第22話
こちらの世界では、まだ氷緒さんたちのお手本になれる人を僕は知らない。
ということは、魔法を教えている身として参考になる戦い方をしないとね。
今の彼女たちには難しいだろうけど、今後目指すべき目標として1つ上の戦い方を示そう。
「さらに一段上げてくよ?」
「グギャ」
来いと不敵な笑みを浮かべるキングレッドキャップ目掛けて、身を低くすると同時に一瞬で肉薄。
先ほどと同様連撃を繰り出すと、反応しきれていなかったキングレッドキャップは条件反射で籠手を使い首元を防御する姿勢を取る。
だが今回の魔纏はその籠手じゃ防げないと思うよ?
片手剣の刃が籠手に切り込んだ瞬間に悟ったのだろう、大きく身をよじり回避に移る。
このタイミングから間に合うその身体能力には脱帽の一言だけど、もちろんまだ終わりじゃない。
続く二撃目を体勢が崩れたところへ合わせると、初めてキングレッドキャップの顔に焦りの色が浮かんだ。
「ここからはずっと僕のターンだ」
籠手で片手剣の腹を叩かれ弾かれれば足で。
足が避けられれば腕で、それが防がれれば反対の腕で。
左右の手足から繰り出される直撃を許されない連撃に、死に物狂いでついてくるキングレッドキャップ。
身体能力で大きく劣る僕のトリッキーな攻撃に慣れ始めたのか、紙一重で躱せることも増えて来た頃。
頃合いと判断した僕は、さらに三の手を打った。
キングレッドキャップが紙一重で躱せる軌道で回避しようとした際に、魔纏を刃から30cmほど延長させる。
すると目測がずれたことで回避が困難になり、その胸を深々と切裂いた。
「グギャッ!?」
「ほらほら、驚いてる暇はないよ!」
大きく後退するキングレッドキャップに再び一歩で追いつくと、剣を振るう。
続いて四の手、リーチの延長を考慮してさらに大きく回避しようとしたところへ、斬撃を飛ばすことで追撃をかける。
正確には剣先から風刃を飛ばしてるんだけど。
これにもギリギリで反応して回避してみせるキングレッドキャップだったけど、完全回避は間に合わなかったようで深々と肩口に傷を作った。
なおも止まらない僕の連撃に、徐々に打てる手が絞られていくキングレッドキャップ。
受け止めれば循環型魔纏に耐え切れずに防具ごと斬られ、紙一重で回避すれば刀身の延長が。
大きく回避すれば風刃の追撃があり、距離を取ろうにも僕の瞬歩もどきがそれを許さない。
ちなみに風刃にも魔纏させることで魔力による消滅を防ぎつつ威力を強化しているよ。
そうして一手、また一手と詰将棋のようにダメージを与えていく。
もう詰んでいてもおかしくない状況なのに、未だに有効打を与えられていないのは僕が力押ししてしまっているからなのか、キングレッドキャップの技量と成長速度が凄まじいのか。
きっとどっちもだろうね、敵ながらほんとあっぱれだよ。
それでも――。
「これで詰み、だ」
魔力の残量が心もとなくなってきたので、勝負をかける。
瞬歩をするときと同じ要領で、今度は瞬間的に全身に魔力を張り巡らせ肉体を強化。
その膂力と緩急をもって大剣を根元から断ち、がら空きの胴体に逆袈裟で深々と一撃を叩き込む。
「グギャ……」
どこか満足そうな表情を浮かべ、天を仰ぐキングレッドキャップ。
ほんとに人間臭いなこのゴブリン。
「最後に言い残す言葉は……って、何を言ってるんだろうな僕は。
ありがとう、とても良い勉強になったよ」
尊敬に値する目の前の戦士に礼を尽くし、剣を構え止めを刺そうとした時。
キングレッドキャップが突然膝をつき頭を垂れ、いわゆる臣下が王に対して行う姿勢を取る。
いやいや君が王だよね??
「グギャギャッ。グギャギャグギャッッ!」
「ええー……。何言ってるかわかんないし……」
「グギャギャッ!!」
なんかすごい真剣な瞳で話しかけて来てるんだけど、さっぱり何言ってるのかわかんない。
敵意はないようだし、たぶんなんか大事なこと言ってるんだと思うんだけど……。
「あ、アレでいけるかな? 『
ごめん、今なんて言ってたの?」
異世界時代に重宝したんだけど、魔力で作ったケーブルで自分と相手をつなげることで言葉としてではなく意志を直接伝播させる魔法だ。
「われはあなたにかんぷくいたしました。どうかはいかのまっせきにくわえていただきたい!
ぜひおねがいいたします!!」
「ええー……」
なにこれどんな展開?
っていうか魔物ってもしかして、みんなこんなにハッキリとした意志があるの?
もう魔物っていうより魔族じゃん。
「やはりしゅがちがうとだめでしょうか」
「うーん、だめというかね……。
この世界には亜人も魔族もいないから、君は間違いなく異質な存在として相当ひどい扱いを受けると思う。
そもそも、ダンジョンから出られるの?」
「ここはだんじょんというのですか。
でようとおもったことがないのでわかりませんが、ぜんしゃはあなたさまにめいわくをかけそうですね。
あつかましいねがいをしてしまい、もうしわけありませんでした。
あなたさまにうちとられる、これほどめいよなしはない。かんしゃします」
そう言われるととってもやりづらいじゃんねぇ?
うーん……。
僕がどうしたもんかと頭を抱えていると、ティルヴィングが何かを訴えかけてきた。
「うん? ああ、確かに彼なら可能かもしれないね。でも今の僕には……え?
あぁうん、どうだろうね。物は試しでやってみる価値はあるかも。
ありがとう、またよろしくね」
剣が語りかけて来た内容を試すべく、『
お任せあれと言わんばかりにひとりでに背中の黒翼から羽根が一本勝手に飛び出し、宙をひらひらと舞いながら目の前にやってくると剣へと姿を変えた。
氷緒さんたちの協力が必要なので協力を頼み、『
そんな気配は微塵も感じられないけど、全快させるのは万が一を考えるとまずいから死なない程度にだけね。
「えっと……これはどういう状況だ?」
「……意味不明」
北見さんたちはもうどうして良いかわからないようで、あわあわとしている。
「えーと、彼……でいいんですかね。
キングレッドキャップが僕の配下に加わりたいと言っていまして」
「「「「……は??」」」」
おぉ、四人の声がハモった。
「……意味がわからん。そもそも人の言葉を理解できるものなのか?」
「なんとなくだが、りかいできるぞ」
「だそうです」
トランスコードを氷緒さんたちにもかけておいたので、キングレッドキャップが喋ったことに驚き固まる一同。
「……この際理解することは後回しにしよう。それで、なぜ私たちを呼んだのだ?」
こめかみを抑えたまま、諦めたように問いかけてくる氷緒さん。
「成功するかはわからないんですが、ちょっと試してみたいことがあって。
ただ、それを行うには魔力が足りないのでみなさんの力を貸していただけないかと」
「……いいよ。私は月涙に従う」
「まったく、月涙といると飽きないな。私も君の言葉に従おう」
「ウチもかまわないよ。少しでも恩返しができるなら嬉しいし」
「あたしも何か力になれるならぜひなりたいです」
「……ありがとう。それじゃあ氷緒さんと水鏡さんはこの剣に魔力を、北見さんと西野さんは僕に魔力を分けてほしい」
「「魔力を分ける……?」」
「ああ、二人は何もしなくて大丈夫だよ。ちょっと手を借りるだけだから」
視線を見合わせてから、おずおずと手を差し出す二人。
なんかすごい悪いことしてる気分になるからやめてほしいんだけど、この際贅沢はいえないか。
僕は差し出された手に手をあわせ、魔力操作の要領で僕に二人の魔力を移していく。
「なにこの感覚っ……。ゾワゾワとすんのに、なんか心地よいっていうか……ッッ」
「す、すごく不思議な気持ち……。満たされるってこういうこと……ッ?」
なんかトリップしてない? 大丈夫??
とりあえず長引かせるとまずそうだから、さくっと魔力をいただいた。
やたら息を上気させてるけど、そんな効果はないはずなんだけどなぁ。
「キングレッドキャップも氷緒さんたちと一緒に魔力を分けてほしいんだけど、大丈夫?」
「ぜひおつかいください」
「おーけー。じゃあ頼むね、『
僕が名前を呼んで声をかけると、ルーラーと三人の間に
ルーラーの刀身に手を触れつつ魔力操作を行い、三人から魔力を分けてもらうことしばし。
必要な魔力の規定量に達した時、ルーラーは光り輝きその姿を知性を宿す瞳をもった愛くるしい子獅子に変えた―――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつも当作品をお読み頂きありがとうございます!
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら☆☆☆やフォローで応援いただけるととても嬉しいです!
みなさまの応援が力になり、執筆のモチベーションにつながるのでぜひ!
1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!
現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます