第三話④ 第四章「卒業試験」
笠井と
「本日、君たちを集めたのは、この度、君たちの卒業試験を行うことが決定したためだ」
集められた生徒たちは、喜びのあまり口々に話し出す。
「静粛に!」
生徒たちが黙ったのを確認して、教官から書類を渡される。そこには、卒業試験の知らせが書かれていた。
「ついては、明日の午後七時に所定の場所へ集合すること。遅刻した場合はその時点で失格となる!今日はゆっくり休み、明日の試験に備えよ、いいな!」
「「はい!」」
生徒たちの引き締まった返事を聞いて、教官の高橋は顔をほころばせる。
「よく頑張ったな…。君たちの健闘を祈る!」
「「ありがとうございました!!」」
その後、生徒たちは明日の卒業試験に備え、各部屋へ戻っていった。
笠井は施設内の電話へ向かう。菩提聖堂へ入った生徒たちは、ここで受ける訓練や知り得た情報を外部へ漏らすことを固く禁じられている。また、各個人で家族などに連絡を取る場合については、指定の電話機を使用する必要がある。
笠井は電話機に自宅の番号を入力する。何回かのコールの後、母が電話に出る。
「もしもし、母さん。…うん、元気にやってるよ。…うん。それでさ、今度、卒業試験を受けることに決まったんだ」
電話越しに聞こえる母の声からは、その喜びが伝わってくる。
「うん、まだ確定してないけどな…。うん、できる限りやってみるよ。ああ、頑張るよ」
それから母の近況を聞いた後、笠井は電話を切る。
「次は…」
笠井は再び番号を入力する。コール音は鳴るが、一向に出なかったため、笠井が電話を切ろうとしたその時、電話の主が出る。
”はい”
「もしもし、あれ、徳井さん?」
笠井は南の携帯へかけたのだが、出たのは徳井であった。
”ああ、笠井くん!ごめんね、南さんは今ちょっと会議に出てて”
「いえ、こちらこそ突然すみませんでした」
”そうだ!笠井くん、卒業試験決まったんだよね”
「何だ、徳井さんたち、もう知ってたんですか」
”もちろんさ、君の活躍は南さんも気にしているからね”
笠井は徳井の言葉を受け、笑顔をほころばせる。南と徳井は、自分の人生を切り開いてくれた恩人である。そんな人たちが自分のことを応援してくれている。それがわかっただけで、笠井は十分だった。
「忙しいところすみませんでした」
笠井が電話を切ろうとしたとき、徳井が話し出す。
”笠井くん、南さんも君ならできるって”
「はい!」
”僕も応援してるよ。頑張って!”
「俺も、試験頑張りますから」
”あっ、それと、以前の件を南さんに相談したんだけど”
「はい」
”僕らが言うのが何だけど、しばらくはその西条という人物とは連絡を取らない方がいいと思う”
「…わ、分かりました」
”まあ、あまり気にしないで。また、わかったことがあれば君に伝えるから”
そう言うと、徳井との電話を切る。いろいろと聞きたいことはあったが、笠井はそれ以上はやめておいた。それ以上聞いてしまうと、その“真実”へたどり着いてしまいそうだったためだ。
そして、笠井は電話を置き、自室へ戻っている。
笠井との電話を終え、徳井が部屋へ戻る。すると、会議を終えたようで南が席に座っていた。
「すみません、笠井くんからでした」
「そう、彼の様子はどうだった?」
「元気そうでしたよ。あと、試験頑張るって」
「彼なら問題ないでしょ。それよりも―」
南は資料を徳井に渡す。
「やはり、連中が動き始めましたか…」
「ええ、世界規模で奴らの動きが活発化しているわ」
徳井は一通り資料に目を通すと、南を見る。
「それと、笠井くんからの話なんですが…」
南の視線が鋭くなる。
「間違えないわ…。彼の足取りを突き止めたと連絡があった。徳井くん、準備は?」
徳井はうなずき、二人は急ぎ部屋を出て行く。
二日後、笠井たちは指定された場所へ集合していた。現地に到着すると、試験官から今回の卒業試験の詳細について聞かされる。
今回の試験では、自然発生した鬼夢への対処を行うとのことだった。鬼夢にも二種類あり、通常は人間の夢を基に発生するのだが、たまに自然発生する場合がある。
それは、古来から記録が残っており、有名なところで言うと「神隠し」が挙げられる。これも自然発生した鬼夢によって形成された夢竟空間に迷い込んだのだと考えられている。
この鬼夢の発生は、一種の人々が自然に対する畏れや根も葉もない噂話から生まれた人々の恐怖心が起因しているとされており、現代でも「都市伝説」などで語られる。
笠井たちは今回、『首狩り塚』と呼ばれる場所へ赴くことになった。
「いいか?いくら自然発生した鬼夢といっても油断するなよ!しっかり気を引き締めて取り掛かるように!!」
受験生たちは緊張した面持ちでうなずく。
そして、どうやら現場へ到着したらしく、バスが止まる。受験生たちが降りる中、小水内が近寄る。
「怖かったら、僕の後ろにでも隠れてな。君みたいなやつがあまり出しゃばると他の皆に迷惑だ」
「ああ、安心しろ。おまえの逃げ道ぐらいなら作ってやるよ」
二人は互いに睨み合い、火花を散らす。
「そこ、私語は止めて、とっとと降りろ!」
小水内は舌打ちをしてバスを降りて行った。笠井もバスから降りると、すでに本部テントが作られており、職員たちがせわしなく働いている。
笠井たちも控室へ移動し準備に取り掛かる中、笠井は目的地である『首狩り塚』を眺めている。
周囲は田園風景に囲まれる中、その一帯だけ樹々が生い茂っていた。ここからでも鬼夢が発生していることが分かる。不用意に森の中へ踏み込めば、取り込まれるだろう。
笠井たち受験生はそれぞれに分かれて、トレーラーに乗る。トレーラーのコンテナ内にはベッドとドリームコンバーターが設置されていた。笠井、そして小水内はドリームコンバーターに接続する。
目を閉じ、意識を集中させる。二人が目を開けた瞬間には、もう森の中にいた。
”では、各員、目標へ向けて移動を開始しなさい”
と、浮遊する慧珠から試験官の声が響く。
笠井と小水内はそれぞれに移動を開始するが、彼らが向かう場所は決まっていた。
首狩り塚の中心部、祠がある地点だ。
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