第6話
あいちゃんにしごかれ過ぎた僕は、心の平穏を取り戻すために気分一新することを模索する。その結果、
訓練が終了し帰宅後、晩ご飯の最中に腕時計が目に入るともう僕はこれの虜だった。そして昨日の夜からの続きがしたかった、その一心が睡眠時間を削ってまで早起きすることを催促する。一心不乱になって
あいちゃんに見つかれば、無我夢中で骨の玩具で遊んでいるとか言われそうではある。それも仕方のないことだろう。僕もそう思ってしまったから。
マナ過敏症時は装着が必須だったので、無意味かもしれないと思いつつ左手に身に着けてはいたのだけど、これが実に面白い。
単純な時計や電話、メールなどの連絡機能から、戦闘面ではマップ作成、
「おはようございます。早起きですね~。
あ、その時計で遊んでたのですね。男の子ってそういうの好きですよね」
ビクッ! 不意打ちか。
一人暮らしだからって油断していたよ。
「別にダンジョンでないといけない理由がないので、やって来ちゃいました。
「それは了解したけど、あと五分待って」
「五分後も十分後もきっと同じ事言いそうなので却下します。
さあ、始めましょう」
なに……読まれてるだと? 沼は
そして舞台は変わってゲーム内に。
「ニ日目は難易度を上げていきますね。
4:4:1の割合で精神を分割していきます」
うおっΣ(゚Д゚)何か嫌な予感……。
「4のお二方は習得するまでこのゲーム内に篭って修行三昧を送ってもらいます。
1の
「なんで……その割合なの? 3でそれぞれ分ければ……い…」
駄目だ。言葉を出すことも辛い。
「お二方は空術士になる為の術式のお勉強して貰うのですが、割合を3に減らすと容量不足になってしまい……、失敗すると消滅してしまう可能性も……」
マジッスか!?
「個別練習に入る前にここで軽く説明しますね。
空術士とは空気や空間を操ることを基本とした術士であり、相手より優位な立場で戦えるように訓練していきます」
「先生、……空間ってどういうことですか? 空いてる場所?」
「この場合の空間は次元――つまり点から線、平面、立体、という考え方とは違います。
私と
「え? どういうこと?」
「簡単に言うと好きな時に好きな所に術を発動させられるます。繋げた空間を使えるのは発動した空術士だけです。
先ほどの続きを言うと、
「そんなの避けられないやん?」
「それが空術士の優位点です」
「
「……かなり難しそう……」
「空気が押し合って弱い方に流れるのを風というように、戦闘で闘気がぶつかり合い強弱が出てしまうと弱い方に負けた分だけ気の流れ、突風が襲います。そうなると殴り合いが始まる前に負けてしまいます。
なので格上相手と戦うためにはその場の空気を自分でコントロールする必要が出てくるのです。
「らじゃー」
「三人目の
はっきり言うと格上は、昨日体験した重力とは比べ物にならない圧力を発します。生半可な覚悟と実力では命取りになります。
体力、筋力、精神力を何段階も上げなくてはいけません。これは基本ステータスを上げるトレーニングになります」
「いえっさー」
「
「誰か分からないけど、外出する?」
「いえ、玄関前で大丈夫だと思います」
1の僕だけゲーム内から出され自宅のマイルームに戻ってきた。時計の時間は、全く進んでいなかった。改めて別格だなと思った。
学校の制服に着替えて階段を下りていると、玄関が開く音が聞こえる――。
「
中学の寮生活をしている妹が帰ってきた。
「兄さん、ただいま。目隠し取って、また倒れても知らないよ」
妹の七海が特別ゲスト? 「必要な物があったから取りに戻っただけ」と手短に言い残し、狭い廊下を横切っていく。
「おじゃましまーす」
がらがらと玄関の引き戸が開く音と同時に幼い声が聞こえてきた。
「――陸?」
あり得ない状況に振り向いて玄関に目を向けた七海が、入って来た低学年の小学生くらいの男の子に向かって弟の名前を口に出した。
へ? 陸? そんな馬鹿な。この子が特別ゲストなのか?
「え、いや、本当は違うのだけど、違う筈なのだけど、その余りにもそっくりだったから」
もうすでに空は亡くなっている。だから別人なのは間違いない。間違いないのだけど声もあの頃の記憶のそれと瓜二つだった。あの七海が間違えるくらいなのだから、背格好もまるで丸写しのようにあの姿でここに立っている。あの瞬間から止まっていた時間が動き出して、何事も無かったかのように家に帰ってきたと思ってしまうくらいに。
「あ~、紛らわしくてごめんね。
あいちゃんの名前を出したらわかるかな? 僕は助っ人としてやって来ました。
ハルと呼んで下さい」
助っ人? 幼い子が? 陸なのか陸じゃないのか、気持ちが完全に整理出来ずに僕達兄妹は呆然と立ち尽くしていた。 この子は一体何者なんだ?
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