あまりに不遇な女勇者へ、魔王が望んだハッピーエンド

初美陽一

第1話 女勇者と魔王の、運命の決戦が始まる――!

「世界を乱す魔物たちの王、魔王エンデ……ついに辿り着いたぞ!

 今こそおまえを討ち滅ぼし、世界を救ってみせる―――!」


 名乗りを上げたのは、十六歳の少女ながら、たった一人で旅を続け、とうとう魔王城に辿り着いた者――女勇者ユリシア。


 右手に握るは勇者の血筋にしか扱えぬ、女神の加護を受けた〝神剣〟――その切っ先を、称号通りに勇ましく突き付ける彼女へと、向けられるのは。


『クックック、良くぞ来た、勇者よ――歓迎してやろう。

 その細腕にして、若い身空みそらにして、女人にょにんの身にして。

 よくもここまで辿り着けたものと、まずは褒めおこう。

 されど今、勇者と魔王が相対したという、この事実。


 一体これから、どうなるか――覚悟は出来ているか?』


「ッ……なんて凄まじい魔力、恐ろしい威圧感……でも、それでも!

 私は、負けない――勇者は決して、くっしたりなんてしないからっ!」


 地の底から響くような重苦しい声と、吹きすさぶ尋常ならざる魔力の嵐――その身は闇に覆われ、姿さえも鮮明ではない、まさに魔王と呼ぶべき異形の存在。


 その威容いようを少女の小さな体に一身に浴びる勇者は、それでも退くことなく。

 むしろ力強くにらえると、魔王は愉快そうに笑い声を上げた。



『ククク……ハーッハッハッハ! 良い目だ、ならば――――


 まずはフルコースをきょうしてくれる、その後にケーキでも食らうが良い――!』



「うおお魔王、覚悟……うん? …………………。

 言葉通りのなの!? 勇者と魔王の決戦はどこいった!?」


『いやあ、本当に良い目だ……つぶらで愛くるしく陽光のような金色の瞳に、そうも真っ直ぐ見つめられると、不覚にもドキドキしてしまうぞ。魔王動悸どうき。よもや可愛さの魔眼でも持っているのでは? 真の勇者は魔王を目で殺すのか?』


「そっそんな奇特きとくな能力なんて持ってませんけど!? えーい、ふざけるな魔王! 真面目にやれ、今こそ人と魔の争いに決着を――」


『全く、若き身での一人旅で、此処までの道のりも険しかったろうに……重ねて言うが、よくもここまで辿り着けたものだ。がんばった、本当に良くがんばった。エライぞ、あまりにもエラすぎて涙が出そうだ。クックック、さあ、存分に疲れを癒やしていくが良いわ……!』


「さっきから第一印象のイメージがくつがえされ続けて戸惑う! ああもう……そんな恐ろしい魔力を叩きつけておいて、言ってることが支離滅裂しりめつれつじゃない!」


『おっと、貴女あなたと出会えた喜びに、ついついテンション上がって魔力と変な高笑いが溢れてしまった。魔王失敬しっけい一先ひとまず抑えよう……これでどうかな?』


「魔力とかテンションの上下でいたり消えたりするの!? 魔王とか魔族のこと良く知らないけど、生態が不思議すぎる! もう、ああもお~~~っ……!」


 ぷるぷると肩を震わせた女勇者――ユリシアが、がれつつある気勢を奮い立たせるように、ギンッと(円らな)瞳で魔王を睨み、咆哮一閃。


「とにかく今こそ、この剣でおまえを貫き、打ち倒してやるっ――

 魔王、覚悟しろぉ―――!」



『キミになら殺されても構わない。

 さあ、俺の胸に飛び込んで来るが良いわ――!』



「私のやる気をことごとくじくなあっ! んもーワケわかんないっ!

 ふえ~~~~~~~んっ!」


 こうして、世界を救うべく神剣をふるう勇ましき者――ユリシアの、年頃の少女らしい声が響く中で。


 その気になればいつでも世界を滅ぼせる、恐るべき最強魔王エンデが。


 とうとう対峙し――激闘を、繰り広げるのだった――!


 ………………。



 激闘を、繰り広げるのだった―――!(大事なことは二度述べるが運命サダメ

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