第14話 決断と改悪

 都市は13個の居住区に分かれている。中でもグラのいる13区は治安最悪だと言われている。

 元々、13区はANIMAの襲来が他の居住区に比べて多かった。それは都市の構造が関係している。都市は基本的に円形に似た形であり、そこから13個の居住区に分けられている。しかしながら、13区の成り立ちは他の居住区とは少し異なっている。

 元々、この都市は中心に存在する1区とその周りにある11個の居住区で作られていた。しかし防衛隊の存在により、ANIMAの生存圏を狭め、人類の領域を押し広げた。その際に押し広げられた領域の中の比較的安全な場所に作られたのが13区である。


 ただ、比較的安全とはいいつつも、元はANIMAがいた場所であり建物の建築も上手く行かず、また移住する人も少なかった。そして円形の都市内に存在する12個の居住区と違い、取り返してできた13区は出っ張った場所にある。

 故に元からあった防衛設備を新しく整備しなければならず、莫大な金と資源が必要だ。


 そのため、13区に来るような者達は他の12個の居住区で生活することができなくなった者たちばかりであり、当然に治安は悪化する。人類はANIMAとの戦いに目を向けなければならないが、13区に流れ着いた犯罪者や不良者は人間同士で争っている。当然、それほどの環境であれば銃や麻薬、腐敗、汚染。様々な肥溜めが跋扈していた。


 ただ、グラが13区に来たのは不運でもあり、同時に幸運なことでもあった。

 まず13区には防衛隊があまり来ない。防衛隊はANIMAと戦う人類の救世主であるのと同時に都市の警備や治安維持などの仕事を行っており、警察の代わりでもある。故に治安維持のため防衛隊は各居住区を見回っている。

 グラのようなものがその辺を歩いていたら一瞬で呼び止められ、戸籍を確認されて一発でアウトだろう。その点、13区は警備隊の見回りがほぼ無く、それでいてグラのような不審人物がそこら中にいる。

 グラがここにいても怪しくは無かった。その点において、13区はグラが生きる上で最も適しているのは当然のことだ。しかし生きにくい環境であるのもまた事実。

 

 13区には幾つかの区分がある。それらは主に犯罪組織やギャングの支配する場所ごとに分けられる。13区でも隣接する7区と近いところであれば治安は安全で、ギャングも少ない。しかし7区から離れ、ANIMAの生存圏に近づくほどに治安は悪化していく。それはANIMAから攻撃される恐れがあることや防衛隊も簡単に出動できない場所にあるためより危険な犯罪者が集まっているためだ。


 当然、13区でも端の方を取りまとめる組織はどれも巨大。そして危険だ。13区で生き抜くためにはそれらの領土ナワバリを把握しておかなければならない。だがそんなことグラは当然に知らない。


「………ここは」


 そのためグラは取り合えず人の多い場所に移動した。

 先ほどまで蹲ってはいたものの、腹も空いて、どうしようも無くなったので移動してきた。


 周りを歩く者達の恰好はどれも酷いものだ。布を一枚羽織っただけのような服を着た孤児。路傍に倒れる老人。腐敗し、異臭を放っている。しかし道行く人々はそれらに目を向けない。それがここでの当たり前であり、また自分自身も同じような恰好をして自分自身が生きるために他に目を向けていられないのだ。

 皆が布切れ一枚だけを着ている。そしてグラも擦り切れた灰色のローブを被っていた。

 周りに溶け込む色、そして状態のローブだ。

 

 グラがこの人の集まる場所に来た時、質感の良い高級なコートを羽織っていてとても目立っていた。また男に襲われた時の二の前になるとグラが判断し、コートの上にボロボロの布でも羽織って隠そうとした。しかしそう考えた瞬間にコートが形を変えて布切れのようなボロボロのローブへと変形した。

 まるでグラの意思に呼応するように、頭で思い描いたまんまの形へと変わった。

 幸い、路地裏の誰も人がいない場所まで避難していたため、その光景を誰かに見られるということは無かった。


 その後、グラは上手く周囲に溶け込んだ。

 今、歩いているところは屋台が立ち並ぶ大通り、のような場所だ。立ち並ぶ屋台の幾つかからは酷い臭いが立ち込めているし、店頭に並んでいる肉の塊は硬く、黒く、とてもまずそうだ。

 加えて、死体も稀に転がっており衛生環境も悪い。壁の落書きや黒ずんだシミ。修理されていない舗装された道。注射器やごみなどが散らばっている。


 その光景は租界にいた頃を思い出す。

 

 知人はおらず、知識も足らず、何をすればいいかすら分からない。

 少年はそうして周りを見渡しながら不安を抱えて歩くことしかできなかった。

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