第二話⑥ 第六章「再び」

謹慎も明け、笠井は訓練の日々に追われていたが、久しぶりの休日が訪れる。笠井は西条の迎えで、祖母に会いに行く。


「ばあちゃん、久しぶり」


「あら、また新しい先生かしら」


 祖母の認知症は前よりも悪化しており、最近は母や叔父のことも分からなくなっている。


「それより、今日は西条さんも来ているよ」


 その日は、母の勧めで西条も見舞いについて来た。


「おばあさん、お久しぶりです。健司さんの後輩の西条です」


  祖母は西条をまじまじと見つめている。


「やっぱり、西条さんのことも覚えてないか」


 笠井がつぶやいたときだった。


「嘘をつくのはやめなさい」


「おばあちゃん、どうしたんだよ。西条さんだよ」


「亮。こんな人、私知りませんよ」


 笠井は突然名前を呼ばれ、一瞬フリーズする。


「帰りなさい。それと金輪際、二度と孫と関わらないで」


 二人は病室を出る。


「大河さん、ごめん。ばあちゃん、混乱してるみたいで」


「いや、仕方ないよ。お父さんが亡くなってから、もう六年も経つんだからね」


 その後、戻って来た母とともに謝罪する。西条は、別に気にしていないと言って帰っていった。


「悪いことしちゃったね」


「ああ」


 それにしても、驚きだった。さっきの祖母の意識は、はっきりした様子であった。


(やっぱり、記憶がごっちゃになっているのか?)


 その後、母は忘れ物をしたと言って、一度家に帰っていった。笠井は付いて来るかと言われたが、祖母のそばにいたいと言って残ることにした。

 祖母は眠り、病室内は機械の音が規則的に流れている。笠井は椅子に座り、父のことを考えていた。  

 祖母の話、そして、小水内と戦っていたときに見た記憶。いったいなぜそんな記憶があるのか。もしかすると、祖母の話を聞いて自分が望んでいた父との思い出を勝手に創り出してしまったのだろうか。 

 それとも、あの記憶は本物なのか―。そんなことを考えていると、目が重たくなる。ゆっくりと視界が暗くなっていく。

 笠井が気が付いたとき、そこは病院であったのだが、病室はひどく荒れていた。


「この感覚…鬼夢!?」


 笠井はかつて感じたあの嫌な感覚を全身で感じ取っていた。笠井は祖母が寝ていたベッドを見ると、もう誰もいなかった。


(おばあちゃんはもう取り込まれたか!?)


 笠井は祖母の居場所を探ろうとしたが、やはり観測師ではない笠井は祖母の居場所を突き止めることは出来なかった。


(とにかく、まず出口を探さないと)


 鬼夢には必ず現実世界と繋がりが強い箇所があり、そこを通ることで鬼夢から出ることができる。 

 笠井は病室を出る。廊下もひどく荒れており、照明のせいだろうか、全体が赤紫色に染まっている。 

 笠井が廊下を歩いていると、突然病室内から音がする。笠井が警戒していると、“そいつ”が現れた。  

 現れたのは、多分患者だろう。しかし、悪鬼に操られているようで、その顔には切り取られた右腕がうねうねとせわしなく動いていた。


「やっぱ、いるよな」


 目の前の化け物は悪鬼の一種で、以前笠井が遭遇したハエ人間と同様であり、その名を「亜羊あよう」と呼ぶ。

 悪鬼には進化の段階があり、初期の形態がこの亜羊である。

 改造された患者は笠井に襲い掛かる。笠井は冷静に構えを取り、その顔面に蹴りをお見舞いする。 改造人間は壁に叩きつけられ、動かなくなった。

 亜羊自体はそれほど脅威ではないが、数で攻め取り込んだ者を自分たちの仲間にすることが役割なのだ。

 笠井が一息ついていると、病室の扉が一斉に開く。


「今度は団体さんか」


 騒ぎを聞いてか、改造人間たちがわらわらと集まって来た。

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