第31話
現在8つ目のボーナスステージを攻略中なんだけど、さすがと言うべきかこれこそダンジョンのあるべき姿だと言うべきか。
悩みどころではあるけど、目の前ではかなり激しい戦闘が繰り広げられていた。
敵対するは獅子の強靭な体躯にコウモリのような大型の翼、サソリのような鋭い尾を持つ人面の魔物。
過去の記憶に照らし合わせるなら、おそらくマンティコアだろう。
知能がかなり高く、獰猛で残虐な性格をしている中々厄介な魔物だ。
それこそ強敵と分類して良い相手な訳だけど、もちろん相対してるのはオウマ1人だよ。
あ、6つ目と7つ目の魔物はオウマと相性が悪くて瞬殺だったからもうクリア済み。
風を纏う大型のカンガルーのような魔物と鉄のような鈍い輝きを放つ甲羅を持った大型の亀の魔物だったんだけど、カンガルー自慢の速度はオウマにあっさりと見切られてカウンターで。
硬度が自慢だったのだろう鉄の甲羅も魔纏状態の大剣+上空からの落下攻撃の前に耐えきれず貫通し、どちらも開始1分足らずで決着がついてしまった。
そんなこともあってオウマの機嫌がやや降下気味だったんだけど、マンティコアが今までと比較にならないくらい強くて今は絶賛最高潮って感じ。
悪役よろしくフハハハハって高笑いをあげながら、嬉々として爪と剣で打ち合ってるよ。
ほんと味方で良かったって思っちゃうくらいにはラスボス感凄いけど、若干一名あの姿に恍惚の表情を浮かべてる人がいたりする。
「はぁはぁ……オウマしゃまぁ……」
「綾、さすがにうちでもその表情はやばいと思うわ……」
「綾はオウマ殿がタイプなのだな。
あそこまで気概のある御仁は中々いないからな、頑張って射止めるのだぞ!」
「……梓は人の応援してる場合じゃないでしょ」
「んなっ?! そ、そんなことないッッ!!」
やれやれ、なんて緊張感のない会話をしているんだか……。
ほら、あまりの態度にマンティコアさんがこっちを睨んで激おこだよ。
「よそ見なんて随分と余裕じゃねぇか」
その行動を挑発と受け取ったのか、額に青筋を浮かべたオウマはわざと大剣の腹部分でマンティコアの顔を強打。
口や鼻から血が噴き出すのもお構いなしに回し蹴りを叩き込み、数メートル先へと蹴り飛ばした。
「ゴギャアアアアアアァアッッ!!」
「喚くな。もうお前に興味はない、さっさと散れ」
砂埃を上げながら勢いよく起き上がり怒りの咆哮をあげるマンティコアに、心底つまらなそうに冷たい視線を向けたままそう告げたオウマ。
挑発の借りを返すためにわざとその場で止めを刺さなかったんだよと言わんばかりに、振り下ろされる腕を爪ごと両断。
痛みでのけぞるマンティコアの懐に飛び込むと、片腕で逆袈裟に大剣を振り抜いた。
地面を滑らせながら溜めを作った、反動も乗せた無慈悲な一撃。
しばしの時を置き、ずるりと嫌な音を立ててマンティコアの身体が斜めにずれ落ちる。
先ほどまでの激闘が嘘のようにあっさりついた決着に、氷緒さんたちはポカンとして固まった。
遅れて魔石へと変化したマンティコアをみて、ようやく我に帰る。
「手を抜いていた、ということか……?」
「いえ、そういう訳じゃないと思いますよ。
実力はかなり拮抗していましたし、むしろやや不利だったくらいです。
おそらくマンティコアの態度にブチギレて、怒りで壁を1つ越えたんじゃないかな」
「お怒りのオウマ様もすてき……」
そんなの有りかと言いたげに頬をひくひくさせる氷緒さんと、目をハートマークにして熱い視線を送る西野さん。
水鏡さんは梓も人のこと言えないでしょって突っ込んでて、北見さんは考えることを放棄したらしい。
なんだかんだで僕たちの中で一番北見さんが真面目っていう、ほんとギャップが面白いよね。
「お恥ずかしいところをお見せしました。まだまだ修行が足りませんね」
それはマンティコアに最初遅れを取っていたこと? それとも、ブチギレてしまったこと?
とはさすがに聞けなかったのでスルーしとこう。
「一応まだ続きがあるみたいだね。
さすがにそろそろ厳しくなってきてるし、帰還も視野に入れて良いと思うんだけど」
「そうだな。悔しいが、今のマンティコア戦ですら私たちはまったく役に立てなかっただろう。
ここからの判断は二人に任せる」
氷緒さんの意見に同意すると、水鏡さんたちもこくりと頷いた。
「オウマはどう?」
「……不甲斐ないですが、我1人ではここが精一杯だと思います。もし次も挑戦して良いなら、我が主人の力もお借りしたい」
「なら進んでも大丈夫そうかな。僕もそろそろ『次』を考えていたから、ちょうど良いかも。
コード002限定解除、『
封印を解除すると、僕の背の右側に一枚の白く可愛らしい翼が顕現。
バサっと音を立て広がる鳥のような小さな白翼に、女性陣からおぉ〜と感嘆の声が上がる。
「これまた綺麗だな……。
今までは黒かったが、今回は白いということはまた別の能力か? 見るのが楽しみだ」
「……ほんとに月涙は底がしれない。それでこそ追い甲斐がある」
「物語に出てくる天使の羽みたい……。さ、触っても良いのかな?! え、いいよねっ?!?!」
「今がコード002、この間のがコード001と003。
ということは、もしかしてまだ続きがあるかもってこと? すごいね、月涙くん」
手をわしわしとして興奮した様子を見せる1人以外は、概ね冷静さを取り戻したようで何より。
「ふ……フハハハハッッ! 本当に我が主人は素晴らしい。
貴方様に出会えたこと、あの時配下に迎えていただけたこと、あの瞬間が我が人生の最良であったと改めて確信いたしました。
いずれお手合わせ願いたいものです」
物凄く爽やかな笑顔を向けてくれるんだけど、闘争心が隠しきれず雰囲気がギラついててやはり怖い。
この戦闘狂に呆れられないためにも、今後もより一層修練に励まねば。
あくまでこの能力は、こちらの世界ではチートでしかないのだから。
「さ、いこうか。次は何が出てくるんだろうね」
ここからは僕も闘うとあって、僕を先頭に扉をくぐり抜ける。
9つ目のステージは今までの部屋よりもさらに二回りくらい広く、奥にはこれまた巨大な体躯をした魔物がこちらを見据えて待ち構えていた。
2m以上ありそうな首なしの鎧騎士に、彼が乗っても尚人が乗れそうなほど巨大な首なしの黒馬。
見た目はデュラハンそのものだけど、黒馬がバチバチと音を立てながら青白い雷光を纏っている。
あっちでも見たことのない魔物だけど、あのタイプは非常に厄介なことだけは間違いないだろう。
「氷緒さんたちはギリギリまで離れていてください。『
僕の呼びかけに翼の羽が一枚抜け落ち、盾の形へと姿を変え離れていく氷緒さんたちを追随。
オウマも即座に戦闘体勢に入り、一触即発の雰囲気が周囲を満たす。
均衡を破ったのは、パリッという小さな音。
次の瞬間には目の前からデュラハンが消え失せ、僕はオウマを押し飛ばし大きく前に跳躍。
続けて背後からブオンッと轟音が鳴り響き、僕らが先ほどまでいた場所をデュラハンが持つ片手剣が薙いでいた。
「『数奇な籠手』『王冠の腕輪』『赤の誇り』」
敵の脅威度を測り間違えていたことを一度のやりとりで悟り、冷静に左手だけで全天宙返りしつつ身を翻し体制を整えるオウマ。
敵をしっかりと見据えつつ、着地前に装備を展開。
右手に金色の縁取りがされたレッドメタルの籠手が、左腕に赤色の宝石がはまる金色の王冠を模した腕輪が、首元にはぼろ布のような真紅のマフラーが顕現。
着地と同時にさらに大きく後退し、油断なく武器を構え直した。
「急に難易度上がりすぎでしょ……。
『
僕の呼びかけに嬉々として翼から羽根が二枚抜け落ち、剣へと姿を変え左右の手に収まる。
「……ヒヒーーンッ」
まるでこちらを待っていたと言わんばかりにタイミング良く馬がいななき、パリッという小気味良い音を残しデュラハンの姿が掻き消えた。
次の瞬間にはオウマの背後へと移動していて、剣を振りかぶる姿が目に入る。
「後ろっ!!」
僕の呼びかけに条件反射で反応したオウマは、体を急速に捻りつつ後方へ回し切りを叩き込む。
運よく振るわれた片手剣とぶつかる形になり、後方へと後退りするだけで直撃を避けることができた。
再びまったく反応できなかったことに悔しそうに顔を歪めるオウマだが、あれは仕方がないと思う。
だいぶ遅いとはいえ、それでもあの馬は尋常じゃない速度を叩き出しているからね。
雷属性の魔力を用いた身体強化。
その効果は圧倒的な移動速度の上昇であり、ましてや使っているのが元々脚力の強い馬とあっては効果も桁違いだ。
おそらく遠目で見ている氷緒さんたちですら、瞬間移動してるようにしか見えてないんじゃないかな。
その後も2度3度と襲いくるデュラハン。
僕は回避に専念することで攻撃をもらうことはないが、オウマはその身に刃が当たる感覚に反応して躱すという荒技で対応。
騎士の攻撃速度は上昇していないのでなんとかなっているが、それでも浅い傷は増えていくばかりだ。
だがそれが良いと言わんばかりに、どうにかして攻略してやると燃え上がっている。
そんなオウマを見ていると、僕は口を出すべきか否か、その答えが出せなくなっていった―――。
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いつも当作品をお読み頂きありがとうございます!
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1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!
現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!
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