第三話⑥ 第六章「稲光」

 最初に仕掛けたのは、鎧武者だった。

 上段に構えた状態で、鎧武者は二人へ踏み込んで来た。その格好からは想像もつかないほどの速度だ。

 そして、その切っ先を振り下ろすが、笠井がそれを風塵鴉鎚で受け止め、その隙を突いて小水内は慚愧彗星剣の一閃を繰り出す。しかし、鎧武者は片手でその切っ先を受け止めていた。


「しまった-」


 小水内は鎧武者に宙へ投げられる。


(防げない!)


 鎧武者は下から逆袈裟斬りで振り抜こうとしていた。

 しかし、鎧武者が小水内に気を取られていた瞬間に、笠井はその胴体へ一撃を叩き込む。

 鎧武者は弾き飛ばされ地面を転がるが、刀を地面に突き立て体勢を整えていた。


「立てるか?」


「馬鹿にするな!」


 小水内も立ち上がり、再び構える。


「あいつ、本当に餓鬼がきなのか!?」


「分からん! だが、明らかに異常な強さだ」


 鎧武者が刀を構え、二人へ向かって駆け出した。

 それに合わせて笠井は駆け出していた。一方の小水内は突きの構えを取る。


”「自証じしょうつるぎにて、わが一念を貫け」”


”「発動、『黒錆鉄爪こくじょうてっそう』」”


 鎧武者と接敵する直前で、笠井は中咒ちゅうじゅを唱え、己形心想ごぎょうしんそうを発動する。

 放たれた漆黒の風が鎧武者を穿つ。鎧武者は刀でそれを防ぐが、その鎧は削られていく。

 そして、笠井の一撃に気を取られていた鎧武者は気が付いていなかった。


 その奥に控えた必殺の一閃を。


 小水内は、鎧武者が笠井の攻撃を受けて動きを止めた瞬間を見逃さず、己形心想を発動する。


“「自証の剣にて、わが一念を貫け」”


“「発動…」”


“「星辰流燈衣せいしんりゅうとうえ!!」”


 突きを構える小水内は次第に雷をまとっていく。

 そして、全身に雷をまとうと、小水内は敵に向けてその一閃を放つ。

 踏み込んだ小水内は、まばゆい彗星となり、白銀に煌めく剣を鎧武者の胸元へ突き立てる。 その鋭い突きは笠井によって削られた鎧を容易く貫いた。


「はあああああああ!!!」


 小水内は鎧武者ごと樹々を薙ぎ倒し、大木に武者の体を突き立てた。

 勝利を確信した小水内は笑みをこぼす。

 小水内にとっても餓鬼の討伐はこれが初めてなのだ。自身の成長に小水内も内心では舞い上がり、興奮が冷めやらない。

 一つ釈然としないのは、星辰流燈衣を発動するためには笠井の協力が必要だったことだ。


「ちっ」


 小水内は余計なことを考えてしまったと舌打ちをする。

 どちらにしろ、今回の討伐の最大の功労者が自分であることには変わりないはずだ。


「君たちの敵も討たせてもらったよ」


 小水内は襲われた試験生たちへ弔いの声をかける。

 今回の一件は通常では起こり得ない事態ではあったものの、正式な夢幻開現師となる以上、自分の身は自分で守れない者はいずれこうなる運命なのだ。

 職業として破格の待遇を受けられる夢幻開現師には、それ相応のリスクが伴うのだ。


(しかし、君たちの生きた証は僕が守り抜こう)


 そして、小水内は剣を引き抜こうとする。しかし、その切っ先を抜くことができない。


「え?」


 その瞬間、鎧武者の体が縦に開き、小水内を飲み込んでいく。

 笠井は少年を抱え、小水内を探していた。


「あいつ、どんだけ遅いんだよ」


 先ほどから試験官との連絡が取れない状態である。今すぐにでもここを離れなければならない。

 にもかかわらず、小水内はいつまでたっても戻ってこないのだ。笠井は面倒だと思いながらも、かといって放っておくわけにもいかず、少年を抱えてここまで来た。

 だが、笠井はその判断を後悔する。

 なぜなら、眼前にはあの鎧武者が立っていたためだ。

 いや、さっきの鎧武者とは違う。その下半身には馬の胴体がついており、言うなればケンタウロスのような形態に進化していた。

 右手には日本刀、そして、その左手には小水内の慚愧彗星剣が握られていた。


「おい、マジかよ…」


 第二ラウンドのゴングが鳴る。

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