第2話 機械巨人と1人の少女

 チュンチュンと鳥が鳴きはじめていた。山の尾根に沿って、太陽の光が輪郭を表し始めた頃合い、ハレルは起床した。顔を洗い、適当なパンをつまみ食いして荷馬車の準備を始めた。貯蔵庫から麦の束を取り出しては積み、取り出しては積んでいた。積み終わると、大きな布で荷台を覆って、それぞれ四方の角を荷台に結び付けた。馬小屋からいつもの相棒を連れ出して、こちらも荷台と結んだ。

「ちょっと待ってて」

 ハレルは家に戻り用意してあった洋服に着替えた。

「よし」

 家を出て荷馬車に乗り、馬の足を進めさせる。

「日の出まで、どこまで行けるかな」

 まだ誰も起きていない薄明かりの中、ハレルはゆっくり街へと向かって行った。集落を取り囲む木々を抜けて、毎日のように通っている田舎道に出る。荷馬車の轍とは別に、それよりも太くはっきりとしたものが地面に残っていた。昨日見たアンドレア家の車のものだった。その上をなぞるように、馬は荷台をとろとろと引いて歩いていた。ハレルの目に見慣れた麦畑の光景が徐々に姿を現した。夕暮れ時に見せる表情とは違い、淡い光に照らされたその姿は、今はどこか儚げに見えた。あと数時間もすれば、またキースたちがここへやってきて作業を始める。ハレルも早くその中に加わりたいと思っていた。

 正午より前に、ハレルはメディナ街へとやってきた。川にかかった鉄骨で造られた橋を渡る。その先は、ハレルたちが暮らしている世界とはまるで別物だった。メディナ地区の中心地で金、知識、文化、娯楽などあらゆる分野のものがこの街を中心に集まっていた。車の走る音、路上から響いてくるメロディ、客寄せの必死な声。どれもハレルの世界にはない賑やかさだった。青空の真上近くまで昇った日が燦々とその喧騒でできた世界を照らしていた。街には石造り、レンガ造りの建物が乱立しており石畳で出来た道路を車が走っていた。雑踏の中をこれまで以上にゆっくりと進ませながら、ハレルは目的の建物を目指していた。行き交う人々はハレルをちらちらと見ていた。

「妙に見られてるけど・・・この服そんなに変かな」

 群衆からしてみれば、ハレルの服装より今時馬を使っていることが珍しかったのであった。移動には車か、路面を走っている電力で動く箱の形をした乗り物、電車を使えばいいのだから。何もかもが目まぐるしく動く街並みに、いつものことながら圧倒されつつも無事に目的地に辿り着くことができた。

 アーチの形をした鉄でできた門が設けられていた。その内側には平屋の大きな建物があって、取り付けられた出入り口から、作業着を着た人物たちが出たり入ったりをしていた。その内の1人がハレルに気が付くと、傍までやってきて鉄門越しに声をかけた。

「なんの用?」

「僕、ハレル・ニールダンといいます!ドートさんに麦を持ってきました!」

「あいつものね。今開けてやるから」

 作業員の一人がぶっきらぼうに言い放ったすぐ後、門は開けられた。

「場所は分かるんだよね?」

「はい!」

「じゃよろしく」

「ありがとうございました!」

 門をくぐり敷地内へと足を運ぶ。ハレルは作業員たちが出入りしている扉を横切り、建物の裏手まで回ってきた。そこに煙草を吹かしながら、何やら資料を眺めている中年の男が立っていた。

「おおハレルか。いつもご苦労さん」

 男はハレルに気が付くと、資料を脇に置いてハレルの荷馬車まで近づいてきた。

「ドートさんこんにちは!取り合えず今ある分持ってきました。これで足ります?」

「まあ何とかなるだろう。とりあえずこいつらをそこの台へ置いてくれるか?代金を取ってくる」

「わかりました!」

 指示された場所に丁寧に麦の束を置いていく。その途中でドートが戻りハレルを手伝った。置き終わった段階でハレルに封筒が手渡された。

「ありがとうございます!助かります」

「あとこれ、うちで作ったパンだよ。帰り道のおともに持ってきな」

「いいんですか?大切な商品でしょ?」

「俺がいいって言ってんだからいいんだよ」

「ありがとうございます!」

「またよろしくな」

「はい!」

 半時もない短いやり取りだった。これだけの為に数時間かけて街へ出向くことを考えれば、あの車というもので移動したがるのも無理はない、とハレルは思った。

「でもまあ行きに比べて帰りは楽だよな」

 昨晩と同じくたてがみを撫でてやる。この馬はそうされることが好きらしく、これまでに拒まれたことは無かった。日はもう空高くまで昇っていた。帰り着く頃には夕暮れだろうか。

「よし、それじゃあ行こう」

 また鉄門をくぐり、通ってきた道を引き返す。途中、シーラお嬢様に出ぐわしたりしないか、などと思ってもみたがそれは幸か不幸か叶いそうになかった。

 ハレルの言った通り、帰りは楽だった。荷物がきれいさっぱり無くなったおかげで、行きより足の進みが良い。とことこと軽快な足音を鳴らしながら荷馬車は友人たちがいる住処へと近づきつつあった。街を後にしてからしばらくすると、人工的な建造物の姿は次第に減っていき代わりに木々や農場、地平線の向こうにうっすらと山脈がよく見えるようになった。街中であった明るい雑音も今となっては聞こえなかった。別世界から帰ってきた、とハレルは嬉しく思えた。

 さらに数時間が経過した。そろそろ太陽の表情が眩いばかりの白色から、オレンジ色茜色へと移り変わっていく頃合いだった。

「思ってた以上に早く帰れたな」

 遠くからでも、自分たちが作業している麦畑が視認できる距離にハレルは居た。しかし畑に人らしき影を認めることができなかった。

「あれ?どうしたんだろ」

 見間違いかと思いそのまま荷馬車を進めた。目と鼻の先ほどの距離に来たが、やはりそこにはいつもの仲間たちは居なかった。荷馬車を降りて道の脇に繋ぎ歩いて散策した。麦畑は昨日と同じ状態で、まだ刈り取られていない箇所は綺麗に残っていた。

「・・・とにかく一旦戻ろう」

 ハレルは荷馬車に戻って馬を少し急かした。ほどなくしてあの針葉樹の群れが見えてきた。が。

「なんだあれ!?」

 そこには巨大な、今まで見たことがない何かが居た。周囲に人の群れができている。野次馬だった。馬の足を更に早めた。

「ど、どうしたんです!?これ!?」

「あぁ、ハレルか。俺にも分からんよ。今朝空からいきなり降ってきたんだ」

「降ってきたぁ!?」

 ハレルも野次馬の群れに加わった。彼らの集落で一番の年長者、ハリーと呼ばれている青年がそのことを教えてくれた。巨人の重みで幾つかの木々が折れたり跡形もなく木っ端みじんになっていた。周囲には落ち葉や折れた枝などが、何かに吹き飛ばされたように散乱していた。

「なんか・・・人、みたいですね?おとぎ話に出てくる巨人のような」

 それは人間と同じく胴体と四肢があるように見えた。足の裏と思しき表面には何もなく、人間のように足の指もなかった。

「今の体勢からもう全く動かないんだよ。撤去もできないし、どうしようかな。反対に行けば顔も見られるぞ」

「顔?」

 ハレルは言われるがまま、反対方向へ走った。

「完全に巨人じゃないか」

 右手にはまるで四つん這いのような体勢で倒れかかっている巨人の姿があった。しかし、明らかに自分たちとは異質なモノだった。肌は少し白みがかっているが光沢があり、まるで鉄か何かでできているようだった。人間と同じく関節があり、首や首周りも含めてその部分は濃い灰色だった。肩や腰と思しき部分は適度な丸みを帯びていた。脚の部分を見てみると靴を履いているようにも思えた。

「これが・・・顔?」

 こちらもやはり人間とは程遠いものだった。頭の部分は胴体などと同じ白色で左右には二本の短い角のような物が後ろへ伸びていた。その下は他の部分とは違い真っ黒になっていて、下方向に緩い弧を描いていた。更にその下はまたあの白い鉄板のようなもので覆われていて、口や鼻といったものも確認できなかった。

「マスクしてるみたいだ。・・・あの黒い部分が目?」

 顔以外にもハレルは観察してみた。胴体を支える為に、両手は地面に付いていて、手の先には人間と同じそれぞれに五本ずつ指があった。両腕はすらっと伸ばされていて、こちらも若干丸みを帯びていた。

「なんか、ちょっと丸っこいんだな」

 次は胴体に目を向けた。胸の辺りには、鎧のような白いプレートが取り付けられていた。その中央にはまた別の棒状のものが縦方向に取り付けられていた。腹部は左右対称に同じ白色をしたプレートが巻かれるように取り付けられているだけだった。腰の部分にも取り巻くようにそれがが付けられており、丁度股間に当たる部分には更に別の形をした防具に見えるものが取り付けられていた。はじめ後ろ姿を見た時、高い位置にあるので分かりづらかったが、後ろにも同じ部分が取り付けられていたことをハレルは思い出した。

「・・・ハリーさんは空から降ってきたって言ってたけど、本当どこから来たんだ」

 ハレルは巨人の指に振れ、撫でてみた。すると、グォォン・・・と低くくぐもった雄たけびのような声が目の前から聞こえた。そして顔のさきほどまでは真っ黒だった部分が、緋色に輝いていた。

「う、動いたぞ!!!!」

 ハレルの悲鳴にもにた叫び声を聞きつけ、下半身に集まっていた人々が周囲に群がった。皆はハレルより数歩も後ずさっていた。ハレルも含め皆固唾を飲んでその巨人を凝視していた。

「お、おいハレル!危ないぞ・・・」

 後ろからキースの声がする。しかしハレルは動かなかった。

「なんとなくだけど、大丈夫な気がするんだ」

「はあ!?なにのたま・・・あ!」

 胸に取り付けられた棒状のプレートが、ガクンと頭を降ろすように下方向へ向けられた。それに隠されていた丸い線が幾重にも重なった部分が露出された。そしてそれらがガチガチと音を立てて口を開けるように開いた。

「女・・・の子?」

 ハレルにとってその光景は夢でも見ているかのようだった。口を開けた丸い部分から一人の少女が転がり落ちてきた。長い薔薇色の髪が美しく乱れていた。見たことがない意匠をした服を身にまといながら。

「うぐッ!!!」

 尻もちを尽きながらもハレルは少女を抱きかかえた。清流の水のように透き通った白い肌で、すらっと瞼をなぞるように伸びた眉毛は髪と同じ色をしていた。

「も、もし!?もし!?」

 何度か呼びかけたが反応がなかった。体を少しゆすったりもしたが無駄だった。後ろの方で遠巻きに見ていたキースが飛び出してきて、ハレルのそばまでやってきた。

「・・・人か?」

「綺麗だね」

「あ?ああ。生きてんのか?」

「どうだろう?」

 すらっと通った鼻筋の下にある小さく薄い唇を持った口に頬を近づける。

「キスでもしようっての?」

 キースがからかうように言う。

「ち、違う!!息してるか確認してるんだ」

 ハレルの頬に温かな人の息がわずかに当たっていた。

「生きてるよ」

「手でもいいだろうによ・・・」

 ハレルとキースは少女を2人で持ち上げた。

「生きてるみたいだ。マリカ!介抱してやってくれ」

 キースが叫ぶとマリカがひょっこり現れ足早に駆け寄ってきた。

「この人、あの中から?」

「どうやらそうらしい。ハレル?」

「うん。胸の所から落ちてきたんだよ」

「特に大きな怪我をしているようには見えないわ。私のベッドに寝かせるわね」

 マリカが無言で何やら合図を送ると、2人の少女が木の枝でできた担架を持ってきた。ハレルとキースはそっと『病人』を担架に寝かせてやった。

「頼んだ。ところであれどうするよ」

「ハリーさんとかに相談した方がいいんじゃないかな」

 ハレルとキースはまだ野次馬をしていたハリーに駆け寄った。

「あれどうしますか?」

「領主様に報告した方がいいんじゃ?」

「・・・・」

 ハリーは考え込んでいた。がすぐに口を開いた。

「取り合えず今はあれをどかして周りを掃除した方がいい。家畜の小屋も吹き飛んだ所があるんだ。領主様に伝えるのはまた改めて考えよう。ハレル、動かせるか?」

「えぇ!?何で!?」

「ハレルが触ったら、何か動き出したかのように見えたからさ」

「ぐ、偶然ですよ・・・」

「とりあえず見てみようぜ」

 キースに引っ張られハレルはまた少女を受け止めた位置まで戻ってきた。振返るとハリーがそそくさとその場から去っていく様子が見えた。

「肩車してやるから、どこかにひっかけて入ってみろよ」

 キースに言われるがままにハレルはキースの肩に乗る。

「いくぞ・・・ッ!・・・よ!」

 ふらふらしながらキースは立ち上がった。ハレルは手を少し伸ばせば、少女が落ちてきた丸い口のような部分の縁に届いた。

「立つよ?」

「お、おお・・・!」

 ハレルは得たいの知れない金属のようにも思える部分を手で掴み、それを支えにして立ち上がった。そしてそのまま腕を引っ掛けて中に入った。

「何か見えるか!?」

 下からキースの声がする。ハレルの目は暗闇にまだ慣れていなかった。

「暗くて分からない!部屋みたいになってるけど。・・・あ、椅子みたいなものがある!!」

 きょろきょろ見渡していると、部屋の中央に、椅子の輪郭を確認できた。しかしそれ以外の物はなかった。入ってきた入り口の縁を足場にしてハレルは立った。そして手を伸ばして椅子らしき物体を掴んだ。

「な、なんだ!?」

 ハレルが椅子に触れた直後、室内が濃い紺色の明かりに包まれた。周囲には何もなく、車の運転席よりもごつごつとした座席があるだけだった。そして、ガタンと空間が揺れた。ハレルの体がだんだんと横になってきていた。

「ハレルー!?!?お前何かしたかー!?」

「な、なにもー!!!!」

「顔に赤っぽい光が出てきたぞ!」

 外で指に触れた時に、奇怪な雄たけびと共に灯ったあの光のことだとハレルは分かった。

「こいつ動くの!?」

 今となってはハレルの体は完全に横ばいになっており、両腕と両脚で落ちないように突っ張っていた。

「も、もう無理・・・」

 痙攣が止まらずとうとうハレルは先が見えない、海のような深い青色の中へと落ちていく。かと思われたが、すぐに硬い床に叩きつけられた。

「痛ったぁ・・・・なんだ、足がつくのか」

「おーい!!生きてるかー?」

 下からキースの声が聞こえてくる。

「生きてるよー!!」

 叫び返しながら見慣れない座席に座る。するとさきほどまで紺色に静かく光っていた室内に、広大な山脈が連なり地面には透き通った湖が見える自然の風景が徐々に表れた。

「え、えなんだこれ」

 上下左右、どこを見渡してもハレルの周りはその清らかな美しい風景に囲まれていた。唯一異なるものは、未だ開放された出入口から見えるいつもの空模様だけだった。

「ハレルー!そいつ座ってるぞ!」

「座ってるんだ」

 キースの声がさきほどに比べて遠のいていた。ハレルはこの鉄の巨人が今座っているのだとはじめて分かった。さっきの揺れは上体を起こしていたから起きたものだった。

「へえ・・・」

 映し出された景色に見惚れながら、この高さで見る集落の景色はどんなだろう、とふと思った。それから間もなくしてハレルが見たいと願った景色が周囲に表れた。

「紙芝居みたいに変わっていくんだ・・・な、なんだ?周りから声が聞こえる。皆の声が。こんな近くで」

 その頃下の世界ではキースの周りにまた野次馬ができていた。

「さっき、倒れてなかった?」

「ハレルが動かしてるんだろ?」

「人みたいに座ってるけど、あれ何でできてんだ?」

「踏みつぶされたりしねえよな・・・」

 などなど様々な感情が交錯していた。

「動かせるんならどこかに避けてもらわないと」

「だな」

「ハレルー!!そいつをどこかへどかせられないか!?」

「どこすったって、どうやって動かせばいいんだこんなの。車ですらしたことないのに」

 再度周囲を確認してみたが、車にあるようなハンドルやペダルといった動かすための装置は無かった。

「取り合えず立って歩いてもらうしかないよな・・・立って歩く・・・えぇ・・・・うわっ!!」

 まず立って、そして歩くという動作を、ハレルが頭の中で想像した時、目の前の景色を見る視線が一気に高くなった。それと同時にもの凄い力で下から上に引っ張られている感覚があった。また近くで皆の声が聞こえてきた。重なり合って聞こえているため、ハレルにはそれぞれが何と言っているのか判別することはできなかったが、唯一つ分かったことは、皆怯えているということだった。

「ど、どうなってるんだよ・・・なんで・・・」

 どこからともなく聞こえてくる恐怖の声に、ハレル自身も慄いていたが、数多の声の中に一つ他とは声色が違うものがあった。それはキースの声で、しきりに立った!と叫んでいた。

「キースの声?立ったって言ってる。こいつ立ってくれたのか!?うわぁ!!!」

 思わず自分も立ち上がったハレルは、目の前の壮観な景色に圧倒され腰を抜かした。今までは見上げていただけの風景をハレルは一人、空の彼方まで見渡すことができた。いつもの場所、いつもの空気、いつもの静けさ。

「見る場所が違うだけで・・・」

 鳥はもっと高い所から自分たちのことを見下ろしているのだろうか。雲はそれよりも高い場所から。太陽は更に高く遠くから。昨晩複葉機が頭上を悠々と飛んでいたことを思い出した。人は自分では飛べないから、何かの力で飛ぶしかなかった。しかしそれは、人間の探求心を肯定し人間の願いを、希望を翼に乗せて羽ばたいてくれるものだった。

「・・・こいつは」

 今もな開いている丸い口。その先には真っすぐ付き出した棒状のもの。ハレルは座席から立ち上がり、ゆっくりと外に出た。少し肌寒い風が体を包む。気が付いたら、空は完全に茜色に染まっていて、その向こう側にうっすらと星々が煌めいていた。

「あそこから来たのか?」

 ハレルがそう言いながら指を指した先には、その煌めく輝きの海があった。鉄の巨人はハレルの問いには答えない。またハレル自身も返答があるとは思っていない。しかし、その朱色に染まった部分は自分と同じものを見つめているような、そんな感覚があった。すると巨人が静かに、左手をハレルの傍まで寄せてきていた。掌を上に向けていた。

「・・・・」

 室内から外へ出た時以上に、慎重に巨人の掌へと足を運ぶ。ハレルが無事乗り移ると、巨人の指がかるく内側へ曲がった。ハレルは中指にしがみつくことができた。それを待っていたかのように、ゆっくりと巨人は左腕を空まで伸ばした。

「掴めそうだ!」

 ハレルの瞳は輝きに満ちていた。まるで生まれたての赤ん坊がはじめて星空を見た時、届く筈もないのにしきりにその光を掴もうと手を伸ばす。ハレルも同じことをしていた。勿論その小さな手に、それ以上に小さな煌めく輝きが燈ることは無い。しかしそうせずには居られなかった。ハレルはそうしたかった。

「わっ!!・・・ははは!!」

 星に手を伸ばすことに夢中になり、何度か指の間から滑り落ちそうになった。しかしそれでもそこから動こうとはしなかった。そのまま暫くの間、巨人の手の中で過ごした。夜のとばりが降り立ち、よりはっきりと星々の輝きが強くなっていた。その頃になってハレルはようやく巨人を動かした。

「どかすといってもなあ」

 彼らの集落にこんな巨大なものを格納しておける場所などはなく、集落の周りも木々が生息しているか畑が殆どであった。結局、巨人が倒れていた近くの森に座らせることにした。そうしてハレルが村に戻ってきたあと、ハリーにどかせるのに時間を駆けすぎだと怒られた。それに対して特に反論することもなく、謝罪をしてその場を済ませた。ハリーもそれ以上の追求をすることはなく、代わりに明日壊れた鶏小屋の修理を手伝うようにハレルに要請した。

「鳥小屋の修理分かりました!ところで、あの人まだ目覚めないんです?」

「そうらしいね。目立った外傷は無いって言ってたけど」

「あいつのこと聞きたいんですよね」

「巨人か?」

「はい。どこから来たのか気になりませんか?」

「俺たちに害がないならなんでもいいさ。それよりハレル、あれ伐採とか面 倒な作業に使えないか?」

「えぇ?」

「いやな、人間の形をしてるだろ。俺たちみたいにできないか?」

「・・・・まあできるかも。しれません。領主様にはなんて言うんです?」

「そこは上手くするさ。明日よろしくな」

「はい!」

 ハレルとハリーは別れた。

 翌日ハレルはキースとマリカの家を訪ねた。

「おはよう。あの人は?」

 ハレルの問いに対してキースは、無言で首を左右に振る。

「医者に見せた方がいいかもな」

「あの人空からあれに乗って降ってきたんだろ?役に立つのかな」

「見かけは俺たちとおんなじ人間なんだから、なんとかなるんじゃないの」

「あらハレルおはよう」

「マリカさんおはようございます」

「会いに来たの?こっちよ」

 ハレルはマリカの寝室に通された。ベッドと鏡台、小さな長方形の窓があるだけで質素な部屋だった。白い清潔に見えるベッドには昨日の少女が目を閉じ眠っていた。

「・・・・・」

 小窓から差しこむ光で、少女の肌は美しく輝いていた。本当に同じ人間なんだろうか、お話に出てくる天使なのではないだろうかとハレルは見惚れながた思った。

「ん・・・」

 その天使にも見紛う少女が小さく声を上げた。ゆっくりと瞼が開かれ、少し切れ長の優しい雰囲気がある目の中に美しい翡翠の色をした瞳が表れた。そしてきょろきょろと部屋を見渡して、明るい赤色をした瞳をもった少年と視線があった。

「あ、あの・・・ここは?」

 少女は透き通った声でやや不安げに三人に尋ねた。

「こ、ここはメディナ地区ってところでええーと・・・その外れにある俺たちが暮らしている小さな集落です!」

「め、メディナ?」

「俺はハレル・ニールダンっていいます!こっちは友人のキースとその婚約者のマリカです。あなたのお名前は?」

 はきはきとしたハレルの態度に若干面食らった様子だったが、少女は自身の名前を答えた。

「れ、レジーナ・・・だと思います」

「思います・・・?」

「分からないんです。自分がなんなのか・・・」

「じゃ、じゃああの巨人のことも?」

「巨人?ですか?」

「はい、中からあなたが落ちてきたんです」

「な、なかから?」

「病み上がりの人相手に」

 ハレルとレジーナと名乗った少女の間にマリカが割って入った。

「レジーナさんひとまずこれをどうぞ」

 マリカは食欲をそそる匂いがするスープが入ったお椀を持っていた。

「お口に合うか分からないのですけど」

「・・・ありがとうございます」

 レジーナは恐る恐るスープに口を付けた。まるで毒でも入っていないか疑っているようだった。

「!美味しいですこのスープ」

「ふふよかった」

「ありがとうございます。ええと、マリカさん・・・でしたよね」

「はい。慣れてきたらマリカと呼んでくださいね」

「じゃあ私のこともレジーナと」

 レジーナとマリカは馬が合ったのか、すぐに仲良くなりそうな雰囲気だった。

「記憶がないのか?」

「そうみたいだね」

 ハレルとキースは小声で囁き合った。

「あの、ハレルさん?」

「は、はい!」

 体をびくっと反応させレジーナの方に向き直った。ハレルは名前を呼ばれて今までにないほど緊張した。

「その巨人というの、見せて頂けないでしょうか。何か思い出すかもしれません」

「もちろんです!」

 レジーナがスープを飲み終わり、マリカから借りた洋服に着替えていた。

「殿方禁制です」

 とマリカに言われ部屋から追い出された二人は暖炉の前に腰を落ち着けていた。昨晩と同じく暖炉の中は綺麗なままで、暗い口をぽかんと開けていた。

「お前さ」

 キースがおもむろに口を開いた。

「なに?」

「惚れただろ」

「うぇ!?」

「みりゃ分かるよ。何年友人やってると思ってんだ」

「いや・・・!それはそうだけど」

「ははは」

「お待たせ」

 寝室の扉が開くと、マリカと彼女の洋服を着たレジーナが立っていた。レジーナは白いシャツに作業用のズボンといった恰好だった。

「ごめんなさいね。サイズの合う服が殆どなくて」

「気にしないでください。借りられただけでもありがたいです」

「じゃあ行きましょう!」

 ハレルはその場から逃げ出すようにキースとマリカの元を去った。レジーナは姿勢良く綺麗なお辞儀を二人にしてハレルの後を追った。

「ハレルより背が高いな」

「2人で何を楽しそうにしていたの?」

「あいつ、あのレジーナって女の子に惚れてんだ」

「やっぱり。そうそう私と同い年だったわ」

「年上が好きなんだ」

 二人はそそくさと歩くハレルの姿を、肩を合わせ玄関から見守っていた。

 そんなことはつゆ知らず、ハレルはレジーナを巨人が座り込んでいる場所まで連れて歩いてきた。巨人は両手を地面にだらんと降ろし、片膝をついて前屈みの状態で固まっている。昨日動き出す前と同じく、顔の緋色に輝いていた部分は真っ黒だった。巨人の肩に小鳥が数羽足を並べてとまっており、この見知らぬ来訪者を興味深そうに観察していた。巨人の体は朝日に照らされ輝いていて、その光沢に彩られたただずまいは背後に広がる森の景色と相まって神秘的だと二人には思えた。

「こいつです。昨日、あの開いてる胸の部分からレジーナさんが落ちてきたんです」

「私が?あそこから・・・」

 レジーナは翡翠色に輝く瞳をハレルと巨人へ交互に向けながら、戸惑いを隠せないでいた。

「何か思い出せませんか?こいつの名前や、どこから来たのかとか」

「・・・ごめんなさい。何も」

「あ、あ、いや!大丈夫ですよ!」

 レジーナが落ち込んでいると感じたハレルは、気にしないように明るく振る舞おうとした。

「でも信じられません、こんな巨大なマシンから・・・」

「マシン・・・?」

「え、ええ。機械ですよねこれ。そういうのは分かる見たいです」

「へえ・・・」

「これ私が操縦してた。動かしてたってことですよね」

「だと思います。じゃああそこが運転席なんだ」

「だからなのでしょうか。不思議と親近感みたいなものを覚えます」

「機械の巨人。機械巨人か」

 レジーナがその機械の巨人に近づいて行き、ハレルと同じように手の一部に触れた。その時、またグォォン・・・というあの雄たけびが上がった。肩に乗っていた小鳥たちは一目散にその場から飛散した。

「この音、まただ!」

「あそこ、眼なんでしょうか。さっきまでは黒だったのに、今は輝いています」

「眼?」

 レジーナの言う通り、またあの顔の一部分に緋色の輝きが灯っていた。

「言われてみれば、眼に見えるかも・・・」

「乗ってみます。あの胸の中に入れば何か思い出すかもしれません」

「あ、ちょっと!」

 レジーナは胸の開いた部分に入ろうと、巨人の胴体をよじ登ろうとしていた。しかし途中で足を滑らせてしまい、地面に落ちてきた。

「あ、危ないですよ!病み上がりみたいなもんなんですから、気を付けないと」

「私は自分が何者か知りたいんです!」

「下手をして死んだりなんかしたら!」

「そう簡単に死にません!」

「ああもう!」

 ハレルは頭を掻きむしり、尻もちをついたレジーナに先行した。

「ちょっと、ハレルさん!私が・・・」

「大丈夫です!多分・・・こうすれば」

 今もなお地面に降ろされた巨人の左手の掌にハレルは乗る。また君に乗りたいな、と思う。そうすると、昨日のように巨人の手はゆっくりとハレルを運転席まで運んでいった。

「ありがとう!」

 ハレルの言葉に反応したのか、巨人の眼の部分が一瞬だけより輝いた。

「もしかして言葉が分かるのかな」

 ハレルは中に入って椅子に座る。周囲の紺色をした壁がたちまちハレルたちが暮らす集落の景色へと変化していった。

「レジーナさん!こいつの手に乗ってください!!」

「わ、わかりました!」

 残された右手にレジーナも乗る。ハレルの時と同じく右手はレジーナを乗せたままゆっくりと動き出した。

「あなたが操縦しているのですか!?」

「違うと思います!」

「思いますってなんです!?」

「なんかこう、考えたらその通りにやってくれるんです!」

「思い通りに?」

「あ、レジーナさんどうぞ!」

 目の前までやってきたレジーナにハレルは席を譲るため立ち上がり、すぐ傍に中腰で立っていた。

「ありがとうございます」

 レジーナは席に座る。

「これ全部モニターですね」

「モニター・・・?何ですかそれ」

「ああ。このマシンが見ている景色を映し出す、そうですね鏡みたいなものです」

「だから今集落の景色が見えるんだ」

「そういうことです」

「何か分かりそうですか?」

「・・・何も」

「そうですか・・・」

 突如モニターの景色が変化した。そこに映し出されたものは、先ほどまでの自然豊かな牧歌的な風景ではなく、暗闇の中に無数の小さな光がひしめく景色だった。そしてハレルにははっきりと「宇宙だ」とレジーナの声が聞こえた。またレジーナにも「なんだこれ」と言っているハレルの声が聞こえた。

「あの、今宇宙って言いませんでした?」

「言ってません。あなたこそ何か言いませんでしたか?」

「いえ。それよりこれって宇宙なんですか?」

 ハレルからの質問にレジーナは答えなかったが、彼女は落ち着いているようにも、またどこか焦っているようにも見えた。

「レジーナさん?」

「さっきまでと違って、思い出せそうな気がします。ありがとうございました」

「時機に思い出せますよ」

「そうだといいのですが・・・」

「大丈夫ですよ!きっと!」

 ハレルの屈託のない澄み切った笑顔を見て、レジーナも目を細めて思わずほほ笑んだ。二人の姿を爽やかな朝日が温かく照らしていた。

レジーナがハレルたちの集落に突如として現れてから数週間が経過していた。この間レジーナは主にマリカから女の仕事を教わっていた。

「覚えがいいのね」

 マリカはレジーナの仕事ぶりを見て満足気だった。

「ありがとうございます。簡単にできました」

「これならいつまでも居て欲しいな。明日もよろしくね」

「はい」

 そう言い終えるとマリカはレジーナの元を去った。

「なんでこんなに・・・」

 レジーナはいらだっていた。作業の殆ど全てが人力で行われていることに辟易していた。

「それにあの言動・・・」

 加えてここに住んでいる人間たちの能天気な言動に対しては、根拠のない怒りすらも覚えていた。

「死を知らない人間たち」

 川の水でバケツを洗い流して、集落へと戻った。そこには彼女の怒りの対象である、能天気な人々がせっせと自分たちの仕事をこなしていた。

「私・・・死を知らない人って。私は知っているというの・・・?」

 急にレジーナの頭が痛みだした。レジーナはその場に頭を押さえてうずくまり、動けなくなっていた。

「な、なに・・・?え・・・?」

 気を失う前、脳裏をよぎったのは見たこともない男が、何かを必死に喚いていて、突如鋭い閃光がその男の額を貫き男は目を見開いたまま動かなくなった場面だった。

「私って・・・」

 レジーナが次に目を覚ました場所は、マリカの寝室だった。

「ごめんなさい。無理に働かせすぎたみたい」

 ベッドの横にマリカが座っていた。レジーナを看病するためだった。キースとハレルの姿はなかった。

「大丈夫?・・・あ」

 レジーナは上体を起こすやいなやマリカに抱きついた。その頬は涙で濡れていた。

 その晩マリカはキースとハレルに、昼間あったことを話した。

「理由を聞いても答えてくれないのよね」

「よっぽど怖い夢でも見たんだろうさ」

 キースがパンをほおばりながら言う。

「そうかしら。夢を見た風には思えない迫力だったわ」

 視線を落としてマリカは言った。その言葉にはいつもの明るさと元気がなかった。

「ハレル、もし機会があったらレジーナに何を見たのか聞いてみてくれない?」

「答えてくれますかね・・・」

「ハレルには話してくれると思うな」

「なんでさ」

 ぶっきらぼうにキースが問う。

「勘よ。私の」

 その翌日レジーナはいつも通り元気な姿で作業をしていた。昨日何もなかったかのように振舞っていて、ハレルは何があったのか尋ねていいものかと手をこまねいていた。しかし、結局近日中には聞き出せなかった。またその日ハレルはハリーから、機械巨人とレジーナのことを領主であるアレクセイ・アンドレアへ明日報告しに行くことを聞いたのだった。

 翌日ハレルたちは最年長であるハリーを船頭にメディナ地区の領主であるアレクセイ・アンドレアに事の顛末を報告しに行った。彼らとしては例え報告をしたくなくとも、それをする義務があった。メンバーの中にはレジーナの姿があった。アンドレア家は郊外にあり、メディナ街とは真逆の方角だった。馬を走らせると1時間ほどかかるが、機械巨人だとものの10分程度で到着した。ハリーたちは荷台の中で座って、それを機械巨人が掌に乗せて運んでいった。

 はじめ機械巨人の姿を目にしたアンドレア家の人々は、長女であるシーラ・アンドレアを除き皆が腰を抜かしていた。しかし敵意がある訳ではないと分かった後は不安そうな面持ちながらも日常の生活へと戻った。アンドレア家は豪邸で、二階建てのレンガ造りの洋館だった。広さは彼らの集落の面積をいっぱい使っても入り切るかどうかという具合だったが、機械巨人から見ればそれも子供用のおもちゃに見えた。

 ハレル達は客間に通された。しばらく経ってアレクセイとシーラがその姿を見せた。シーラはハレルの姿を認めると嬉しそうにしていたが、訪問客の中に見慣れない少女レジーナが居てハレルがそっちに気を取られていると分かると、その上機嫌な態度は失せてしまった。

 ハリーはアレクセイに機械巨人が突如として空から飛来したことと、巨人の体の中からレジーナが現れたこと、そして彼女が現在記憶を失っていることを伝えた。アレクセイは機械巨人よりレジーナに興味を持ったようで、彼女をシーラの侍女に迎え入れ、行く行くはシーラと同じ教育を施しアンドレア家の一門として迎え入れようとしたが、ハレルが反対した。ハレルからレジーナを引き離すチャンスだと考えたシーラも父の意見に賛同し、彼らの議論は本来の「機械巨人をどうするか」というものから完全に逸れてしまった。最終的に、レジーナの記憶が戻ってから本人に決めて貰えば良いというハレルの意見が採用された。レジーナも今は行き場がなく記憶が戻るかどうかも不明だったこともあって、彼の意見に同意した。

 レジーナを巡る議論が一旦終わると、ハリーは機械巨人の話を持ち出した。ハリーとしては機械巨人を自分たちの手で確保しておきたかった。その理由は単純に彼らの労働力としてもっておきたいという気持ちもあったが、何よりこの特別な物を他人の手に渡ることが嫌ったためであった。アレクセイは別段機械などに興味はなかったが、メディナ街の技術屋連中や、商工会の組員などを通して高く売れるかもしれないと考え、それなりの値段で買い取ることを申し出た。それに対してハリーは、あの機械巨人はハレルとレジーナにしか動かせないこと、二人がいなければただの鉄の塊でしかなく何の役にも立たないことを伝えた。シーラはハレルにれっきとした土地を与え、私たちで囲い込めば自ずとあの巨人を手に入れることができるのではないかと父に具申した。アレクセイは娘の意見を採り彼らに伝えた。ハリーは、ハレルは貴重な仲間であり労働力であるので手放すとすればそれ相応の対価を求めた。

 アレクセイは途中から気が変わり話し合いが面倒になっていた。最終的には非常時に際し機械巨人を使ってシーラとアンドレア家の領地を助けることを条件にして所有権を認めた。ハリーはこの条件を呑み彼らの会合は終わった。ハレルはこちらの要求しか通っていないことに対して、申し訳なさと罪悪感を覚えていたが結果としてレジーナと離れなくて済んだことには喜びを感じていた。アレクセイは一足先に客間から退出した。シーラは去り際に丁寧なお辞儀をしてからハレルをちらりと見て手を振った。その後父に続いた。ハレルたちはアンドレア家の執事から退室を促され、その足で機械巨人に向かった。来た時と同じようにハリーたちを荷台に乗せて、ハレルは運転席に座り機械巨人を歩かせた。

「お父様、どうしてもっと強く言われなかったのです!?彼らは所詮は流民なのですよ。本来お父様に直談判しにくるだなんて許されない身分なのに・・・!」

「シーラ」

「情けなくないのですか!?あんな一方的に。また面倒になって逃げて!」

 シーラは父アレクセイの情けなさと、ハレルがあのレジーナとかいう女のものになってしまう嫉妬心から生まれた怒りを我慢できずに居た。

「気が変わったんだよ。触らぬ神に祟りなしと言うだろう。昔から」

 歩いて行く機械巨人の姿を眺めながら、アレクセイは呟いていた。

 帰ってきてからハレルは機械巨人の運転の練習をしていた。その休憩中キースと二人で座り込んでいた。

「でもまあ、こいつとレジーナさんが残ることになって良かったじゃないか」

「それはそうだけど、領主様に嫌われたんじゃないかな」

「どうだかなあ」

「もうちょっと上手くやれたんじゃないだろうか」

「交渉事ってのは難しいもんさ」

「こんなところに座り込んで」

 2人が話をしていると作業服姿のレジーナが歩いてきた。

「キースさん、皆が探してましたよ?」

「今休憩中なんですから、いいでしょう」

「休憩時間はとっくに過ぎてるって」

「キース・・・お前なあ」

「ばれたか。はは!ハレルあんまり悩むなよ。気持ちが悪いんなら、領主様が力を貸して欲しい時に全力で力になってやればいいさ。じゃまたな!」

「早く行く!」

「レジーナさんもきついや」

 すっと立ち上がりキースは笑いながら駆けて行った。レジーナは短い期間で随分と打ち解けているようだった。

「まったく。男の子って」

「キースはああいう奴で、良い奴なんですよ」

「お調子者ですね」

「ええ。助かってます」

「隣、いいですか?」

「え?ああ!勿論。どうぞ!」

 ハレルは左手でぱっぱと地面を掃った。

「大丈夫ですよ。作業服なんですから」

 ふふふと笑いながらレジーナはハレルの隣に腰掛けた。そよ風にたなびくレジーナの長髪をハレルは見つめていた。

「レジーナさんはここでの生活、楽しいですか?」

「ええ楽しいです。ちょっと不便だと感じることもありますけど」

「例えばなんです?」

「洋服の洗濯です。わざわざ川まで行って、冷たい水の中手で拭って洗うなんて。前はそんなことしなくても良かった気がするのに」

「でも仕方ないですよ。方法がそれしかないですし」

「この機械の操縦、上手くいってますか?」

「大分慣れてきました!最初は力みすぎちゃって上手くいかなかったですけど、今は木を取り除いたり必要な大きさに砕いたりならできます!」

「こんな大きいのに、随分と繊細な動きも出来るんですね」

「みたいです。一体何をするために生まれてきたんでしょう」

「生まれてきた?」

「はい」

 ハレルはレジーナの記憶が戻りそうかどうか聞き出したい気持ちがあったが、それを口には出さなかった。

「ハレルって時々面白いことを言いますよね」

「面白い?」

「機械は誰かの手で造られた物で、これもそうなのに。造られたとは言わず、生まれてきたって」

「それは・・・俺にも分かりません」

 二人は座りながら上空を見上げた。そこには動かず顔を地面に向けた機械巨人の姿があった。

「さて、私も戻ります」

「もう戻るんですか?」

「ええ。まだお仕事が残ってますから。ちゃんと片付けないと」

 立ち上がったレジーナはお尻の部分をぱんぱんと手で掃っていた。

「それじゃあまた」

 ハレルが何か言う前にレジーナは立ち去った。ハレルはレジーナが気絶したあの日、何を見たのか聞き出したかった。

「また、レジーナさん」

 先ほどの仕草といい、時たま見せる毅然とした言動といいハレルはレジーナにアンドレア家のシーラの姿を重ねていた。

「お嬢様みたいだ」

 ハレルがそう呟くと、機械巨人の緋色の眼が薄く輝いた。

 作業に戻ったレジーナは不便さに嫌気が指していた。

「まったく・・・!アナログなんだから」

 アナログで何が悪いのだろう。レジーナは自分に問いかける。未だ蘇らない記憶。それさえ分かれば自分がここに居る理由が分かる。知りたい、何故ここに来たのか。あのマシンと一緒に。

「私はどうして・・・一人なんだろう」

 思い出そうとするたびに脳裏が真っ白に漂白されていく。あの、鋭い閃光が男の額を貫く場面以外何も浮かび上がらない。レジーナは一人恐怖していた。

「レジーナ・・・さん?大丈夫?」

 マリカの声だった。レジーナは顔を両手で覆いしゃがみこんでいた。マリカに声をかけられるまでレジーナ自身そうなっていることに気が付かなかった。

「マリカさん・・・」

「体調でも悪いの?」

「私怖いんです」

「怖い?」

「自分がなんなのか分からなくて怖いんです」

 レジーナの声は上ずっていた。

「皆が知らないことを、言葉を私は知っています。でも自分がどこから来たのか、なんでここに居るのか、なんで一人なのか分からないんです。それに」

 レジーナはここで言葉を切った。この先は自分がこの短い期間で感じた率直な感想で、おそらくマリカを傷つけてしまうと思ったからだった。しかしレジーナの口は、その気持ちを誰かにぶつけたいと願い、止まらなかった。

「なんで、こんな不便な生活で笑っていられるんです?なんでそんなに皆能天気でいられるんです?なんでそんなに楽しそうなんです・・・か」

「・・・・・・そうね」

 マリカはレジーナと目線を合わせるようにしゃがんだ。

「まず私たちにレジーナさんの気持ちを理解するのは、多分無理でしょう。だって記憶をなくしたままあんな機械と全く知らない土地に居るなんて、経験がないから」

 子供をあやし、諭すように続ける。

「でもねレジーナさん。少なくとも1人じゃないわ。多分、あの機械はレジーナさんを守るために一緒にここに来たのよ。そしてそれを上手に動かせるハレルが居る。それに私たちもね。だから1人じゃない」

 マリカはここで一呼吸を入れ更に続けた。

「もう誰かから聞いてるかもしれないけど、私たち皆家無し子だったの。親も知らない。なんとかこの土地を開墾して住めるようにしたの。レジーナ、あなたはきっと今の私たちでは考えられないほど、遠くから来たのよ。だから不便だと感じるんだと思う。でも私たちは今の生活に満足しているわ。あなたにとっては酷く退屈なのかもしれない。でも皆が能天気に笑って楽しそうに生きているのはね、満足しているから。自分たちで切り開いたこの土地で生活を営んでいることに誇りがあるから。無理に解ってくれとは言わない。ただ出来れば少しでもいいから、あなたに皆が感じている楽しみを感じて欲しいな」

 マリカが言い終わる頃には、レジーナは掛け布団を両手で固く握りしめながら俯いていた。

「ありがとう・・・」

 消え入りそうな小さくか細い声だった。

「友達だもの」

 レジーナの瞳からぽたぽたと涙の雫が落ちていた。それは彼女の拳に当たると日光の輝きを受け、煌めきながらはじけ飛んだ。

 その日からレジーナは健気に働いていた。それでも不満を述べることはあった。しかし、口にするだけではなくそれを解決するべく動いてもいた。画期的だったものは、機械巨人を使った洗濯だった。充分な大きさの桶を造り、その中に水と石けんと洗濯ものを投入する。そして機械巨人の手でそれらを一緒くたに掻きまわしてしまうというものだった。機械巨人の操縦はハレルが行った。はじめの内は力加減が分からず、桶もろとも洗濯ものをずたずたに引き裂いてしまった。

「もっと優しくできないのですか!?」

「そんな無茶ですよ!」

 そう言いながらもハレルは徐々にコツを掴み提案から半月も経たない内に、立派な洗濯用機械として動かして見せていた。石けんは泡立ちふわふわとシャボン玉が空気に乗って空へと登ろうとしていた。

 他にも新しい土地の開墾や、荒地の整備など機械巨人は様々な場面で役に立った。どこからか噂が流れたのか、メディナ街から物珍しさで機械巨人を見物しにくる人物たちがいた。彼らが帰って街全体にそれが一気に広まり、新聞の記者もやって来るまでになった。ハリーとキースはお互いに図ってそのような『観光客』から見物料として金銭を取っていた。後日機械巨人が新聞の一面を飾り、その風体に似合わず家事労働の手伝いをしていることから、もてはやされるようになった。

「かんぱーい!」

 レジーナと機械巨人が飛来してから二年の月日が流れていた。ハレルは十七歳になっていて、二回あった誕生日には思い人であるレジーナから花束であったり、洋服であったりとプレゼントを受けていた。レジーナとマリカは共に二十歳で、レジーナの誕生日が不明なことからマリカと共に祝った。今日はその日で、皆早々に仕事を終わらせて祝宴の支度に取り掛かった。準備もほどほどに酒を飲みだす輩も居た。皆が先に祝杯を上げている最中、ハレルはマリカに頼んで先にレジーナに会わせて貰った。

「レジーナさん」

「ハレル。主役の顔を先に盗み見るなんて、罰当たりなことを」

 口ではそう言っていたが、レジーナは嬉しそうだった。

「これ、誕生日プレゼントです」

 ハレルは丁寧にリボンで結ばれた箱をレジーナに手渡した。

「これは?」

「マリカさんに手伝って貰ってください」

「去年は一軒家、今年は何でしょうか。楽しみです」

 レジーナのニコニコした表情がハレルには愛おしかった。

「それじゃまた!」

 ハレルは自分の誕生日プレゼントのお返しに、去年はレジーナが住む小屋を建ててプレゼントしていた。レジーナはそれまで見せたことがないような笑顔でハレルに抱きついた。その様子をキースはニヤニヤしながら眺めていた。キースとマリカは正式に結婚していた。以来二人の間に子供はなかったが、仲睦まじく暮らしていた。ハレルとレジーナは夫妻の晩餐によく招待されていた。結婚したことでキースも丸くなるだろうと、三人は考えていたが相変わらずのお調子者だった。

「お!いよいよ主役のご登場だぜ!」

 皆がレジーナとマリカの登場を待っていた。祝宴は集落の中心地である屋外で行われていた。盛大に焚き火を燃やし、盛大に飲み食いすることが風習だった。キースとマリカ夫妻の家の扉が開いた。最初に姿を見せたのはマリカで恰好はいつもの精錬としたエプロン姿だった。

「次は凄いですよ!」

 恰好とは裏腹にマリカはどこか興奮しているようだった。

「レジーナさんどうぞ!」

 マリカの掛け声と共に、レジーナが姿を現した。集落の人間が見たことがない、真紅の美しいドレスをまとって。皆が息を潜めた。レジーナの体は焚き火と月明りに照らされていた。しかしそのあまりの美しい赤い輝きの前では、炎も轟々と燃えることをためらったのか勢いが弱くなっていた。

「あ、あの・・・」

 皆が皆レジーナに視線を向けているせいで、レジーナ自身はだんだんと気恥ずかしさがこみ上げてきていた。特に男連中の視線は強く感じられた。が途中で彼らの妻や婚約者、彼女といった面々が目を奪われているだらしのないパートナーをどつき始めた。それに気づいたレジーナはおかしくなり、小さな笑い声を上げた。それにつられて皆が笑い、当の本人たちも笑いあっていた。静寂の世界に賑やかさが戻ってからは、皆レジーナとマリカの無事を祈って、それぞれ思い思いに飲み食いした。レジーナはハレルを見つけると、目の前まで歩み寄って行った。

「ハレル、このドレスをありがとう。とても。とても嬉しいです」

「い、いえ。似合ってます」

 プレゼントした本人が一番目を奪われていた。それと同時に一番緊張もしていた。ハレルはレジーナともう少し会話していたかったが、祝ってくれた人々へ挨拶しに行くために、マリカに手を引かれレジーナはその場を去った。

「あれ、幾らしたんだよ」

 傍に居たキースがハレルに聞いた。

「財産の殆ど」

「よくやる。でもどっから手に入れたんだ?」

「ドートさんに頼んださ。レジーナさんの背丈やサイズはマリカさんにこっそり教えて貰った」

「じゃあマリカの奴知ってたのか」

「まあね」

「とうとう色気づいたなお前も」

「どうかな」

 行く先々でもてはやされるレジーナを眺めながら、ハレルはビールを胃に流し込んだ。祝宴は日付を超えるまで行われ、殆どの者が酔いつぶれて地べたを寝床に睡眠を貪っていた。起きている者はわずかで、中でもキースは顔を真っ赤にして千鳥足になっていた。ハレルは一人茂みに座り込んでいた。そこには彼の相棒となっている機械巨人の姿もあった。

「何をしているの?」

 レジーナの声がする。

「星を眺めていました」

「結局この2年の間、記憶は取り戻せなかったわ」

「みたいですね」

「でもそれで良かったのかも。きっと、思い出したくない何かがあったんだと思う」

 レジーナはこの2年間、あの思い出せそうな感覚が殆どのなくなっていることが分かっていた。まるで箱にしまい込んで鎖でがんじがらめにされたようだった。

「でもレジーナさんの両親や友達は、悲しんでいると思います」

「そうかしら。居たかも分からないのに」

「きっと居ます」

「なんでそう思う?」

「・・・2年前茂みの中で、少しだけ会話をしました。覚えてますか?」

「ええ。覚えてます」

「あの時、何を見たのか聞き出したかったんです」

「なにを・・・?」

「レジーナさん、気絶したことがあったでしょう?マリカさんから話を聞いて、何を見たのか気になっていたんです」

「・・・」

 レジーナは無言だった。

「多分、怖いものを見たんだろうなって思ったんです」

「人が殺される夢でした」

「殺される・・・?」

 ハレルの声色で彼がたじろいでいることがレジーナには分かった。

「見たこともない、1人の男が何かを訴えているんです。でもその男は額に何かをされて目を開いたまま」

「・・・そんな」

「あの時思ったの。私は多分ここに居ちゃいけない人間なんだって」

「そんなことないですよ。ただの夢じゃないですか」

「・・・正直夢とは思えないの。あまりにもはっきりしていて」

「この2年、皆で上手くやれてきたんですから。レジーナさんはここに居て良いってことだと思います」

「そう思う?」

「ええ」

「ありがとう」

 レジーナはドレス姿のままハレルの隣に腰を降ろし、片にもたれかかった。夜空に輝く星々だけが純真な少年と少女を見守っていた。


「これがガイスト奪還用に急造させたと言われる、レッドラムでありますか」

「さよう」

「数はいかほど?」

「10にも満たんと聞いている」

「ガイストを相手取るには、些か心持たない数字では」

「そのために対精神波用の装備をつけさせている」

「足りますかな?」

「なに案ずるな。急増とはいえ自信作と聞いている」

「それならば結構。火急に私の部下を先遣隊として送りましょう」

「いや、それはジュピターシュタシスに要請してある。腕利きを用意してくれるとのことだ」

「ほお。あのテクノロジーにしか興味のない団体が、このような作戦に興味をお持ちとは。存じませんでしたな」

 ヴォーダンエイム・ヘルシャフトが皮肉を込めて言い放った。語気には怒りと不満が露になっていた。

「いいか、あくまでもガイストとそして私の娘、レジーナを取り戻すことが目的なのだ。卿らに出てもらうまでもないのだ」

「しかし、ガイストが抵抗してきたら。どうなさるおつもりで」

「その時こそ、卿らの力を借りることとする。ひとまずこの回収作戦に卿の出番はない。もう下がれ」

「・・・御意」

 不服そうにヴォーダンエイムはその場を立ち去った。

「ヘルシャフトめ。ガイストがあったとて我々と地球とで戦争になどなるものか」

 1人その場に残ったキュンメル・アインクルシュは、眼前のレッドラムを見上げてそう吐き捨てた。

「全くレジーナにも困ったものだ。勝手にあれほどの兵器を持ち出すなど。帰ってきたらどう処してくれようか」

 顎に蓄えられた濁りのない白色の髭を撫でながら、自分の娘であり次期アインクルシュ家の当主でもあるレジーナの処遇をその後も考え続けていた。

 数日後、自らのことをルナリスと呼称する人々が暮らす小惑星に建造された都市、ポリス・アステートの港へ1機の宇宙貨物船が入港許可を求めていた。

「こちら管制室、そちらの識別コードを確認した。第四ドックへの入港を許可する。木星からとはまた。お帰りなさい」

「こちらジュピターシュタシス貨物船アラドリウス、了解した。感謝する。久しぶりに下船できますからね。楽しませて貰いますよ。ははは」

 そう言うとスクリーンに表示されていた映像と、音声がぶつっと切れた。

「なんです?あれ」

 管制室で働く若い男が、紙コップでコーヒーを飲みながらやり取りをしていたオペレーターに尋ねた。

「なんでも地球回帰作戦に使う機器類なんだとさ」

「あんなに多く?何が入ってんでしょう」

「中身は分からんがね。アインクルシュ家も何を考えてんだか」

「ルナリスの俺たちが急に行って、地球の奴さんたち迷惑しませんかね」

「地球人はのんきな性格だって、昔偵察に行ってた連中から聞いてるぜ。人口も前世紀の半分以下らしいし、土地なんて有り余ってるだろう」

「ポリス・ルナの連中も一緒に帰るんですかね」

「さあなあ。でも同じルナリスなんだから、そうなんじゃないのか」

「は~あぁ。迷惑じゃないんだったら、早く安全な地球に行きたいもんですよ。最近事故も増えてきて俺たち末端はいつ死んでもおかしくないんですから」

「結局、植民星も開拓できてないってんだからな。俺たちに限らず誰だって嫌気が差すさ」

 男は席を立つと廊下へと繋がる出入口に向かって行った。

「どこ行くんです!?まだシフトが」

「小便だよ」

 管制室でそのようなやり取りがなされている間に、入港許可を出された宇宙貨物船アラドリウスは、その濃い緑色の船体を第四ドックへ格納しようとしていた。

「キュンメル様に通信開けるか?」

「できます。お待ちを」

 間もなくオペレーターがオーケーのサインを出した。

「キュンメル様、お待たせいたしました。残りのレッドラム五機と先遣隊として派遣するパイロットを連れて来ました」

「うむご苦労」

 アラドリウスのブリッジの前面に設置された一回り大きなスクリーンにキュンメル・アインクルシュの顔が映し出されていた。

「パイロットには悪いが、明後日にでも地球へと行ってもらう。早急にガイストを回収し、地球回帰作戦を始めねばならん」

「心得ております」

「結構」

 2日後、キュンメル・アインクルシュとヴォーダンエイム・ヘルシャフトは、先遣隊が地球へと飛び立つようすをアインクルシュ家の屋敷で見ていた。映し出された赤い胴体をした宇宙船ファーレンハイトの艦長ネイハムがその指揮を執っていた。

「進路クリアです。いつでも発進できますよ」

「了解」

 管制室のオペレーターとネイハムがやり取りをする様子が映像に映し出されている。本来、あれに搭乗し指揮しているのは自分で、それに付き従うのは自身の部下であったという思いが、ヴォーダンエイムの表情を面白くなさそうにしていた。

「最終チェック、メインシステム正常作動・・・」

「頼んだぞ」

 キュンメルは誰にも届かない声で呟いた。

「ファーレンハイト発進します」

 はじめは、ゆっくりとした動作でその巨体を動かしていたファーレンハイトは徐々に速度を増していきポリス・アステートから姿を消した。


「あれ流れ星じゃないか?」

「流れ星?こんな昼間に??」

 いつものように畑仕事をしていたハレルたちの頭上の空に、2本の白い線がはっきりとあった。

「2つ・・・?」

 ハレルがそう呟いた時、焦げた赤色をした2体の機械巨人が颯爽と上空から降りてきたのだった。

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