第10話 技能大会 1
技能大会。
それは幼年学校で唯一来客が許され、日頃の成果を見せることができる一大イベント。
参加ができるのは上級生のみとなっている。
これは武芸と文芸の部に分かれて、そのどちらかに必ず参加をしなければならない。
あれから4年の歳月が流れ、上級生となったジュドーはその大会に参加することになった。
文官や武官を志す生徒からすればこの大会は登竜門と言っても良い。大会には中央貴族だけでなく、各省の役人、銃士隊や騎士団の士官達が見に来るからだ。
見に来るのは役人や士官だけではない。高位の爵位を持つ貴族も参観に訪れる。
武官、文官志望なら役人、士官の目に留まれば志願した時に有利に働くし、将来を見越してスカウトされることだってある。
武官文官志望ではなくても、貴族は将来的に見込みのある優秀な人材とは繋がりを持つことは重要なことであるため、これを機に交友関係を結んだり、独身の若い貴族なら自身の、或いは子を持つ貴族は自分の子供の結婚ないし婚約者を見つけることも珍しいことではない。
この大会で良い結果が出なくてもデメリットあるわけではなく、これが最後のチャンスというわけでもない。
それでも学生にとっては結果によっては自分の将来が決まるかもしれないまたとないチャンスであることには変わりはないのだ。
文官志望のナッシュは何日も前から準備に余念がなかったし、クリスもいつもより激しいトレーニングに励んでいる。
そんな中、ジュドーは周りの空気に流されるような形でトレーニングをしている。
「俺は闘技試合に出場するが、ジュドーはどうする?」
「僕は射撃に出るつもりだよ」
クリスの問いに答える。
クリスが出場する闘技大会とはコロシアムのような闘技場で一対一で対戦する武芸部門における花形の勝ち抜きトーナメント戦だ。
一番盛り上がるため出場選手も多いため、前日に予選を開いて篩にかけ、当日の決勝トーナメントに出場する選手を決める。
「ほう、射撃とは思い切った選択だな。てっきりクリスの対戦相手になるかと思っていたが…でも、お前は射撃も上手いからな」
射撃部門は地味ながらその難易度は下手な対人試合をする武門大会より高い。
使用する銃はマスケット銃。約30センチの正方形の鉄の的に10メートルほど離れた場所から穴の開いた板を挟み、その穴から射撃をして時間内に指定された弾数まで撃ち尽くし的に当てるという競技だ。
マスケット銃の有効射程内ではあるが、どんぐり型の弾ではなく丸弾を使用するため命中率はお世辞にも良いとは言えないので、普通に撃っても当てるのが難しい。しかも火縄銃のような前込め式であるため装填まで時間がかかる。速さと正確さを問われる競技なのだ。
「そう言うナッシュは文芸で何やるのさ?」
「論争だ。過去に出た議題を調べて対策を練っているところさ」
論争。文芸部門の花形で、選ばれた議題に対して定められた理論で、どれだけ論理的に相手の理論を覆せるか競い合うので、所謂論破王だ。
その議題は傾向はある程度決められているものの、社会問題から雑学まで幅広い知識と頭の回転の早さ、機転が試される。
「クリス。予選は明日だっけ?」
「ああ、ジュドー。別に応援は来なくてもいいぞ。心配しなくても決勝まで進んでやるからよ」
「まあ、お前なら大丈夫だろ。怪我だけはするなよ」
「ああ、ナッシュこそ勉強しすぎで熱出すなよ」
「馬鹿にするな。体調管理は完璧だ」
本番前日。予選日。
ジュドーは予選会場が行われている練武所で試合を観戦している。そこへ試合用の槍を肩に担いでいるクリスが近付いてきた。
「なんだ?ジュドーじゃないか。決勝トーナメントには出るから応援はいらないって言っただろ?」
「気になって見に来ただけだよ。今頃ボロ負けして片隅で泣いてたらからかってやろうかと思ってな」
「うへっお前性格悪くなったな。ナッシュに似てきたぞ。ナッシュの奴は来てないみたいだな。あいつこそ、嬉々としてそう言うと思ったが」
「そういう趣味はないよ。それで?結果は?」
「当然、トーナメント出場決定だよ。いつもジュドーを相手に模擬戦してるから楽なものだよ。お前から教わった身体の使い方が役に立っているから疲れもほとんどない。明日もいい調子でいけそうだ」
「ナッシュも同じことを言ったよ。トーナメントは出場できるだろうから、見るまでもないってね」
「あいつ…まあ、いいや。明日に備えて今日はもう帰るぞ」
そして、それぞれの想いを胸に大会が幕を開けた。
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