第11話 技能大会 2

技能大会当日。

開催を告げる花火の音で目を覚ましたジュドー。

クリスは既に起きて着替をしている。

互いに挨拶だけ交わすと、余計な会話はせず食堂で朝食を済ませて開会式の行われる観客席のある体育館へと向かう。

体育館では既に多数の生徒達が今か今かと待ちわびるように軽く体を動かしていた。観客席にも続ちらほらと人が集まりだし興味深く生徒達を見ている。

そして、上級生が全員集まり整列したところで教官達が生徒を囲むように並び学園長が壇上に立つ。


「これより技能大会を開催する!諸君の健闘を祈る!」


学園長が開催の合図を宣言した。


開催の合図と共に各々の会場に足を運ぶ中、ジュドーを呼ぶ声がする。


「よう!ジュドー!久しぶりだな」


「マルコ叔父さんじゃないですか!」


ジェリドの弟で中央貴族のマルコ・ヴォーダン男爵だ。その体格は力士のように大きい。

「学校に入ってから会ってなかったが、随分とデカくなったな!」

マルコはガハハと豪快に笑いながらジュドーの頭を撫でる。撫でる力が強すぎて頭がふらふらする。

「叔父さん!もう少し力抜いてくださいよ!僕は射撃部門に出るのですから!」

「おお!そいつはすまなかった!」

マルコはジュドーの頭から手を離すと向き直る。

「叔父さんも観戦しにきたのですか?叔父さんは貴族議員なのですからあまり関係ないですよね?」

「バカ。お前の応援だよ。下手な結果出したらジェリド兄さんに説教してもらうからな」

「…冗談ですよね?」

ジュドーの問いかけにマルコは実に爽やかな笑顔で答える。ただ、目は笑ってない。


あ、コレ駄目なやつだ。


ジュドーはげんなりと肩を落としながら会場へと向かった。

射撃場に隣接する選手待機室に案内されると、既に参加する生徒達がいる。ジュドーを睨みつける者。興味のない者。反応はそれぞれだ。選手の中には女子生徒も複数人いる。

教官に呼ばれた者が射撃場へと案内されて、その腕を競い合う。待ち時間の間は禁止されている訳では無いが私語をする者はおらず、集中力を高めている。

しばらくの後、ジュドーの名前が呼ばれた。

射撃場の射撃をする位置には机が並べられていて、その上にはマスケット銃一丁と弾と雷管が各8個と弾込めに使用する棒が並べられている。

そして、的が見えないように立つ5つ穴の開いた板。その穴の位置も大きさもバラバラだ。

本番前に3発試射をして配られたマスケット銃の個性を見抜く。

試射の時間になると確かめるように弾を込めて撃つ。

射撃場に銃声が鳴り響く。

そして全員の試射が終わると、教官が開始の合図を告げる赤い旗を掲げ、振り下ろした。


「はじめ!」


開始と同時に一斉に弾込めをして、それぞれ穴の開いた所から的に向けて射撃を始める。

撃ったらすぐに次弾を装填し、棒でつついて弾込めをし、準備が出来たらまた撃つ。この繰り返しだが、どうしても弾込めや狙いに時間がかかる。その時間を如何に短く、正確に撃てるかが肝だが、弾が的に当たる度にカーンという金属音が鳴り響く。それが自分より短く、多く音を鳴らしているのを聞くと焦りが出始め、弾込めが上手くいかなかったり、狙いが甘くなる。

どうやらジュドーの組では上手い生徒がいるようだ。短い時間で装填し、的に連続で当てている生徒がいた。その音を聞いて焦り始める生徒がいる中で、ジュドーはマイペースに弾を込めて、正確に当てていた。穴は全部で5つ。真ん中と右端にひとつ。膝の高さと脛の高さで左側に1つ。そして自分の頭より高い位置に1つだ。

ジュドーはそれらを位置を変え、姿勢を変えながら撃ち的に当てていく。そして最後の1つ、上段の穴だ。場所は自分の頭よりもひとつ高い所。

どうやら他の生徒達もその場所には苦労しているようだ。周りから「くそ!」「ああ!」という声が聞こえる。

(さーて、どうすんべ?)

弾込めをしながら思案し、その場で2回ほどジャンプをして穴から的を覗き込み。


「これなら…」


ジュドーは突然、後ろに駆け出して距離を取る。


「おい!何処へ行く!?」


想定外の行動に射撃を終えた生徒は不思議に思い首を傾げ、教官達は逃げるのかと厳しい視線を送る。

ある程度距離を離れると振り返り、そして壁に向けて銃を直ぐに撃てるように構えながら一気に駆け出しジャンプ!空中で構えて撃った。

ジャンプしながら放たれた弾は見事的に命中し金属音を鳴らした。

「おお!!」

教官達から感嘆の声が上がった。


こうしてジュドーの射撃部門の技能大会は終わった。


「ねえ!君!」


控室に戻る途中、肩を掴まれ振り返るとそこにはショートカットの女の子がいる。


「君、最後にやった跳んで撃つの。誰から教わったの?」


「誰からって…僕に領で武芸を教えてくれた人からで弓術の跳び撃ちだよ。それを応用したのさ」


「ふーん、君、弓も出来るんだね」


「ヴォーダン領だからね」


これは半分本当で半分嘘だ。弓術は確かにヴォーダン領で弾がきれたときにそれでも戦える方法として教わったのだが、跳び撃ちは大戦中に撤退戦の時の苦肉の策だ。足を止めた奴から倒されていった経験から、足を止めずに撃てる方法を考えた末にできた代物だ。

鬱蒼と木が生い茂り視界が悪く、足場の悪いヴォーダンの森の中で魔獣を間引きして戦闘の経験を日々積んでいると言えば自然に聞こえる。跳び撃ちなんてしているのはジュドーだけだが。


「へー!うちも大概だけど、そっちも過酷な領地なのね…」


「ところで…君は?」


「ああ!ごめんね。私はアライア・オーシアンよ。君は…」


「僕は」


「おい!ジュドー!!」


会話を遮るようにナッシュが慌てたように近付いてくる。


「ナッシュじゃないか。どうかしたの?」


ナッシュはジュドーの近くに行くと肩で息をしながら顔の汗を拭う。そして…


「クリスが…大怪我を負って病院送りにされた」


「え…?」








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