第二話① 第一章「選択」
「
笠井は友の
訓練に追われる日々の中、祖母の看病のために病院へ訪れた笠井であったが、そこで再び鬼夢に巻き込まれてしまうのであった…。
第二話 第一章「選択」
「なぜ、僕が
南から語られたことについて笠井は問う。
「本来、
笠井は、あの事件の惨劇を記憶しているのが自分ただ一人になってしまったことを知る。
「それと、君が鬼夢の中であれほどの力を発揮できたのも、あなたの高い素質があってこそよ。笠井くんの勇敢な行動がなければ、もっと多くの犠牲が出ていたわ。改めてあなたに感謝を伝えます。ありがとう。そして、救出が遅れて申し訳なかったわ。ごめんなさい」
南は深々と頭を下げる。
南に対して恨みはないかと言われれば、嘘になる。どうしても、あと少し早く来てくれればと思う自分がいる。
しかし、それ以上に笠井は無力な自分を許すことができなかった。
あのとき、自分に力があれば藤本は助かったのではないか。
その後悔がどうしてもそのことが頭をよぎってしまう。
笠井の頭にかつて父が言っていた言葉がよぎる。
”人一人救うことは並大抵の覚悟では出来ない”
今になって、父の言葉がこれほど自分に刺さるとは想像もしなかった。
「笠井亮くん、今、あなたには“二つ”の道があるわ」
「二つの道?」
そう言うと、南は握りしめた両こぶしを前に出す。
「一つは、『このまま何もかもを忘れて、今までの日常に戻る』こと」
南は右手を開く。
「もう一つは、『今回のことをすべて受け入れ、夢幻開現師として生きる』こと」
南はもう一方の手をを開く。
笠井は少し考えてから、
「夢幻開現師になると言えば?」
「私たちが所属している機関が運営している養成所へ入ってもらうことになるわ」
笠井は自分の手のひらを見る。強く握りしめていために、爪の跡が赤々と残っている。
藤本が殺されたあのとき、あれほど自分が無力だとは思いもしなかった。
自分なら乗り切れると、自分なら大丈夫だと慢心していた。
そんな自分に果たして何ができるのか。
きっと、何もかも忘れて生きることが最善なのかもしれない。藤本もそれを望んでいると思う。
しかし、誰が藤本の
それが生き残った自分の
「もちろん、今ここで結論を出す必要はないわ」
南はひと呼吸置いて、笠井に問いかける。
「笠井くん、今のあなたには酷なことかもしれないけれど、あの時、何があったか話してくれないかしら」
南の問いに、笠井は重い口を開く。
あの世界でいったい何があったのか、その詳細を語る。
「黒ローブ…」
一連のことを話し終えると、南は考え込んでいた。
「あの黒ローブはいったい何者なんですか!? あいつのせいで、藤本は! 藤本は!…」
笠井は、こらえていた感情を一気に爆発させる。
涙が止まらない。
悔やんだところで、藤本を失ったという現実は変わらないというのに。
「ごめんなさい…。その、黒ローブについてはこちらで改めて調査するわ」
南は立ち上がり、笠井の肩に手を置く。
「今、私たちがあなたにしてあげられることは何もない。でも、私たちが必ずその黒ローブを突き止めてみせるわ」
すると、扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、先ほど母を案内していった男だった。
「笠井くん、紹介するわ。彼は、
笠井は合点がいく。
その声を初めて聞いたときは思い出せなかったが、今ならあの夢の中で聞こえた声だと分かる。
徳井はかなりの長身ではあるものの、その温和な顔は彼の人の良さが表れているようであった。
「あ、あの―」
笠井が感謝の言葉を述べようとしたとき、
「すまなかった!」
徳井は深々と頭を下げる。
「僕がついていながら、君たちに何もできなくて…。本当に、すまなかった」
彼の言葉には、その悔しさがにじみ出ていた。
あの事件で後悔に
「いえ…。あなたのおかげで、僕も生き残ることができたわけですし…」
徳井は顔を上げ、笠井を見つめる。その眼は、真っすぐ自分を見ていた。
「僕はまだ未熟者だけど…。必ず、あの藤本くんを襲った黒ローブの正体を突き止めて見せるから」
「…はい」
彼らの戦いは、まだ終わっていないのだ。
「では、笠井くんもいろいろと疲れたと思うから、今日はここまでにしておきましょう」
南がそう言うと、別の職員が部屋に入る。
「笠井くんをお母さまのところまで案内してあげて」
南はその職員に伝え、笠井は部屋の外へ案内される。
退出しようとしたとき、南が呼び止める。
「笠井くん。どんな決断をするかは、あなた次第よ。ただ、これだけは伝えておくわ。夢幻開現師になるということは、これからもこういった悲劇を経験することになる。そのことをよく覚えておいて」
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