第20話


 各々が別々のことを考えながら進むことしばし。

 多摩中級ダンジョンに潜り始めてだいたい8時間くらいだろうか?

 ようやく49層の奥にある階段の前にたどり着いた僕たち。


「ふぅ……。1体1体はある程度余裕をもって相手取れるようになったとはいえ、やはりここまで長かったな」


「……そもそも中級ダンジョンを二人でクリアしようっていうのが無謀。あ、一人でクリアした人がいた」


「あの時は2ヶ月以上かけてようやくだぞ?」


「それでも十分凄いんですけど……?!」


「さすがお姉さま……」


 北見さんと西野さんが強くなりたいと決意表明したあのあとから、氷緒さんたちと北見さんたちの間にあった壁がなくなったようですぐさま意気投合。

 もうすっかり仲良しって感じで、北見さんはいつもの調子が戻って来て真面目なギャルに。

 西野さんは氷緒さんたちのことをお姉さまと呼び始めて、時折ポッと頬を赤らめている。


 うん、なんで女子って一回近づくと打ち解けるまでがあんなに早いんだろうね?


「よし……ではいくか」


 少し談笑して緊張がほぐれたのか、真面目な顔でそう告げる氷緒さんに続き階段を降りていく。

 途中の会話は一切なく、ピリピリとした空気が僕たちを包んでいた。

 

 ボス部屋に入ると氷緒さんと水鏡さんはそのまま先に進み、僕たちは入り口から左にそれて少し離れた壁際で待機。

 水鏡さんも途中で足を止め、中央付近まで氷緒さんが一人で移動していくと反対側にレッドキャップが1体現れた。


「ここまでは通常通りっと。さてさて、今回はどうなるかな……。

 大丈夫だと思うけど、念のため再度帰還石エスケープストーンを確認しておいてね」


「うん、大丈夫。ちゃんと持ってる」


「あたしも大丈夫です」


 帰還石は上級ダンジョンのモンスターから時折ドロップされるよくわからない形象文字が彫られたガラス玉のような見た目のアイテムで、足元に投げつけて叩き割ると即時にダンジョンの入り口に送り返してくれるというまぁまぁ貴重なものだそうだ。

 今回の攻略に際して不測の事態を心配した雷華院校長の好意で、安全確保の一助として1人1つ持たせてくれている。

 できれば使いたくないけどね。これ一個で1、000万もするらしいよ?


「始まるね」


 僕がそう呟いた直後、氷緒さんとレッドキャップが同時に動き出す。

 レッドキャップとしては何合か打ち合って様子を見るつもりだったんだろうけど、氷緒さんは向けられた短剣ごと袈裟懸けに一刀両断。

 まったく予想もしていなかったのだろう、回避する間も無い一瞬の出来事であった。


「……京禾!」


「……うん」


 何かを察した氷緒さんが声をかけると、すでに駆け寄っていた水鏡さんが武器を構える。

 直後に上空の空間が歪み、レッドキャップチーフが現れると音もなく着地して襲い掛かって来た。

 二人はそれを迎撃する形で迎え撃ち、激しい戦闘が繰り広げられる。


「やっぱり異常事態が起きるのか……。

 一度起きていると解決するまで続くのか、単に僕らが今回も何かしらの条件を満たしただけなのか……。

 興味深い現象ではあるけど、冒険者としてこれほど厄介なこともないね」


「ボス倒せたーなんて思ってるところにあんなの出てきたら、ふつーに死ぬし……」


「それこそ相当な安全マージンを取ってる人以外はまず無理です……」


 彼女たちの言う通りなんだよなぁ。

 まぁダンジョンの正しい情報なんて誰にもわからないからアレなんだけど、どうもこの異常事態に関しては何かしらの規則性がある気がする。

 こんなに殺意マシマシな罠? といっていいのかわからないけど、初見殺しもいいとこな事態をその場で解決してみせることができる冒険者なんてそうはいないだろう。

 

 とすれば、なんらかの意志によるしっかりと安全マージンを取りなさいっていう啓蒙っていう線もあるのかなぁ。

 僕が異世界という非現実を体験してるから思うことなのかもしれないけど、このダンジョンというものにも何らかの影響が働いてると思うんだよね。

 最初は僕のことを異物と判断して排除しに来てるのかと思ったけど、それならNo2パーティが異常事態に合うのは辻褄があわないし。


 いや、そもそもの前提が間違っている?

 もしかして逆なのかな……??


「うーん、こうなってくるとちょっと検証したい気もしてきたなぁ。

 ここまで読んでのことなら、雷華院校長もなかなかやりおる」


「何キャラなんそれ……」

 

「フフ、やっぱり話してみないとわからないこともたくさんありますね」


 僕の独り言に違った反応を示す二人。

 おっと、感覚に頼ってしっかりと見ていなかったことを察知されたのか戦闘中の二人から凄く冷たい圧が送られてきてる。


 といってもかなり接戦で、互いに中々均衡をやぶることができずに一進一退が続いてるんだけどさ。

 しかし氷緒さんの魔纏で武器を切断できないということは、レッドキャップチーフの武器には何かしらの秘密がありそうだね。

 魔纏はしていないようだから、剣自体が魔力を持つ魔剣の類か付与効果がある感じかな?


 状況を見る限り後者、低ランクの武器破壊効果が付与されている線が有力っぽい。

 以前の戦いではあるけど、あの時も剣や盾を斬ったというよりは破壊していたもんね。

 試しに石ころを放ってみたいところではあるけど、万が一こっちにヘイトが向いても困るからやめておこう。


 雷華院校長辺りに聞けば、海外の攻略情報引っ張ってきてくれそうだし。


「ねぇ、ちなみにだけどさ……。

 万が一あいつか、あいつよりさらに強いやつが現れてこっちに向かってきたら……ウチらってどうしたら良いの?」


 ふと北見さんが、戦闘から目を離すことなくそう問いかけて来た。


「そうだねぇ……。

 もし少しでも僕のことを信じてもらえるなら、僕が合図するまではどっしりと構えてていいよ。

 そう聞いてくるってことは、少しでも長くこの場にいたいってことでしょ?」


「……うん。何もできないのはわかってるけど、目標にすべき人たちをしっかりと目に焼き付けたいから」


「……あたしも。今はまだ……でもきっと、いつかあぁなって後に続く子たちのお手本になりたいの」


 視線こそこちらに向けてこないけど、その態度が、言葉が含む熱量が、彼女たちの想いを体現しているかのように心に響く。

 こんなに真っすぐに上を目指せる子たちをあざ笑ってたあいつらって、本当に見る目がないよね。

 もしあいつらが今この場にいたら、間違いなく威嚇してただろうなぁ。


「……そっか。うんうん、とても良いと思うよ。

 大丈夫、たとえ何があろうと僕が邪魔させないから。

 どうしても無理って思ったら帰還石を、大丈夫だと思える間は思う存分見学すると良い」


「「ありがとう!」」


 さて、そう宣言した以上は一段深く集中しよう。

 たとえ何が起ころうとも問題ないよう、あらゆる可能性を考慮し備えとかないと。


「こうか……? いや、違う。

 ならばこう……?」


 おっと、状況が動きそうだね。

 氷緒さんが魔纏を維持したまま、状況に合わせて改変しようとしているようだ。

 纏う魔力の密度が徐々に上がっているから、何か思いついたんだろう。


「……ッ! これならばいけそうだな!」


 何か手応えを感じたらしく、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる氷緒さん。


「京禾、合図をしたら下がれっ!」


「……わかった」


 水鏡さんがこくりと頷いたことを確認し、徐々に徐々に魔纏の魔力を高めていく氷緒さん。

 一合打ち合うたびにその輝きが増していき、ほどなくして。


「今だっ!」


 氷緒さんが両手剣で突きの構えを取ると同時に合図を出すと、水鏡さんがバックステップで距離を取る。

 勢いよく突き出された両手剣をレッドキャップチーフが両手に持つ片手剣を交差させて防ぐと同時。


「『剣技:爆炎剣サラマンダー』!」


 ぶつかり合った部分が凄まじい爆発を引き起こし、レッドキャップチーフの武器を粉々に砕いた。

 爆発の余波でレッドキャップチーフ自身も大きなダメージを負いながら吹き飛び、地面を何度か転がりながらもなんとか体勢を立て直す。

 だが左右の腕は手首から先が吹き飛んでおり、身体に剣の破片が多数突き刺さって瀕死の重傷を負っていた。


 一方の氷緒さんは爆風こそ受けたものの無傷のようで、油断なく大剣を構えなおしレッドキャップチーフを見据えている。

 あの至近距離で爆発すれば自戒ダメージがありそうなものだけど、無傷ってことは爆発に指向性をもたせたのかな?


 なんにせよすでに満身創痍のレッドキャップチーフは氷緒さんたちの相手にはならず、吹き飛んでなくなった腕で殴りかかって来たところを両手剣で一刀両断されて魔石へと姿を変えたのだった―――。



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