第17話


 僕たちが修行に勤しむ間、様々な変化があった。

 最たるもので言えば葛西さんと人吉さん、それに桧山パーティが学園を去ったことだろうか。

 もちろん悲劇とかではないよ?


 葛西さんは自身を鍛えなおすために再び冒険者業に、人吉さんは回復系統のスキルを買われてに加入することになったらしい。

 人吉さんの話は絶対面白いと思うんだけど、少なからず予想が外れる可能性があるため続報を待ちたいと思う。


 桧山たちは30層攻略が認められDランクになったことで、学園を卒業して冒険者として生きて行くために巣立っていったって訳。

 実際のところは雷華院校長が裏から手を回して桧山の背後にいた人物――とある政治家を失脚させたことで、後ろ盾がなくなってしまい身を立てる必要が出ただけみたいだけどね。


 僕の予想では教頭も失脚するかと思ったんだけど、別にそんなことはなかった。

 うーん、絶対裏で桧山とつながりがあると思ったんだけどなぁ。


 ついひとまとめにしちゃったけど、桧山は30層攻略時のパーティからは脱退しているから別々の意志でそうなった感じ。

 メンバーたちはあの時の不信感がぬぐい切れなかったようで、桧山なしで活動していくことを決断したようだね。

 桧山も後ろ盾がなくなってからは途端に威勢の良さがなりをひそめてしまい、大きな問題に発展しなくて良かったよ。


 2番手グループも現在29層で30層攻略に向けた特訓中とのことで、そうしないうちにDランクに上がるだろう。

 今年はかなり豊作だと上層部の評判も上々だそうなんだけど、なぜか雷華院校長ではなく教頭がホクホク顔だった。解せぬ。

 聞くのは怖いから突っ込まないけどね。


 ほかにも季節が冬の色を強く帯びてきたとか色々あるけど、まぁそこまで重要じゃないから割愛でいいかな?

 クリスマスには興味も感心もないし、そもそも僕には関係ないしね。

 ……別に強がりじゃないよ? 


 あ、相変わらずレッドキャップチーフの魔石やらドロップ品は死蔵されてるよ。

 結局レッドキャップの魔石は氷緒さんたち戦闘に参加した教員の方々が一人1個ずつの分配になり、レッドキャップチーフの魔石とドロップ品は僕のものになってしまったからね。

 人吉さんにも分け前をって話になったんだけど、僕は見ていただけだしそれ以上に大切なものをもうもらってるって固辞されてしまった。

 今度会ったときには何か別の形でお礼でもしよっと。


 そんなこんなで今日も今日とて修行に励もうと思っていたんだけど、僕たちは今雷華院校長に呼ばれて応接室へ来ていた。


「突然お呼びたてしてしまってすみませんね。実は御三方にお願いしたい依頼がありまして」


「……私たちに、ですか?」


 怪訝そうな顔をして聞き返す氷緒さんに、真剣な表情でこくりと頷く校長。


「初級ダンジョンでの異常事態以来、国から極秘にいくつかのパーティに緊急依頼が出ていました。

 内容は共通して、異常事態の発生原因もしくは発生している場所がないかの調査です。

 そのほとんどは空振りに終わったのですが、先日1つのパーティが中級ダンジョン探索中に壊滅的な被害を被り撤退してきたらしいんです」


 なんで国からの極秘依頼を雷華院校長が知ってるの? なんて突っ込むのは野暮なんだろうか。

 めちゃくちゃ深刻そうな顔してるし、僕は空気が読めるからもちろん聞かないけどね。

 そんな彼女の言葉に何かを察したのか、氷緒さんが眉を顰める。


「……まさか」


「はい。月涙さんたちにはそのダンジョンの調査、並びに攻略を行い事態を収束させていただきたいんです」


「……こう言ってはなんですが、我々は世間的に見てなんの評価も実績もありません。

 であれば、日本の上位パーティに依頼したほうが波風が立たないのではないですか?

 すでに依頼されているパーティがいくつもあるようなので、突然我々が関与するのも不自然でしょう」


「今回撤退してきたパーティ、それがまさに日本でNo2パーティと目されている『風林火山』なのです……。

 そんな経緯もあり、国より正式に我が学園に依頼が来ています。

 異常事態を1度収束させたという実績を加味してでしょう」


「「なっ……?!」


 二人は驚きに目を見開いたまま固まってしまった。

 まぁ確かにそれくらいの衝撃ではあるだろうね。

 『風林火山』といえば日本の冒険者ランキング3位〜7位の5人で結成されているパーティで、トップランカーのみで構成された超実力派パーティらしいから。

 日本での準最高階層記録をもっているのも彼らだったりする。


 ちなみに補足だけど、最高階層記録保持のNo1パーティはランキング1位と2位、9位〜11位の5人で結成されている『一蓮托生』ってところだよ。


 そんなパーティが失敗した依頼を僕たちに持ってくる時点で、嫌がらせ以外のなにものでもないけどね。

 ちらりと僕を見た氷緒さんは雷華院校長に向き直ると口を開いた。


「……申し訳ありませんが、お断りさせていただきたい。

 『風林火山』が失敗したとなれば、尚更ぽっと出の私たちが受けるべきではないでしょう。

 たとえ成功が約束されているとしても」


「お気持ちは十分わかっているつもりです。

 ですが、冒険者の世界はちょっとしたことがきっかけでランキングが入れ替わるのが常。

 であれば、ランキング18位の氷緒さんが活躍してもそう驚かれることもないと判断しました」


「それはそうですが……」


 尚も言葉を濁す氷緒さん。

 水鏡さんも苦虫を噛み潰したような顔をしてるし、めっちゃ気をつかわれてるなぁ。


「今回は月涙さんに注目がいかないよう、ほかにうちの学園生徒2名に同行していただく予定です。

 月涙さんと生徒2名は後学のための見学兼荷物持ち要員として同行したことにすれば、世間はそう注目しないでしょう」


「ふむ……」


 どうあっても受けてもらいたいという強い意志を悟ったのだろう、氷緒さんは悩ましげに眉を顰めた。

 まぁ国からの依頼ってことだし、そもそも拒否権なんてないのかもしれないけど。

 というかそこまでしてくれるんなら、無理やり同行させられる生徒二人には悪いけど良いんじゃないかな?

 氷緒さんたちが現段階での修行の成果を実感するのにもちょうど良い機会だと思うしさ。


「それなら良いんじゃないですか?」


 僕の言葉が意外だったのだろう、口をぽかんとして僕をみる三人。

 少なくとも雷華院校長は受けてもらいたかったんだから驚いちゃダメでしょうが。


「……良いの?」


「ええ、二人の成果を試すにはもってこいの場所じゃないですか。

 国としても異常事態の要因をある程度把握しときたいんでしょうし、ここで無理に断れば下手をするとさらに上層部が出てくる――なんてこともあるんじゃないです?」


「……おそらくそうなるでしょうね、ランキングの上位層を総動員した集団戦レイドで対抗したらどうかという意見も出ているので、少なくとも氷緒さんは対象になると思います」


 やっぱりね。

 もしそうなった場合は僕の参加はまず認めてもらえないだろうし、無理やり参加しようとすれば今以上に目立つことになってしまう。

 それなら氷緒さんたちには申し訳ないけど、彼女たちを隠れ蓑にさせてもらってさっさと状況を打開するほうが得策だろう。


 もともと有名人である彼女たちは、いまさら人目を引いたところであまり気にならないようだし。

 その分魔法の修行を頑張るので許してくださいってことで。


「ただ、さすがに事の真相を全て解き明かすとかまでは面倒見切れませんからね?

 とりあえず件のダンジョンの攻略と、原因究明に役立ちそうな情報をいくつか持ち帰るのでそれで勘弁してください」


「ええ、それで十分ですよ。

 むしろ日本のNo2パーティが壊滅的被害を被ったと言っているのに、なんら意に返さないその姿には感動すら覚えますね」


「勘違いしないでくださいね?

 今回の依頼は、僕はあくまで補助。メインの目的は氷緒さんたちの修行の成果を試すためなので」


 僕が真顔で答えたので、そういうフリではないと判断したのだろう。


「……それは、今のお二人なら日本のNo2パーティである5人相手に引けをとらない、ということですか?」


「『風林火山』を直接見た事がないのでなんとも言えませんが、75層のボスであるレッドキャップチーフを基準とするなら引けを取らないどころか超えているでしょうね。

 おそらく、今のお二人なら協力すればレッドキャップチーフを倒すこともできるはずですから」


「……そんな。……いえ、でも月涙さんがそう仰るならきっと……でもさすがに、それではあまりにも……」


 僕の言葉に、ブツブツと独り言を言いながら何かを考え込んでしまう雷華院校長。

 当の本人たちも、この短期間でいくらなんでもそれは……と半信半疑のようだ。

 

 ま、実際に自分で体験してみないとわからないこともあるよね。

 ということでその日は解散となり、翌日同行予定の生徒二名と顔合わせを済ませて簡単な確認作業を行った後。


 僕たち5人は調査対象の中級ダンジョンへと赴いたのだった―――。


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