第25話
北見さんと西野さんの適正がわかったので、それぞれに最適な魔法の練習方法を教えた僕はオウマを連れて池袋中級ダンジョンへとやって来ていた。
「じゃあオウマ、無理のない範囲で
「承知しました、我が主人よ」
こくりと頷いたオウマは、まるで散歩でもするかのように自然体のまま歩みを進めていく。
時折現れるゴブリンたちは腕を振るうだけの一撃で魔石へと変わり、一歩足を止めさせることすら叶わない。
うーん。
やっぱり100層のボスだし当たり前と言えば当たり前なんだけど、間違いなく僕たちの中で今一番強いのはオウマだね。
正直今の状態のオウマとあの時と同様の条件で再戦したら、9割方負けると思う。
「笑っちゃうくらい強いね」
「主人に眷属にしていただいた際に、今まで感じていた壁を壊した感覚がありました。すべては我が主人のお陰です」
ニィっと獰猛な笑みを浮かべて軽く頭を下げるオウマ。
うん、そんなつもりはないんだろうけど顔が凶悪すぎてただ笑うだけで小動物がショック死しそうなほど怖いよ。
当然と言えば当然なんだけどオウマにとって中級ダンジョンに出現する敵なんてまったく相手にならなくて、襲ってくる敵だけをひたすら魔石に変えつつ進むこと4時間と少し。
消耗がほぼないこともあって休憩をほとんどとっていないこともあって、前回よりもずいぶんと早いペースで走破できた。
「僕の予想が正しければ、これで
「承知しました。ここも任せていただけるのですか?」
「僕はオウマがいればいつでも修行ができるし、どちらでも」
「では我にお任せください。この程度の相手、主人の手を煩わせるまでもありません故」
そう言って軽い足取りで50層のボス部屋中央付近へと進んでいくオウマ。
キキッと愉快そうに笑っていたレッドキャップが勢いよく駆けて来るも、探りの一撃をオウマに見事なカウンターで返されあっという間に魔石に変わる。
うん、実力差もわからないのに相手を舐めすぎだよ。
予想通りというべきか、次いで現れたレッドキャップチーフ。
こちらは油断なくオウマの背後に周り死角から斬りかかるも、目視することなく紙一重で交わしたオウマが振り向きざまに手刀で首を薙いで魔石へ変わる。
圧倒的すぎて言葉もないね。
ただ、次は一応同種対決だ。
さすがに武器くらいは抜くかな、なんて思っていたんだけど。
「グギャギャギャーーッ」
現れたキングレッドキャップはオウマを見た瞬間に血相を変え、死に物狂いという言葉が似合うほどの決死の様相で襲い掛かる。
まだ一合と打ち合っていないのにあの様子、さすがにキングともなれば彼我の差が少しは理解できるのかな? それとも何か別の要因?
当のオウマはまったく焦る様子もなく、武器を抜く様子すらない。
全力で振るわれるキングレッドキャップの攻撃を難なく躱し続け、5、6回ほど避けたところであろうことか自身に迫る大剣を拳で砕いてしまう。
「うそぉん……」
いくらなんでもそれはやばいでしょ、なんて思っていたのも束の間。
武器を破壊され動揺するキングレッドキャップの隙を見逃さず、背後に一瞬で回り込むと手刀で鎧ごと胸部を貫いてしまう。
胸部から生える腕を見てようやく何をされたのか理解したキングレッドキャップは、そのまま魔石とドロップ品を残して消えていった。
「お待たせしました、我が主人。
攻撃が単調でつまらなかったので、何か次があるのかと武器を壊してみましたが何もなさそうだったので消しました」
何事もなかったようにそう告げるオウマに、思わずぽかんとしてしまったよ。
「なんていうか、圧倒的だったね? 一応少し前まで同種じゃなかった……?」
「我は他を知りませんのでなんとも言えませんが、今のが特別弱い個体だったのでは?」
少なくともアレと同一視はされたくないと、言葉にはしないものの否定的な雰囲気を滲ませるオウマ。
まぁうん、あれだけ差があれば確かにもはや別もんだよね。
「なんにせよお疲れ様。思ってたより早く終わったけど、今日はどうする?
もう1回検証をしてみるか、明日にするか。予定してた分は終わったし、どちらでもかまわないけど」
「ではすみませんがもう1回良いですか?
あまりに呆気なく終わりすぎてしまったので、もう少し成果がほしいところです」
もう十分成果はあったんだけど、まぁ僕はついていってただけだし突っ込むのは野暮ってものだろう。
そうして二周目は少し条件を変えて、今度は軽く駆け足で走破した。
ジョギング程度の速度ではあったけど、休憩を取らないこともあって踏破時間は3時間を切るくらいかな。
これ以上はブラックと言われかねないので、消化不良そうなオウマをなだめて学園に戻る。
翌日は荒川中級ダンジョンへ入り、再び条件を変えつつ踏破を繰り返した。
僕とオウマの二人だけということもあり、誰に気にすることもなかったので荒川中級ダンジョンからはランニングスタイルに切り替えたら踏破時間が2時間を切ったよ。
おかげで検証作業が捗り、近隣の初級・中級ダンジョンを次々踏破。
およそ2週間ほどかけて、東京近郊の初中合わせて30のダンジョンを踏破してみた。
結果は上々で、おそらくこれで間違いないだろうと思えるくらいには異常事態の発生条件を特定できたと思う。
ほかにもいくつか報告しなきゃいけないことができたため、僕とオウマは雷華院校長のもとを訪れた。
「えーと……異常事態の発生条件が解明できたというのは、本当ですか?」
疑っているというよりは、やや困惑した様子で開口一番そう問いかけてくる。
雷華院校長へ報告ついでに一緒に聞いといたほうが良いだろうと呼んだ氷緒さん、水鏡さん、北見さん、西野さんも同様だった。
「答えを知る人がいないので、『ほぼ』という表現がついちゃいますけどね。
その検証結果をもとに何度か試してみたところ、外れることはなかったのでほぼ間違いないとは思います」
「何度か……。いえ、それは後にしましょう……。
ここに来ていただけたということは、わたくしにも教えていただけるということで良いですか?」
「あれ、そんな依頼を頼まれてませんでしたっけ?」
僕が首をかしげると、なんともいえない表情で苦笑いする雷華院校長。
「わたくしとしては、予想程度でもかまわないので何かしらの情報がもたらされれば御の字くらいでしたので……。
完全な調査結果となると、相当な価値を持つ情報です。秘匿して有効に活用すれば一財産築けるほどには、超重要機密ですよ?」
「今のところお金にあまり興味はないですし、僕が情報を秘匿したところであまり旨味がないですからね。
それなら有効活用してもらったほうが無用なトラブルも防げますし、出なくて良い犠牲も減らせると思うので」
「……ありがとうございます。月涙さんのその崇高な思想に感謝します。必ず何かしらの形でお礼はしますので、よろしくお願いします」
その場で立ち上がり、深々と頭を下げた雷華院校長は佇まいを直すと真面目な顔で僕の報告に耳を傾ける。
僕はその姿勢に好感を持ち、現時点で判明している内容を惜しみなく伝えていった。
異常事態の発生条件は単純で、一層から最奥のボス部屋に入るまでの間一切の被弾をせずに到達すること。
細かい条件もいろいろあるんだけどね。
一度異常事態が発生したダンジョンでは、少なくとも一ヶ月は異常事態が発生することはないこと。
これに関しては定期的に一度異常事態が発生したダンジョンに潜るほかないから、今は究明しようがないんだよね。
異常事態が発生すると最初に一つ上のボス部屋の階層主が、倒すとさらに一つ上の階層主が出現すること。
初級ダンジョンなら50層と75層の階層主が、中級ダンジョンなら75層と100層の階層主が現れる感じだね。
50層の階層主――レッドキャップのみ、本来より多い個体数で現れることは確定、ほかは基本一体のみだったよ。
そして最後、異常事態で現れる二段目の階層主を討伐できると確定でドロップ品が落ちる可能性が非常に高いこと。
ちなみに今のところドロップ率100%だね。
これらの情報から推察するに、異常事態はダンジョンの過剰戦力に対する防衛機能かボーナスステージのどちらかの可能性が高いと思われる。
適正な難易度のダンジョンにさえいっていれば起こり得ない現象だから防衛機能な気もするんだけど、ドロップ確定ってところが僕的には引っかかって。
なぜだろう? と考えたときに、より厳しい環境に進むためのボーナスゲームという予想が腑に落ちたんだよね。
だから個人的にはボーナスステージ説を押している。
2度目がないことも、それなら合点がいくと思わない?
なんて僕の推理ショーを披露した訳なんだけど、全員が全員凄く深刻そうな表情を浮かべるのだった―――。
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1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!
現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!
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