第28話
さてさて、やってまいりました奥多摩上級ダンジョン。
なんでここにしたのかって?
郊外にあることもありここへ潜りに来る人がいないことと、関心が薄いから入退場が人目につきづらいから。
あと名前の響きがなんとなく良かったからだよ。
「いやぁ、することないねぇ」
「ですね……。おかげで魔力操作の修練は捗りますが」
言葉通り、オウマは周囲の警戒をしつつ魔力を所定の位置に集める修練中だったりする。
オウマは属性の適正こそなかったものの、魔力はそこそこあったこともあり魔纏と身体強化を覚えるべく修行中なのだ。
正直オウマが魔力を十全に扱えるようになったら勝ち目がなくなりそうなんだけど、それはそれ。
彼の向上を阻む理由にはなり得ないからね。
「なんていうか、こんなに緊張感なくて良いのかなぁ……」
この光景に北見さんはやや納得がいかないらしく、ジト目でこちらを見ている。
「しょうがないよ。あの三人がやたら張り切ってるからね」
僕らの視線の先では、それぞれがとても良い笑顔で魔物を次々と蹂躙していた。
氷緒さんは手刀でスパスパと首を刈り取り、水鏡さんは魔力球で胸に穴を開け、西野さんは拳で敵を破裂させている。
めちゃくちゃスプラッターな光景ではあるけど、しっかりと修行の成果が出ているようで感心かんしん。
氷緒さんと西野さんは攻撃が当たる瞬間のみ魔纏しているから魔力の消費は必要最低限だし、水鏡さんは生成した魔力球を維持したまま遠隔操作することで消耗を抑えているようだ。
西野さんがかなり早いペースで魔纏を習得しつつあって、氷緒さんにとっても良い刺激になっているようで何より。
「綾があんなに強くなってるって知ったら、みんな驚くだろうなぁ……」
どこか感慨深げに言葉を溢す北見さんは、まるで我が事のように嬉しそうだ。
二人も落ちこぼれ認定されていた過去があるからなぁ。
今の二人を見た人なら、元落ちこぼれなんて想像すらつかないだろうけどね。
「北見さんは後衛だから目立ちづらくはあるけど、世に知れたら取り合いになるくらいには凄いと思うよ?」
「きゅ、急に褒めんなしっ!!」
見た目はほぼギャルな北見さんが照れてる姿とか、こういうのをギャップ萌えっていうのかな?
と言ってもお世辞でもなんでもなくて、本当に取り合いになるのは確かだと思うけど。
彼女は回復役としての適性が思ったよりも高く、見た目に反し努力家であったため今や1パーティに1人ほしいレベルの回復役に成長しているのだ。
さすがにまだ欠損部位の修復とかはできないけど、いずれできるようになるだけの素質があるし。
骨に到達するほどの深い傷であっても、ものの数秒で治癒できるだけのヒールは使えるからね。
「もう25層か、さすがに早いね。今日は70層まで進んで野営の予定だけど、これなら問題なさそうかな?」
「大丈夫でしょう。このペースなら76層まで進んでも良いかもしれません」
「体力と魔力次第だね。無理してもしょうがないし、のんびりいこうよ。普通は1週間以上かかるらしいしさ」
僕の言葉にこくこくと強く頷く北見さん。
いけないことはないだろうけど、今回の攻略では基本僕とオウマは手をださないつもりでいるからね。
初めてのダンジョンということもあるし、慎重に進むべきだろう。
ちなみに25層のボス部屋にいたのはホブゴブリンチーフ5体とゴブリンウォリアーが10体で、早々に西野さんが素早いサイドステップから懐に潜り込み腹パン一発で次々に沈めたよ。
つい数ヶ月前にクラスNo. 1パーティが苦戦していた相手を事もなげに撃破した西野さんを見て、北見さんは乾いた笑いを浮かべていたけどね。
当の西野さんは満足そうにスマイルしながらこちらに手を振っているから面白い。
この辺りの構成は基本中級ダンジョンと変わらないようで、道中に出てくるのは洞窟狼やゴブリンばかり。
50層のボスもレッドキャップだったよ。数は4体だったけどね。
こちらも初挑戦の西野さんが挑むことになり、先程とまったく同様の動きで完封してみせたよ。
違うと言えば一発目の腹パンを躱されたことくらいだけど、大きく後ろにのけ反っているところへ躱された拳を振り下ろしてノックアウト。
そこからはフェイントを織り交ぜることで躱すことも許さず、俊敏な動きで流れるようにノックアウトしていった。
51層目は初だったので何が出てくるんだろうと少し期待していたんだけど、結局ゴブリンだった。
あぁ、それだと少し誤解があるね。
一応、ゴブリンはゴブリンでもゴブリンライダーにランクアップしていたよ。
ゴブリンライダーは洞窟狼に騎乗したホブゴブリンで、機動性が上がっている分普通に戦えば結構厄介な相手だと思う。
今の彼女たちにとっては些細な問題だったようで、気にも止めてなかったけどさ。
一度に襲ってくる数も階数に比例して増えていくんだけど、ここまで戦力差があると誤差としか言いようがない。
初日は予定よりも少しだけ先に進み、74層で野営することになった。
荷物持ちが二人もいればある程度快適な環境を整えられるだけの物資を持ち込む余裕があったから、ファミリー用の大型テントに寝袋、調理器具に食材と思いつく限り持ってきていたりする。
ちなみに調理当番は意外と言うと失礼かもしれないけど、北見さんだったよ。
僕もある程度はできるんだけど、どうせなら女子の手作りのほうが嬉しいしお任せしてみた。
味も大変美味しく、もはやギャップを狙ってるのかと問いたくなるくらいには家庭的な一面を垣間見たね。
あ、もうお察しかもしれないけど他の人たちは全滅だったよ。
見張りは修練しかしていなかった僕とオウマで交互に行い、氷緒さんたちには体調を整えることに専念してもらう。
北見さんが自分も付いてきただけだからと凄く申し訳なさそうにしてたけど、料理があるじゃないと押し切った。
2日目も特に問題なく攻略を再開し、74層でウォーミングアップしつつ75層のボス戦に入る。
こちらもレッドキャップチーフが3体に増えただけだったので、念のため連携を確認しつつ4人がかりで討伐。
危なげないシーンもまったくなく、余裕をもって勝利することができていた。
76層からはゴブリンライダーの集団にホブゴブリンリーダーが洞窟巨狼に騎乗したエリートゴブリンライダーが混ざるようになり、敵に戦術的な動きが見られるようになったのが違いかな?
毎回の戦闘が25層のボス戦よりやや難易度高いかな? っていうくらいのレベルだけど、そもそもソロでクリアできちゃう人たちにとってはやはり些細な問題でしかなかったね。
途中小休憩を挟みつつサクサク進み、ついにやってきました100層目。
うーん、ちょっと色々教えすぎたかな。
ヒヤッとする瞬間もないから、これではただの成果報告となんら変わらない。
探索しているという感じが皆無なので、危機感が薄れる恐れがあるなぁ。
というか結局帰還石がドロップするくらいで本当に素材が取れることもないし、鉱石類が採取できるような場所もなかった。
魔石は順調に回収できてはいるけど、正直言ってこの世界にあるダンジョンの意義がまったく理解できない。
「本当になんのために存在してるんだ……?」
思わず口に出してしまった言葉に、一同が首を傾げる中。
奥からハルバートを携えたレッドキャップキングが、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。
「お出ましか……。油断せずに行こう」
氷緒さんが真剣な表情でそう告げ、こくりと頷く水鏡さんたち。
僕とオウマだけその場に残り、四人はレッドキャップキングに向けてゆっくりとした足取りで歩き出した。
数メートル開けて立ち止まった両者は、しばし視線をぶつけた後武器を構える。
「グギャーーーーッッ!!」
レッドキャップキングの雄叫びが開戦の狼煙となり、両者が共に駆け出した。
こちらのパーティからは氷緒さんと西野さんが身を低くしながら飛び出し、水鏡さんは風球を3つ生成して牽制しつつ攻撃。
北見さんも魔球を発射しつつ魔力を練り上げ、緊急時に備える。
対するキングレッドキャップは急激な制動で自身にブレーキをかけつつ、勢いはハルバートに乗せて轟音を立てながら横に振り抜く。
咄嗟に前に出た二人は躱すも、ハルバートは止まることなく一周して再び二人を襲った。
その余波で風球と魔球はかき消され、激しい猛攻が続く。
まるでコマのようにその場でぐるぐると身体を回転させたまま、横から上から下からと縦横無尽に迫るハルバートに有効打を見出せない一同。
出鼻をくじかれ勢いが削がれた氷緒さんたちと、徐々に回転の速度を上げながら攻撃の手を止めることのないキングレッドキャップ。
そんな両者の動向を注視しながら、この状況をどう打開するのか期待する気持ちを抱きつつ自分ならどうするだろうかと考えながら戦闘の行方を見守るのだった―――。
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1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!
現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!
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