くように映し出されていた。広間の最奥は壇上になっていた。左右にドアらしきものが暗く見えていた。壇上の中央に、椅子に腰掛けてこちらをじっと眺めている人物の姿があった。レジーナの父キュンメル・アインクルシュだった。レジーナたちは壇上の数歩手前で止められた。彼らが完全にそこで歩みを止めたのを確認してから、衛兵は彼らの傍を退いた。

「父上、レジーナ・アインクルシュただいま戻りました。・・・今度の地球回帰作戦に対して意見、具申をお許しください」

「・・・・」

 キュンメルは娘であるレジーナに対して、じっとその視線を注ぐだけで何も答えなかった。しかしレジーナには、父が話を続けるようにと促しているサインだと分かっていた。そう教えられてきたからだった。

「地球回帰作戦は愚かな行いです。私は作戦の中止、もしくは作戦内容の訂正を求めます。父上、私は地球で多くのことを体験しました。地球に住む人々と生活を共にしました。そこには各々の力で、お互いに補いあって、皆必死に生きようとする美しい姿がありました。地球人も、ルナリスも同じ人なのです。同じように営みがあるのです。その様式は違えど、所違えど、同じ世界を共有する者たちなのです。確かに文明や技術レベルは我々より遥かに劣っています。しかし、それは我々が彼らの過去と現在、そして未来を選定し、導き所有物として良い理由にはなりえません。それに彼らは地球の環境を整え、人類がまた生活できるようにしてくれた者たちの末裔なのです。敬意を払うべきなのです。父上、ですから」

「その少年は」

 キュンメルはレジーナの話を遮り、レジーナの後ろで佇むハレルに視線を移した。レジーナは父の対応に、胸の奥から何かが沸々と湧き上がってくるのを感じながらも、態度に出すまいと自制していた。

「彼は」

「僕はハレル・ニールダンといいます」

 レジーナがハレルの名を父に告げようとした時、ハレルが前に歩み出て自らを名乗った。

「レジーナさんから、その作戦のことは聞いています。ルナリスの皆さんが、本当に地球へ来て暮らしたいのなら、僕はそうすれば良いと思います。でもそうするんだったら、その地域の決まりや習慣を尊重してください。そこに住んでる人たちのことも。そしてあのガイストを使って、人を傷つけるようなことはしないでください。ガイストに乗っていると皆の声が聞こえてくるんです。今こうして僕の声が聞こえているように、聞こえてくるんです。それで、僕たちとその思いを知ってください。僕たちも皆さんの思いを知れるよう努力します。ガイストを通して話し合いましょう。きっと解り合えるはずです。僕たちの生き方を定めないでください!」

「・・・君、ハレル君と言ったな」

 キュンメルが静かに口を開いた。

「はい」

「君はレジーナが奪取したガイストを操縦し、ジュピターシュタシスが製造したレッドラムと戦い、ここまで来た。それは今の話を私に聞かせるためかね?」

「そうです」

「そうか。その行動力は賞賛に値する」

 溜息をつき、キュンメルはゆっくりと立ち上がった。そのまま落ち着いた足取りで、壇上を降りてきた。ハレルの前までやって来ると、レジーナと同じ翡翠色をした瞳をハレルに鋭く光らせ、諭すように続けた。

「君たちは何か誤解をしているようだ。しかしそれは無理もない。レジーナの語った地球回帰作戦は、それが真実ではないからだ。君は先ほど話せば解り合えると言った。レジーナとハレル君の主張は聞かせて貰った。ならば、今度は君たちが私の話を聞く番だ。そうだね?」

「父上、私の話はまだ・・・!」

「お前は黙っていろ」

「この、なにを!」

「レジーナさん・・・落ち着いて」

 ハレルがレジーナの手首を優しく掴んだ。レジーナは今にもキュンメルの痩せぎすな顔に、パンチを喰らわそうかという勢いだった。傍に控えていた衛兵がいつでもレジーナを取り押さえられるような構えを見せていた。ヴォーダンエイムはその様子を不敵な笑みを浮かべて観賞していた。

「・・・どうかな?ハレル・ニールダン君」

「その通りだと思います」

「道理を弁えている人間を私は好きだ。お前たちは下がれ」

 手を払うような動作で、キュンメルは衛兵たちを下がらせた。彼らが立ち去った後、謁見の間にはハレルたちしか残っていなかった。広大な空間が、更にその規模を大きくしたような錯覚があった。

「先ほども言ったが、君には感心している。ガイストを操り、ジュピターシュタシスのパイロットを一人殺した。報告書を読んで、実に驚いたよ。君はどうやらガイストに選ばれたらしい。マシンに自己の意識があるとは思えんが、私はそう感じた。ハレル君ならガイストの性能を更に引き出してくれるだろう」

 キュンメルの声色はどことなく上ずっているように聞こえた。そのまま三人の間を通り抜け、広間の中央まで歩いていく。床に向かって手をかざすと、円筒状の装置がその場所から音もなく伸びてきた。

「来たまえ」

 キュンメルに言われハレルとレジーナはぞろぞろとキュンメルの傍へ寄った。ヴォーダンエイムは二人の後ろをゆっくりとした足取りでついて行った。

「ハレル君にはまだ難しいかもしれないが、レジーナ。お前なら解ってくれるだろう」

 キュンメルがそう口にすると、広間の明かりが瞬時に消えた。キュンメルが操作している装置から発せられている青白い光だけが彼らを照らしていた。

「見たまえ」

 装置から何かの映像が暗闇に投影される。そこには、木星を背に八面体の物体が宙を漂っていた。その周囲には命綱を付け船外活動を行っている数人の作業員の姿があった。八面体の物体は映像で見る限り、人間より数倍大きく見えた。

「これは・・・なんです?」

「ジュピターシュタシスの木星探査船から送られてきた映像だ。四年も前になる。限界稼働領域の調査中に突如出現した。はじめはデブリか、小惑星か何かだと考えられていた。しかしある時、調査員の一人が囁き声が聞こえると言い出したそうだ。その言語も、意味も理解出来なかった。それから数日後、同じように囁き声が聞こえると訴える人数は増えていった。それは電波か音波か、または光波によるものなのか。それは解明出来なかったが、その発信源となっているのはあの八面体だということが判明した。それから彼らはありとあらゆる接触を試みた。絵、音声、文字、光、バイナリー、モールス、調査ポッド及び人員を使って文字通りの接触。その全てが徒労に終わった」

 もう一つ、次に投影されたものは画像だった。長方形をした岩のような物に、脊椎や肋骨を彷彿とさせる骨らしきものが人型に見えるような形で埋まっていた。またその傍に、幾何学的で人工的に創造されたと思しき物体の影が認められた。

「私はその報告を受けたとき、この漂流化石を思い出した。人類が月へ進出した際、外宇宙から流れてきたとされる。あの八面体の物体とは似ても似つかないがね。この漂流化石の存在が、当時の人々に外宇宙に棲む知的生命体の存在を知らしめた。人々は自らを守るために、軍部を設立した。話を戻すとしよう。八面体の調査を開始してから間もなく、彼らの殆どはその精神を壊して廃人になってしまった。中には狂乱の内に事故死した者、自ら命を絶った者、仲間の命を奪い、そして奪われた者もいた。その中にガイストの設計者、開発者もいた。2人は、授かったと言い残して宇宙服を着たまま、船外に飛び出し帰らなかった。私はこの物体が何であれ、これを人類に対する攻撃と解釈している。遂に人類にもその試練がやって来たのだと。

 歴史上、人類が1つにまとまったことはない。例え外敵の存在でまとまっていたとしても、自然が物質を風化させるように、組織も腐敗する。それを構成している人間の心が脆弱だからだ。どう体制を改善した所で、人間個人の心や精神性までは変えられない。ハレル君、ガイストはそういう人の心や思考、精神を、ある1つの意思の下に統一するための、洗脳兵器なのだよ。人類を守るためのモノだ。人類は今こそ1つとなって、脅威に立ち向かわねばならないのだ」

 投影されていた映像と画像が消え、広間にはまた光が戻ってきていた。キュンメルが操作していた装置は役目を終えて、その姿を縮ませていた。

「つまり、地球回帰作戦の本当の狙いはルナリスも地球人も、一緒くたに来るべき争いのための尖兵にしようということですか。父上」

「そうだ。庶民や一部高官の中で、地球に帰りたいとする気運が高まっていたことは知っていた。だが地球に回帰するのは、彼らではない。ガイストのパイロットだ。その役目をお前に果たさせようと思っていた。だが、ハレル君の方がその能力があるようだ」

「馬鹿げてる!・・・あの物体が敵だというのは父上の勝手な解釈でしょう!?」

「実際に命が奪われたのだ。統治者として看過できん」

「僕は、納得できません・・・。皆をそんな危険なことに駆り立てるなんて。確かに亡くなってしまった方々はいるんでしょうけど、だからって人類を巻き込むなんて」

「では、君はあの物体で友人の精神が壊されてもいいのかね?」

「それは・・・僕がそんなことさせません!」

「ならば、我々に従うのだ。アレは敵だ。敵は殲滅する必要があるのだ。そうだなヴォーダンエイム」

「左様ですな我が君」

「この作戦の総指揮はヴォーダンエイム・ヘルシャフトが執る」

「ヴォーダンエイム。お前、知っていたの?」

 レジーナが後ろで歪な笑みを浮かべながら佇むヴォーダンエイムを凝視する。

「もちろんですとも姫様。そのような怖い目で見ないでいただきたい。我が魂魄凍る思いですからなぁ」

「何をいけしゃあしゃあと・・・!人を争いに駆り立てるだけの男が!」

「レジーナ口を慎め。ヴォーダンエイム、娘とハレル・ニールダンを使え。役に立つだろう」

「御意。・・・しかし我が君、姫様の言は間違ってはおりませんよ」

「なんだ?」

「こういうことです」

 ヴォーダンエイムが無骨な腕を掲げると、ハレルたちが入ってきたドアが開きそこから武装集団がなだれ込んできた。ヴォーダンエイムを除く三人が取り囲まれた。

「ヴォーダンエイム、おぬしなにを」

「我が君が人類を想うその志を、小生がより昇華させて御覧に入れようと思いましてねぇ!正直なところ、地球人だけならまだしも我が部下、我が同胞までも操り人形にされては困るのですよ。しかしご安心ください。ヘルシャフト家が人類を脅威から守り、そして導くのですから!」

「どういうことだヴォーダンエイム」

「つまりは!ガイストの力であの八面体を解析するのですよ。目的はなんなのか、どこからやって来たのかをね。そしてそれが判明次第、奴らの星系に攻め入り占領する。こうして人類は永年夢見てきた恒星間飛行が叶うと同時に、銀河へ進出できるのです!」

「世迷言を・・・」

「無茶な!だいたい膨大な距離を人の寿命が尽きる前に移動できる動力源はないし、未知なる相手の領域へ攻め入るなんて・・・。それに征服できたとしてそこで人が暮らせるかどうかも分からない!」

「できますとも。縮退路を搭載したガイストと、そしてその後継機フェノメナムであれば!」

「フェノメナム・・・?後継機・・・?」

「ガイストが姫様に奪われた折、小生が密かにジュピターシュタシスに依頼して製造させた機体です。ガイストとフェノメナムがあれば可能でしょう!それに、宇宙船の動力も全て縮退路を搭載すればよいのですからなぁ!」

 ヴォーダンエイムが独り我が世の春を謳歌するがごとく感極まり、その巨体を感激のあまり震わせている姿を後目に、キュンメルは懐に隠していたデバイスをブラインドで操作した。

「これで分かっただろう。人間個人の考えや主義主張がどれだけ愚かであるかを。彼のような者を傍に置いてきた私の落ち度ではあるが」

「我が君、私はヘルシャフト家の人間としてその務めを果たしてきたつもりです。随分なおっしゃり様ですな」

「その試み、上手くいくか見物させてもらおう」

「なんですと?」

 突如室内にビープ音がけたたましく鳴り響いた。ドアにはシャッターが降ろされ、ヴォーダンエイムたちの退路を閉ざした。

「こちらも抑えておかぬとは愚か者め」

 壇上にあった、左右のドアからまた違う武装集団が現れたかと思えば、発煙弾を間髪入れずに3人の周りに投げ入れた。

「レジーナさん!!」

 ハレルは傍にいた男の股間へ蹴りを喰らわせてレジーナを連れて隠れようとした。しかしそれより早くレジーナがハレルの手を取った。

「ハレル、こっちです!」

「え。ええ!!」

 レジーナはハレルの手を強く握りしめながら壇上まで駆け上がった。

「ええい、メンテナーめしくじったな!!応戦しろ!!」

 ヴォーダンエイムの怒号が銃声と共に響く。耳元でひゅっと風を切る音が聞こえた。

「この先にエレベーターがあって、そこから逃げられます。私たちはガイストを・・・!」

「でもまだあの宇宙船に置いてくれてるかどうか」

「心当たりはあります!」

 2人は薄暗い廊下を通り突き当りにあるエレベーターに乗って下へ降りた。謁見の広間から聞こえてきた反逆の騒音はエレベーターのドアによってその道を阻まれた。レジーナは、2年前の記憶を頼りにガイストを奪取した格納庫へと向かっていた。道中、ヴォーダンエイムの配下と幾度が出会い、その度に追跡を振り払った。そこから判明したことは、彼らはまだセキュリティシステムのその全てを掌中に収めている訳ではないということだった。いくつもの区画を渡り歩きながらも、2人はようやく目的地にたどり着いた。

「認証。レジーナ・アインクルシュ」

 問題なくレジーナの名で認証が通り、ドアが開く。その先にガイストの姿があった。

「良かった。さあ行きましょう」

 2人はコックピットの傍まで行き、ハッチを開いた。ハレルはその内部の様子を見たとき懐かしさに包まれた。

「さあ乗って!」

 レジーナはハレルをコックピットへ押し込んだ。

「レジーナさんも!」

 ガイストの起動音が空間に反響する。ハレルはレジーナへ手を伸ばした。しかしレジーナはその手を取ろうとしなかった。

「何をしるんですか!早く」

「私はここに残ります」

「な、なんで」

「私は、レジーナ・アインクルシュ。ルナリスの統治者であり、彼らを導く者の娘です。父の生死は今となっては分かりません。それにヴォーダンエイムは危険な男です。・・・民衆を奴の好きにさせる訳にはいかないのです」

「そんなことをしたら、レジーナさんも洗脳されるんじゃ!」

「そうかもしれない。それでも私は私の務めを果たします」

「そんな・・・!」

「ごめんなさいハレル。我がままな女で」

「レジーナさ」

 コクピットのハッチが急に閉じられ、ハレルの視界はモニターを彩る濃い紺色に染まった。

「な、なんだ・・・?」

 ガイストはレジーナの操作によって、その体を格納庫から港へ移動させられていた。その間ハレルは村が襲撃された時にも感じた怖気が、身体中を駆け巡っていることが分かった。得体の知れない圧倒的なまでの凶暴な思惑が、ハレルの脳内に流れ込んできていた。獰猛で、容赦がなくて、獣のように血に飢えている。

「ヴォーダンエイムって人・・・」

 ガイストは港の一番ドッグに運ばれた。全天モニターが外の景色を映し出した。中はオレンジ色の照明がほのかに点いていた。薄暗い周囲を見回してみると、ガイストの他に何も無い様子だった。

「だ、誰か!?聞こえますか?」

 レジーナがファーレンハイトに連絡を取っていた時のように、通信を試みたが無駄だった。

「誰かいませんか!?」

 ハレルは脳内で強く叫んだ。また誰かの声がこちらに聞こえてこないかも確かめた。いずれも反応はなかった。レジーナがやったように、自分も壁を破壊して宇宙に飛び出すべきか迷った。

「・・・そうだ!」

 ハレルはレッドラムとの戦闘中、放たれたミサイルを無力化したことを思い出した。

「それで開けることができるかも」

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