第2話 女勇者の、あまりにも過酷な旅路――!
さてさて、ここは魔王城の玉座の間、単身突入してきた勇者ユリシアが、凶悪と名高い魔王エンデと
水と油、
少なくとも勇者ユリシアは、そう思っているようだ、が。
「っ、いい加減にしろ、魔王! ふざけたことばかり言って、私をバカにしてるのかっ!? それとも、そういう策略でっ……」
『いいや全然。むしろ俺はずっと本気だし。今は正直、キミが来てくれたことが嬉しくて、策略やら陰謀やら全く考えられない。俺は魔王らしくそういうの得意なんだけどな、なんか申し訳ないな』
「くっ、申し訳なく思うポイントが、何やら魔王的な気もするけどっ……わ、私が来たから嬉しいって何だ!? こっちは、ここから遥か南の王国から、長い旅路を苦労して
『ほほう、苦労して、か……ククク、確かにな。そのコトを、この魔王が知らぬと思っていたか? 全て知っているさ、なぜなら……ここまで勇者ユリシアを導いたのは、魔王である俺なのだからな……!』
「!? な、なんだって……はっ、まさか、そんな――」
何か思い当たることがあるのか、勇者ユリシアが振り返る、旅の記憶とは――
――――――★回想開始★――――――
・ケース1
人間の治める王国と、魔族の領域と知られている境界線――その国境を越えたユリシアは、
「ここから先は魔族の領域……つまり魔王軍の領地で、いつ魔物に襲われてもおかしくはないんだ。いつ戦闘になっても対処できるよう、気を引き締めないと……!」
『―――ウオオオ危険な魔物は駆除対象ーッ! どうも、通りすがりの街道整備おにいさんです。ククク、勇者よ、森林や山岳地帯より、この街道を通れば比較的、魔物との遭遇は少ないはずだぞ……フーハハハー!』
「あっはい、ご親切にありがとうございます。何だろ、親切な人? だったなぁ。目に留まらないくらい速いし、ローブを深くかぶってたから正体不明だし、顔も変な闇みたいので覆われてて良く分からなかったけど……この辺のファッションなのかな? まあいいや、情報通りに進もう……がんばるぞっ、むんっ」
『可愛すぎる……おっと、早く退散せねば。スタコラサッサである』
ぐっ、と両手を握って気合を入れ直した勇者ユリシアは、恐るべき魔族の領域を進んでいく……!
・ケース2
野宿で夜を迎えていた勇者ユリシアに、魔の手が迫る――ただし魔物や魔族ではなく、それは人間の盗賊団による魔の手で。
「げっへっへ、魔族の領域を一人旅たぁ
「っ、いつの間に囲まれて……無法者の盗賊団め、魔族の領域でまで無法の所業、恥ずかしいと思わないのか!?」
「そいつぁ逆だぜ、ここは人間の支配が及ばぬ領域、だからこそ人の法なんざ意味はねぇ……無法の流儀が許されるってわけよ! げっへっへ(三度目)、さあ観念しやがれ――!」
「っ、うう、神剣を人間に向けるわけには、どうすれば……きゃ、きゃあっ――」
『―――はい勇者の〝きゃあっ〟頂きましたァァァ!
「ギャアアアア闇に成す術もなく呑み込まれるぅぅぅ! これが今まで好き放題やってきた罪と罰かァ――!」
「わ、すごい……魔族の世界って、あんな強い人? も普通にいるんだなぁ。ところでまた顔が闇に覆われてたけど、やっぱりこの辺のファッションなのかなぁ」
盗賊も自治体おにいさんも瞬く間に姿を消し、とにかく勇者ユリシアの旅は続いていく……!
・ケース3
「ここが魔王の国への入り口にして、最難の関門と呼ばれる、〝豪炎の魔将〟が守る砦……ここまでは運よく進んでこられたけど、さすがに今回ばかりは簡単じゃない。っ、ちょっと、怖いけど……でも私は勇者なんだっ。負けないぞっ――」
『愚かなる人間よ、我が豪炎に骨の
「あの、〝豪炎の魔将〟さんですよね? 魔王四天王の一人で、魔王軍きっての超好戦的な悪魔みたいな魔族っていう……」
『いえいえ全然ぜ~んぜんッ! 大体、最初に出てくる火属性の四天王とか知れたもんッスよ! これが最後の四人目とかなら良くも悪しくも変に武人だったり回復してくれたり濃いかもしんないスけどね! あっ余計な話とかして時間とらせてスンマセン! もう早々に、急いで進んじゃってクダサイ!』
「いえその……勇者を素通りさせちゃって、大丈夫です? あとで魔王とかに怒られたりしません?」
『いえむしろ邪魔したほうが殺されます』
「どういうことなの!?」
――――――★回想終了★――――――
「―――くっ! 道理でここへ辿り着くまで危険な魔物には大して遭遇しないし、魔王城へ辿り着いてからも門は開けっ放しで素通りできて、何なら通りすがった魔族に半笑いの複雑な笑顔で見過ごされて……道に迷ってたらメイドさんから道案内されて、この玉座の間まで通されたし……何だかおかしいな~って思っていたけど、そういうことだったのか……!」
『俺が言うのも何だけど、もう少し色々と疑うべきでは?』
「それにしても道中でたびたび出会った顔が闇で覆われてた人、何だったんだろ……そういえば魔王も顔が闇で覆われてるし、やっぱり魔族の流行ファッションとかなのかな……」
『どうやらここまで来てもお気づきでないご様子。ククク、天然さんというコトか……そこも逆に可愛らしいではないか……!』
「何にせよ、勇者である私は、ここまでまんまとおびき寄せられたわけだ……魔王め、一体何を企んでいる……!?」
『おっ、話が本題に帰ってきたな。ククク、何を企んでいるのか、だと……? やはりその目で見ねば、理解できまいな―――者ども、かかれ』
「! っ……やっぱり、伏兵が潜んで……!」
パチンッ、と魔王が指を鳴らしたのを合図に、〝くすくす〟と笑いながら魔族の美女たちが姿を見せる。
鋭い一対の角、悪魔の羽、獣の爪や尻尾、それぞれに特徴があり――メイド服という共通の衣装をまとった彼女らが。
『―――それじゃ歓迎パーティーの準備、始めま~す♡』
『とりあえずテーブルと料理、運んじゃって~?』
『テキパキ働けよテキパキー! 勇者ちゃんを待たせんじゃねーぞー!』
「なにやら本当に歓迎されそうなムードに!? 本気なのコレ!?」
『ククク、だから初めから、そう言っているであろう……さあ、恐れるが良い勇者ユリシアよ、魔王の
「なんか思ってたのと違う危機が迫ってくる!?」
『ちなみに食べきれなくても配下がちゃんと
「特に危機とかでもなかった! もう何なの、意味わかんない~!」
こうして、勇者ユリシアの悲痛な悲鳴を尻目に――広い玉座の間に豪勢な料理が運び込まれ、着々と歓迎の準備は完成するのだった……。
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