第26話


「月涙さんの報告だと、レッドキャップチーフやキングレッドキャップのドロップ品を複数お持ちだと聞こえるんですが……」


 恐る恐るといった感じで、弱々しい声音で僕へ問いかける雷華院校長。


「初級を15カ所、中級を15カ所踏破したので……どっちも15個ずつ? あ、中級のうち1カ所はオウマがいたとこなので、キングのほうは14ですかね」


「なんという……」


「実質100層ダンジョンを15カ所クリアしたのと同義ということか……」


「……公表したら世界が変わる」


「ウチらの師匠って、もしかしてとんでもなくヤバいやつだった……?」


「あたしなんかが師事しててほんとに良いのでしょうか……」


 みんながみんな遠い目をしたまま、天に向かって声をかけていた。

 検証作業が面白くて、ついついやりすぎたのは否めないから何も言い返せないけど。


「あ、ちなみにドロップ品は1種類じゃないみたいですよ?

 確認できただけでもチーフが5種類、キングが6種類ありました」


「おそらくですけど、その情報を握っているのはわたくしたちだけでしょうね……。

 キングのドロップ品は、今のところ『レッドキャップの王冠』しか確認されていないはずですから」


 やや現実逃避気味な虚な瞳をした雷華院校長が、あははと乾いた笑いを浮かべながら教えてくれる。

 うーん、刺激が強すぎたかな。

 ついつい異世界基準で考えていたけど、たしかにこっちだと現時点では相当な偉業になってしまうかもしれない。


「ちなみにドロップ品の詳細のほかに、別件でもう1つ報告があるんですけどまた今度にしましょうか?」


「え“っ……」


 僕の言葉にすごい声を出す雷華院校長。

 おそらくだけど、生まれて初めて出した声じゃないかな?


「あー、気のせいだったかもしれません。忘れてください」


「……ここまで来てそんな嘘信じられるわけないじゃないですかっ!

 いいですよもう、聞きますからっっ!! なんですかっ?!」


 開き直ったのか限界なのか、キャラが崩壊してしまったようだ。

 やや涙目で睨むようにこちらを見つめる姿は年相応な雰囲気もあって、普段の凜とした姿よりも親しみやすいとか言ったら怒られるだろうか。

 うん、さすがにKY過ぎるからやめとこ。


「えーと、なんか称号? とかいうのを獲得しました。なんだか知ってます?」


称号保持者タイトルホルダーになったんですかっ?!

 いえ、あれだけ色々してればおかしくはないですけど……。ちなみに名称をお伺いしても?」


「えーと、『解き明かす者』『ダンジョンの追求者』『皇帝』『初級ダンジョン制覇者』『中級ダンジョン制覇者』『技能創生』『超える者』の7つですね」


「なな……つ……」


 許容量を超えたらしく、頭から白い煙をもくもくと出しながら雷華院校長は機能を停止してしまった。

 そんな中驚きはしつつも平静でいた氷緒さんと水鏡さんに話を振ってみる。


「称号ってそんなにやばいものなんです?」


「ゲームでいうところの、いわゆる隠し要素ってやつに近いらしいぞ。

 取得条件などは一切不明で、条件を満たすとある日突然現れると言われている。

 称号には固有の能力がついていて、称号保持者になるだけで世界が変わることもあると言われているな」


「……日本じゃ誰一人として保持者はいなかった。月涙が第一号」


「嘘だと言ってよベイビー……」


 気づいたら7つも増えてたから、てっきりわりかし持ってる人も多いと思ったから伝えたのに。

 日本人初とか、もう絶対目立つやつじゃん。

 うん、これは秘匿してもらおう。


「みなさん、聞かなかったことにしてください」


 僕が真顔でそう告げると、苦笑いしつつも頷いてくれる一同。

 その申し出が雷華院校長的にもアリだったらしくて、故障から立ち直っていた。


「月涙さん、称号の詳細をお聞きしても良いですか?」


「雷華院様、いくらなんでもそれは……」


 苦言を呈した氷緒さんに、ニッコリと微笑む雷華院校長。


「ここまで来れば、もう遠慮はいらないでしょう?

 だいたい、遠慮してくれない相手にこちらだけ遠慮していて何になるんです?」


 すんごい笑顔で発言してはいるけど、たぶんあれかなり怒ってるなぁ。

 後ろに鬼の幻影が見えるし、何より圧がすごいもん。

 あの氷緒さんがひぃって小さく悲鳴をあげて目を逸らしてるし。


「雷華院校長なら悪用しないでしょうし、別にかまいませんよ。

 できれば今後も有益な関係でいたいですし、ね?」


「ええ、それはもちろん。きちんと責任はとっていただかないと」


 すごい意味有り気ににっこりされたけど、まぁこれだけ巻き込んでれば、ね。

 ちゃんと還元しますので許してってことで。

 別にあの笑顔が怖いとかって訳じゃないからね??


 そこから僕は1つずつ称号について説明していった。


『解き明かす者』・・・未知の事象に対して、思考を続けることで真実に辿り着きやすくなる

『ダンジョンの追及者』・・・ダンジョン内で体力と魔力の回復力が上昇。取得物の品質が上昇

『皇帝』・・・王を統べる者

『初級ダンジョン制覇者』・・・初級ダンジョンを攻略する際、ドロップ率とアイテムの品質が上昇

『中級ダンジョン制覇者』・・・中級ダンジョンを攻略する際ドロップ率が上昇、アイテムと魔石の品質が上昇

『技能創生』・・・自身の技能を用いてスキルを創生し、登録することで固定化できる

『超える者』・・・自身よりステータスが高い相手との戦闘中、その差に比例して習熟度の上昇率が変化。また、自身よりも強い敵を倒した際に取得経験値とドロップ品が上昇し対象の技能を一つ習得することがある


「――こんな感じですね。一部意味がわからないのもありますが、名前の通りただの称号なんですかね」


 僕の報告を聞き終えた面々は、それそれが違う反応を見せる。

 雷華院校長、氷緒さん、水鏡さんは何かを考え込むような素振りを。

 北見さんと西野さんは少し興奮した様子で、うちらの師匠すげー!と盛り上がり。

 オウマはキラキラとした目で、神を崇めるような熱烈な視線を送ってきた。


「ひとまず内容は把握しました。

 正直現段階ではその真価を見極めることが難しいものが多いので、もし何か追加で気づいたことがあれば教えてくれると嬉しいです。

 むしろ必ず報告してください、良いですね?」


 拒否なんてさせないよって圧をかけながら、にっこり微笑む雷華院校長。

 なんか今日だけでだいぶフレンドリーというか、壁がなくなった様な気がする。


「しかし月涙が称号保持者か……。ずいぶん置いて行かれてしまったな」


「……追いつかなくちゃ」


「お二人もどんどん強くなってるじゃないですか。それに……いえ、過ぎた謙遜は嫌味ですね」


 おっと、この場では氷緒さんと水鏡さんしか僕が異世界帰りということは知らないんだった。

 つい余計なことを漏らすところだったよ。

 たぶんだけど僕以外にも帰還者がいる、もしくは増えるだろうし、あまり接触はしたくないから出来るだけ目立たないようにしないと。

 特にには絶対に見つからないようにしないとね。


「今日はもうお腹いっぱいなので、ドロップ品についてはまたそのうちということで。今回も放出せずに死蔵されるんでしょう?」


「あー、売りはしないですけど、一部使えそうなのもあったのでそれは追々活用しようかと思ってますよ」


「ちなみに何が使えそうだったんです?」


 怖さ半分興味半分といった感じで、少し身構えながら聞いてくる雷華院校長。


「キングレッドキャップが落とした双剣と、レッドキャップチーフが落とした短剣ですね。

 国支給の武器より遥かに品質も良いですし、思ったよりも使いやすかったので。

 在学中は支給品以外使えないので、卒業してからですけど」


「ぶ、武器が落ちたんですか……?」


「落ちましたね。

 双剣はどちらかと言えば短剣というより片手剣に近いものがセットになったもの、短剣はサバイバルナイフのようなやつでいざというときのサブとして良いかなと」


「武器……。ボスのドロップ品ですらまず落ちないというのに、ましてや武器なんて一度として落ちたことなんて……」


 愕然とした表情を浮かべる雷華院校長は、今にも泣き出しそうな顔で氷緒さんに視線を送る。


「ほ、ほら、アレですよ!

 月涙は公表する気はないと言っていますし、黙っていればわかりません!

 今まで一度も確認されてないんです、証明のしようがないじゃないですか! ねっ?!」


「そ、そうですよね! わたくしは何も聞かなかった、そういうことにしましょう!」


 どうやらあの二人がここまで取り乱すくらいには重大事案だったらしい。

 僕の基準がおかしいことは重々承知した上で言わせて貰えば、こっちの世界けっこうやばくない……?


 向こうの世界にもダンジョンはあったし、魔物の種類もそう変わらないように見える。

 でも向こうではダンジョンで取れる鉱石やらドロップ品やらで武具を製造していたし、そのお陰で強い魔物と対等に戦える人たちも大勢いた。


 氷緒さんと水鏡さんは魔纏を習得してるからまだ戦えると思うけど、それこそオウマクラスの魔物との戦いでは地球産の素材で作られた武具なんて工夫無しじゃまったく役に立たないよ。

 海外ではキングレッドキャップを討伐できてるって話だし、日本が知らないだけで海外じゃその辺の研究も進んでるんじゃないかな??


 うーん、これは思ってる以上に日本の置かれてる立場は深刻なのかもしれない。

 僕の勘違いならいいんだけど、そう思いながらも嫌な予感は拭えないのだった―――。



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