第6話 魔王が仲間になりたそうに勇者を見ている――そんな魔王の素顔とは――!
『ああ、それじゃ俺も、勇者ユリシアに付いていこう』
あっさりと言ってのけたのは、魔王エンデ――魔族たちの王として君臨する、いわば最高責任者。
誰もが
「な、な、なっ……何を言っておられる――!? 何度も申しますが、ご自分の立場を理解しておいでか!? アナタに何かあれば、我ら魔族はどうなります!? 魔王自ら敵地に飛び込んでいくなど、聞いたこともありませんぞ!?」
『とはいえ、この純真にして
「それは、まあ……そうですが……しかし、何か
ツッチーはまだ心配しているようだが、そもそもの問題として、ようやく我に返った勇者ユリシアが
「ちょ、待っ……それ以前に、魔王が人間の国になんて来ちゃったら、みんなビックリしちゃうってば!? 大騒ぎになって、話し合いどころじゃないぞ!?」
『ふむ、確かに。クックック……先を見越した的確な意見、賢い、賢いぞ勇者よ。今すぐにでも頭を撫で、褒めそやしてくれようか――!』
「い、言ってる場合かあっ!? だから、魔王を連れてくなんて無理で――」
『フハハハ……なに、その程度の問題、何ということはないさ。まあ、見ているがいい。では……―――』
「えっ。……魔王の顔の、変な闇が、晴れて……え?」
魔王が闇顔の前に、右手の平を寄せると。
魔王の顔面を覆っていた闇が、徐々に、徐々に、晴れていき。
まるで―――分厚い雲の隙間から、銀色の月が顔を覗かせるように、艶やかな銀髪が躍り出て。
その顔も魔族というより、人間と変わりない……いや、
左目は燃えるような紅の瞳、けれど右目は片側のみの仮面に
「え、え、え……ま、魔王……えっ? ……魔王、なの?」
「ふう、やはりあの
「………………」
「? ……ハッ、まさか――!?」
ぼう、とユリシアに顔を見つめられ――魔王はカッと左目を見開き、彼女へと早口でまくし立てる。
「フハハどうした勇者、何か、何をか言わんとしているのか? 例えばそれは、アレではないか? 〝カ〟から始まり〝ッ〟と繋ぎ〝コ〟と合わせ〝イ〟と伸ばし〝イ〟に終わる、そんなコトを考え口走ろうとしているのでは? クッ、クハハッ――構わん! 心のままに述べるが良いわ――!」
「……へっ、あっ、ごめん魔王! ちょっと考え事してたのと、あと妙に早口な上に回りくどすぎて、全然聞き取れなかった!」
「そうか、なるほどそうか……ではゆっくり、そう……〝熱中症〟をゆ~っくり、発音してみるとか如何だろう?」
「魔王様、みっともないですよ」
サラにスパッとツッコまれる魔族の最上位存在、魔王。
と、今も少し
「あっ、えっと、その……ごめん、そんなわけないはずだけど……何だか前に会ったことがある気がして……勘違いだっ、ボーっとしちゃってごめんっ」
「ふむ。……ククク、なに、構わん。それより、話を進めるか」
勇者の謝罪をあっさりと受け
「さて、見ての通り、これが俺の素顔だが……どうだ、これなら人間の国へ入ったとて、さほど違和感はなかろう。旅の最中、勇者の仲間となった、というコトにしようか。それに俺が付いていった方が便利だぞ。
「えっ、えっ……ここから王国まで、飛べるの? すぐに? す、すごいけど……それって、いつでも人間の国に攻め込める、ってこと?」
「俺がその気になればな。まあ
心底から面倒くさそうな魔王の顔が――けれど一転、楽しみを見つけたように、愉快そうな笑みが浮かぶ。
「が、勇者の栄誉ある
「っ!? な、なんだ、魔王ッ……一体、何を企んで――」
「さあ、お着替えのお時間だッ――メイドのサラよ!
「えっ。……え、えええ!? いや国に戻るだけなのに、着飾る必要はなくない!? て、ていうか、心の準備、っていうかぁ……」
「かしこまりました、魔王様。さあユリシア様、
「水の四天王の能力、そんな感じで使っちゃって大丈夫なんです!? ちょ、サラさん、押さないでってば~~~!?」
平静に見えるサラだが、どことなく楽しそうで――ユリシアと二人、きゃいきゃいと騒ぎながら玉座の間を出ていく。
そんな二人を見送った魔王は。
「ククク……可憐ながらもくたびれた旅装の女勇者が、果たしてどのような変身を遂げるのか……見ものではないか! フッ、フハハハハーッ!」
「魔王様……喋り方アレなだけで、なんかミーハーな感じっスね……」
ツッチーが呆れ気味にツッコむ中、魔王の高笑いが愉快そうに響いた。
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