第24話


 今ほとんどの報告を終えたところなんだけど、結論から言えばオウマの件はあまり大きな問題にならなかったよ。

 いや、それだと少し語弊があるかな。

 大きな問題にできなかった、のほうが正しいのかも。


「……お話はわかりました。戸籍やらの諸々はこちらでどうにかしましょう。

 月涙さんたちは引き続きお好きなように冒険なさってください」


 ハイライトが消えた瞳で淡々とそう呟くと、「では」と部屋から出ていく雷華院校長。

 なんか幽霊みたいだったけど大丈夫かな……?

 僕としてはとんとん拍子で話が進んだ上に、あまり責められることもなくて助かったけど。


「天乃様も大変だな……」


「……時には現実逃避も大事。きっとすぐに思考を切り替える」


 雷華院校長が出ていった扉を見つめながら、すごく不憫そうな表情をする氷緒さん。

 そしてそれをフォロー? している水鏡さんと、首を傾げるオウマ。

 北見さんと西野さんの二人は思ってる以上に精神的な疲労があったようで、すでに退席して自室に戻っているよ。


「なんにせよ、なんとかなりそうで一安心ですね」


「君がそれを言うのか……」


「……さすが」


 二人に変人を見る目を向けられたんだけど。解せぬ。


「あ、そういえば。ちょっと興味が出て来たので、異常事態について少し調べようと思うんです。

 北見さんと西野さんに基礎を教えたあと、しばらく二人をお願いしても良いですか?」


「それはかまわないが……。一人でいくのか?」


「いえ、オウマと行ってきます。

 見た目以外の変化があるのかも知りたいですし、検証作業に付き合わせてると北見さんたちの修行開始が遅れますからね。

 お二人も今回の探索で得た気づきを早く試したいでしょうし、一度別行動のほうが都合が良いかなって」


「……バレてた。いや、むしろ作戦通り?」


「だろうな。私たちが現状に満足しないよう、また少し先を見せることで発破をかけたんだ。

 そして私たちはその思惑に見事にはまり、うずうずしている。まったく、憎たらしいほど良い師匠だな」


 二人はギラギラと熱いまなざしを僕に向けつつ、ニイっと子供のように笑う。

 うんうん、しっかりと薪をくべることができたらしい。


「僕もお二人から近接戦の基礎を教わり、可愛がってもらいましたからね。しっかりお返ししないと」


「「う……」」


 ゴブリンマーチの一件をからかうと、二人は気まずそうに視線を泳がせた。


「我も主人の修行にぜひお力添えさせてください。必ずやお役に立ちましょう」


「うん、ありがとう。オウマの技術は戦場の中で磨き抜かれたものだったから、とても参考になるよ」


「私もぜひオウマ殿に御指南いただきたいな。同じ大剣使いとして、あの境地は尊敬の念に堪えん。

 返せるものがなく申し訳ないが……」


「我が主人の仲間であるなら、我が協力を惜しむことはない。

 それに、貴殿が成長すれば我の良き練習相手となってくれるであろう。先行投資というやつだ、気にするな」


「……私もよろしく。スタイルが違うから、きっと役立つ」


「ああ、よろしく頼む。ともに主人の役に立とう」


「いや、そこは自分のために頑張りなよ。僕は別にみんなが役に立つから一緒にいる訳じゃないし」


 僕の言葉に、なぜか感動した様子でじっと熱いまなざしを向ける三人。

 え、別にいたって普通のことしか言ってなくない?


 僕をどう思ってるのか聞くのが怖かったので、その日はそのまま解散。

 オウマは人間世界に慣れることの意味合いも含めて、雷華院校長が指導員用の空き部屋を用意してくれたのでそちらで生活することになった。

 食事の美味しさに感動したり、お風呂の気持ち良さにとろけたり、安心して眠れるベッドに落ち着かなかったりと色々大変だったみだいだね。

 

 翌日は休息日に充て、さらに翌日。

 修行と方向性を確認するために、北見さんと西野さんを伴って初級ダンジョンを訪れた僕たち。


「遠回しに聞いてても話が進まないから、ぶっちゃけて聞くんだけどさ。二人はスキル何か開花してる?」


「ウチは1つもしてないよ」


「あたしは1つしてるけど、まったく実用的じゃないからしてないのと変わらない感じです」


「実用的じゃない?」


 僕の問いかけに、少し困った顔で頬をかく西野さん。


「『蹴り上げ』っていうスキルです。特に制約や制限はないんだけど、どう考えても武器で攻撃するほうが強いと思うので……」


「使ってみたりは?」


「元々近接戦が苦手なのもあって、使ったことはありませんね……」


 とてもじゃないけど、と首を横に振るう。

 名前だけ聞くと普通じゃんって思うけど、スキルとして発現してるなら何かしらあると思うんだけどなぁ。


「我が主人、試しに我が受けてみましょうか」


「うん、お願いできる? 西野さん、オウマにスキルを使ってみて」


「は、はい……」


 困惑した様子でオウマの前に立つと、ぐっと構えてスキルを発動。

 軸足の膝をばねのように使い、上に向かう力をしっかりと乗せた見事な蹴り上げが放たれる。

 びゅんという音がしない、空気を裂くするどい一撃を難なく左手で受け止めて見せるオウマやばすぎでしょ。


 あとどうでも良いけど西野さん身体やわらかっ。

 手で支えてないのに、完全にIの字になってるじゃん。


「西野よ、貴殿は勘違いをしているようだ。

 この一撃は下手な武器の攻撃よりよほど鋭く、そして重い。そこいらのモンスターなら首から上が飛んでいくだろう」


 感心した様子で受け止めた左手を閉じたり開いたりして感触を確かめるオウマ。

 もしかしてだけど、手を痺れさせるだけの威力があったってことかな。


「試しにゴブリン相手に使ってみたら?」


 半信半疑といった様子で頷いた西野さんは、タイミング良く近くに現れたゴブリンに駆け寄ると一気に懐に飛び込み、スキルを発動。

 結果はオウマの予想通り、衝撃に耐えきれなかった首がもげるというとてもグロテスクな光景だった。

 破裂してないだけマシなのかもしれないけど、確実に顎はぐちゃぐちゃだし首がもげなくても死んでると思う。


「あは……あはははっ!」


 あ、西野さんなんか変なスイッチ入ってるぞ。

 目をランランと輝かせ、戦闘音に反応したのだろう寄って来たゴブリンを次々に蹴り伏せていく。

 おっとり系の美少女が蹴りで次々首をもいでいくとか、これどんなプレイ?

 ほら、北見さんもあの狂気的な姿にドン引きしてるよ??


「綾……良かったね……」


 あれ、違ったみたい。

 話を聞けば、西野さんは近接戦が苦手で全然役に立てないっていつも落ち込んでたんだって。

 それがここに来て近接戦で有効打を得たことで、嬉々として戦闘に参加する姿を見て喜んでたそうだ。

 話を聞いて尚、怖いとしか思えない僕は薄情なのかな。


 氷緒さんと水鏡さんは新たな才能を見たと感心してるし、オウマはその圧倒的な暴力に少しテンションが上がってるように見える。

 北見さんは先述の通り喜んでるし、怖がってるのは僕だけらしい。


「あー、うん。西野さん、嬉しい気持ちはわかったから一度落ち着こうか。

 見たところ魔力の消費はないようだけど、著しく体力を消耗してるんじゃない?」


「はぁ……はぁ……。ご、ごめん……なさい……」


 肩で息をしながら、息も絶え絶えに返事をする西野さん。

 たった数分動いただけであれだけ息が切れるってことは、あのスキルは見た目の動き以上に体力を酷使するのだろう。

 さすがにデメリットなしの使い放題って訳にはいかないよね。


「気にしないでいいよ。

 でも、これでとりあえず西野さんのなんとなくの方向性は決まったね。次は北見さんかな」


「ウチは得意なことなんもないよ?」


 少し寂しそうな表情でそう呟く北見さん。


「それならそれで万遍なく伸ばして器用なオールラウンダーになれば良いし、そういう才能を持つ人はあまり多くないから思ってる以上に重宝されるよ。尖るだけが全てじゃないからね」


「器用貧乏ってやつ?」


「そうとも言うね。

 努力は必要だけど、いるかいないかで大きく戦術が変わるくらいには重要なポジションだよ。

 不要と切り捨てられるのは、それこそ全員が英雄クラスの猛者パーティくらいじゃないかな?」


「そうなんだ……」


 ちょっとだけ安心できたのか、小さく握りこぶしを作って意気込みを新たにしている。

 ああでもごめん、その意気込みは無駄になりそうだ。


「ちなみに自覚はないと思うけど、北見さんは回復魔法の適正があるね」


「「「「え……?」」」」


 僕の言葉に、オウマを除く女性四人の声がハモるのだった―――。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


いつも当作品をお読み頂きありがとうございます!

少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら☆☆☆やフォローで応援いただけるととても嬉しいです!

みなさまの応援が力になり、執筆のモチベーションにつながるのでぜひ!

1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!

現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る