第3話 スポーツがないから喧嘩で語る
転生者。小田重蔵ことジュドー・ヴォーダンは転生したことを早速後悔し始めた。
ヴォーダン領には小さな川を隔てて東西分かれて初めにできたジュドーが住む東村、その次にできた西村と呼ばれている。そして今日、東村にある村一番の広場には東西合わせて200人ほどの6歳〜10歳になる子供たちが集まっていた。そこで始まるのは…
「おお〜!!やれやれ〜!!」
「がんばんなー!」
村の一大イベントと成り上がってしまった喧嘩祭りだ。
事の発端は20年以上前に遡る。
この広場で遊んでいた東西それぞれの子供たちによる遊び場がブッキングしたことによる些細な喧嘩だった。それがあれよあれよと広がり、いつしか東西の子供の遊び場の優先権を賭けた喧嘩となり、それがいつの間にか村のイベントとなった。
普段は平民と貴族の身分の差があるが、子供同士の喧嘩となれば関係ない。現代のようにスポーツというものが存在しないがないため喧嘩が盛んに起こる場所での大喧嘩は、娯楽が少ない田舎では立派なイベントへと変貌を遂げたのだ。
イベントとなることで素手だけで相手をするや、泣いたら勝負有りでそれ以上攻撃しない。この場の喧嘩は勝ち負け関係なく引きずらないなどのルールが設けられた。
ジュドーの父親を始め大人達が盛り上げているのは、単純に娯楽がないからだ。
ただ、殴り合うことで妙な親近感が生まれ、交流が増えることで地域の活性化に繋がり、大人になれば自然と一致団結して有事に対抗していこうという気概も副産物として生まれた。
喧嘩慣れすることで戦争時に他領よりも強い兵が生まれやすいという背景もあった。
領主としてはメリットが大きいのだ。
ただ、参加は任意ではあるものの、しないなら他の子からナメられるというデメリットがある。
領主の子供なら強制参加というジュドーからしては実にありがた迷惑なイベントだ。
「ジュドー!いくぞぉ!」
「ウウウーラーーー!!」
二人の子供がジュドーに襲いかかる。
「ったく…しょうがねぇな!」
ジュドーは二人の攻撃を一歩引くことで躱すと、すぐに半歩前に出て掌底をアゴに当てて脳を揺らした。
前世の彼の産まれた地域はスポーツがなかったせいか喧嘩が盛んで、どんな喧嘩自慢もあそこの子供には敵わないという逸話もあったくらい喧嘩が盛んに行われていた地域だ。
かくいう重蔵もそんな地域の洗礼を受けたせいもあり、かなり喧嘩慣れをしていたのだった。
そんな喧嘩慣れした人物に前世で培った武道が加われば素人の子供が敵う訳が無い。
彼等以外にもジュドーに殴りかかる子供は複数いたのだか、皆、脳を揺らされ倒れるか、投げ飛ばされて地面に叩きつけられるかで相手にもならなかった。
それでも何人も相手をするのは流石にキツイ。たがらと言って適当にやられてリタイアするのも癪だ。
そこでジュドーが考えた策は…
「やい!アラゴ!僕と一騎打ちの勝負だ!」
この声に暴れていた子供達は一斉にジュドーを見て、そして指名された人物。アラゴのほうを見る。その人物はゆっくりとジュドーのほうへと近づいてきた。
アラゴは西村を代表するオーク族の喧嘩自慢で、子供の頃は人族とあまり変わらない同じオーク族の子供の中でも群を抜いて体の大きい子供だった。
「ジュドー…いいのか?」
アラゴは不敵な笑みを浮かべて問いかける。
「良いも何も…こういうの、好きだろ?」
ジュドーも不敵な笑みを浮かべて返す。
「大好きです」
アラゴはこの状況を待ち望んでいたかのように嬉しそうに答える。
いつの間にか彼等の周りを囲むような円の広場が出来上がっていた。
正々堂々よーいどんなんてものはない。開始の合図は当事者が決める。それが暗黙のルールだ。
先に仕掛けたのはジュドーだ。
「シッ!」
一気に間合いに踏み込むと、鋭い声と共に腰の部分に蹴りを叩き込む。アラゴも負けていない。
大振りのパンチを当てようとするが、捌かれてパンチを打って伸び切った腕の脇の部分にジュドーの鋭い突きが刺さる。
「いってえ!」
思わず後ずさるアラゴ。
ジュドーはそこへ追撃とばかりに体当たりをするように柔道の小内刈りをして相手を倒すと、そのまま馬乗りになりマウントポジションとるとアラゴの顔へ集中的に殴りかかった。
「おお!ジュドーすげえ!アラゴ相手に馬乗りで殴ってるぞ!」
「いいぞー!やっちまえ!」
周りから歓声が湧く。大人達も身を乗り出して見ていた。
ただ、ジュドーの善戦もここまでだった。アラゴは強引に力技で返すと、お返しとばかりにマウントを取られたジュドーの顔めがけて殴りつけた。ジュドーも抵抗するが力の差が余りにも違いすぎるため、ここからは一方的に殴られて…
同じ西村の子供達が流石にマズイと止めにかかった時はジュドーは失神していた。
ジュドーの初参加の喧嘩祭りはジュドーのいる東村の負けで幕を閉じた。
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