第5話 私

「君は、人魚なの?」


「ええ、見ればわかると思うけど」


 彼の問いかけに、私はなぜか、冷たく返してしまいました。本当は、話しかけてもらえて心の底から嬉しかったのに。心臓がドキドキしすぎて、思考が停止してしまったのでしょう。

 だって、ずっと夢見ていましたから。彼と話せる日のことを。

 私の夢は、やっと叶ったのです。


「……ごめん」


 彼は気まずそうに下を向いてしまいました。

 私はすぐに後悔しました。誤魔化すように、慌てて話しかけます。


「あなたは、人間?」


「あ、ああ」


 おかしな質問をしてしまいました。私はまた後悔します。彼にやり返しだと思われてしまったかもしれません。


「そう。……私、人間と初めて話したわ。またね」


 私はなんだか気まずくなって、海に潜ってしまいました。

 また彼に会えるでしょうか。会えるといいな。もっと彼を知りたい。

 私は彼のことばかり考えていました。

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