第23話
「……剣がライオンになった。がおー」
「京禾、真顔でがおーはどうかと思うぞ」
「とりあえず……めっっっちゃ可愛くない?! 抱っこして良いかな?!?!」
「だめだと思うけど……。ちょっとあたしも抱っこしてみたい、かも」
「麗しのレディたちにそう言われては、ぜひともそのお願いを叶えたいところなんですが……。
今日はあまり時間もないため、ぜひまたの機会に」
「「「「喋った?!?!」」」」
それに驚き固まる氷緒さんたち四人と、とても興味深げに視線を向けるキングレッドキャップ。
なんかなかなかカオスな状況じゃない?
「ルーラー、さっき言ってたことはできそう?」
「おっと、私としたことがついレディに見惚れていました。
ええ、問題なさそうですよ我が君」
「ならお願いね」
子獅子姿の支配の光剣がてちてちとキングレッドキャップに近づき、ひょいひょいと身体を飛び跳ねて頭の上に乗る。
そのまま右手でぽんぽんと2回頭部を叩くと、キングレッドキャップの足元に眩い魔法陣が展開された。
「これで準備完了です。
貴方は我が君より流される魔力を受け入れ、名をいただきなさい。
さすれば我が君の眷属として名を連ね、その威光を賜れるでしょう」
「しょうちしました。わがいのちはあるじのために」
魔法陣の上で再び跪いたキングレッドキャップは、強い覚悟を秘めた瞳を僕に向けたままそう告げる。
「命はいらないけど、これからよろしくね。君の名前は『オウマ』だ」
支配の光剣に手をかざして魔力を注ぐと、そのままオウマに流れ滞ることなく魔法陣へと注がれていく。
魔法陣がより強く光り輝くと同時にオウマの身体に溶け込み、それを以て眷属化は正常に完了したことを理解できた。
「我が名は『オウマ』。これからよろしくお願いいたします、我が
すごいキリッとした顔で跪いたまま挨拶してくれるのは良いんだけど、なんていうか色々と変化が凄まじい。
まず第一に言葉がすごい流暢になってるし、眷属化の影響で『
そして第二に顔つきやら体格こそ大きく変わらないものの、見た目がほぼ人間に近い姿となった。
皮膚は深緑色から褐色に変わり、尖っていた耳も人と変わらない形になっている。
瞳の色が紅いけど、カラコンも普及してるしさして怪しまれたりすることはないだろう。
強いて言えば犬歯が鋭いから、野生味が溢れまくってることくらいかな。
「ルーラー、これは眷属化の影響で変化したって認識で良いの?」
「申し訳ありません、我が君よ。
ハッキリ言って魔物を、それも支配化に置く訳でもなく眷属としたことなど前例がなく、詳しいことは調べてみなければわからない状況です」
「なるほどね。ちなみにオウマは何かわかる?」
「我も詳しいことはよくわかりません。
ですが、種として根本的に何かが変わったことは理解できます。
ですが力は失っていないようです。少し変化はあったようですが」
「変化?」
「はい。なんといえば良いのでしょうか、以前までの能力が凝縮したものを任意で呼び出せる感じです。
たとえばこれなど」
オウマがそう言って手のひらを返して上に向けると、そこに突如として真紅の大剣が現れる。
柄頭や鍔、刃など場所によって色の濃さが違うけど、赤系統で統一されたデザイン。
その色もさることながら、業物であることが一目でわかるほどの圧巻の存在感。
「レッドキャップだから赤……なんだよね、たぶん。
凝縮ってことは、この大剣にも何か能力があるってこと?」
「はい。これには『弱肉強食』と『大物喰らい』、『挑戦者』に『不撓不屈』の能力が備わっています」
それから各能力の説明をしてくれたオウマだけど、正直ぶっ壊れ以外の言葉が思いつかないくらいにはヤバい武器だった。
弱肉強食・・・魔石を取り込むことでステータスや能力が微上昇する
大物喰らい・・・自身の基礎能力よりも高い敵を撃ち倒したとき、ステータスや能力が微上昇する
挑戦者・・・自身の基礎能力より高い敵と戦闘を行うとき、ステータスに補正がかかる(1.2倍)
不撓不屈・・・逆境に陥れば陥るほど精神が昂揚し、精神耐性が上昇する
というか以前までの能力ってことは、キングレッドキャップにはもともとこれらの能力があるってこと?
確かにそう言われてみると、レッドキャップチーフから落ちたスカーフと能力が似てるかも。
さすが階層主と言えば良いのか、末恐ろしいね。
とりあえず他の能力に関してはまた落ち着いてからということになり、まずはこの展開をどう報告するかで頭を悩ませることにした。
「さすがに前代未聞過ぎて、どうしたら良いのかさっぱりわかららないな……。
見た目は人間そのものだからすぐにはバレないと思うが、戸籍やら冒険者資格やらの問題もあるしな」
「……素直に雷華院校長に相談してみるのが吉。私たちの手に負える問題じゃない」
「ウチもその方が良い気がする。あとでバレるほうが大問題になりそうだし。あと怒られたくないし」
「あたしもそう思います。とはいえ、どう相談するのかって話ですけど……」
西野さんの言葉にみんなが一斉に目を逸らして、自分に聞かないでくれと意思表示した。
「ちなみに冒険者にテイマーのような能力を持つスキル持ちとかいないんです?」
「おそらくいないと思うぞ。
というのも、そもそもスキルはそんなに便利なものじゃないからな」
氷緒さんが代表してスキルの説明をしてくれたんだけど、それはもうなんていうかひどいものだった。
自分には関係ないと知ろうとしなかった僕も悪いんだけどさ。
スキルのほとんどには制約や制限がついており、気軽に使えるものではないこと。
制約や制限がついていないものは能力が低いことが多く、戦闘ではほとんど役立たないこと。
現状報告されているのは強化系統、魔法系統、回復系統の3種類だけであること。
魔法系統と回復系統、とりわけ回復系統は非常に稀有で保有者はとても少ないこと。
そもそもスキルを開花させているものが少ないこと。
という踏んだり蹴ったりな感じらしい。
魔力を消費する上に、何かしらの制約か制限がついてるとかやばくない?
だいたいは体力が何割以下のときだとか、一日何回までとからしいけど。
そりゃ探索も捗らないよね。
っていうかむしろ海外勢はよくそんな状況でキングレッドキャップを倒せたよね、ほんと感動ものだよ??
実際に下してみせた僕が言えることではないけど、正直75層のボスと100層のボスじゃ次元が違うといっても過言じゃないと感じたくらいだ。
オウマは魔王軍の師団長クラスはあったと思う。
戦闘方法が当時と異なるから、一概には言えないけどさ。
「む、そろそろ時間のようです。またお会いできる日を楽しみにしておりますね、我が君」
「うん、ありがとう。早くこっちでも気軽に呼べるよう、精進するよ」
僕の言葉に頷いた支配の光剣は身体が光の粒子へと変わり、それらが集まると剣の姿を成した。
すーっと宙を舞い背中の翼に戻ったのを確認し、制限解除をやめるとフッと翼がきえる。
「ひとまずこれで事態は収束したと見て良いだろう。帰ろうか」
「……ん。早く修行する」
「ウチらも負けてらんねーし!」
「あらあら……。皐月ちゃんがこんなに燃えてるのは珍しいね。あたしも頑張らなくちゃ」
「我が主人のお役に立てるよう、さらに励む所存です」
「みんな元気だね……。僕は凄く憂鬱だよ……」
自らが招いたことではあるけれど、どうしても帰還してからの報告が思いのほかあっさりと終わってくれないかなと淡い期待を抱いてしまう。
絶対そんなことある訳ないのにね。
みんなが軽快な足取りで帰路を取る中、僕の足は鉛でもついているのかと疑いたくなるくらい重いのだった―――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつも当作品をお読み頂きありがとうございます!
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら☆☆☆やフォローで応援いただけるととても嬉しいです!
みなさまの応援が力になり、執筆のモチベーションにつながるのでぜひ!
1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!
現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます