第16話


 魔法の検証をした日から、3日が経った。

 今日も今日とて初級ダンジョンにて二人に魔法の稽古をつける僕。


「氷緒さん、魔力を練りすぎです。それじゃ暴発して危ないですよ。

 水鏡さんは逆に慎重になりすぎです。それでは発動せずに不発に終わります」


「難しいな……。ついつい敵を1撃で葬り去るだけの威力をイメージしてしまう」


「……私はスキルでも魔法を使ったことがないから、イメージがしづらい」


「うーん、そうですねー……。

 裏技もあるっちゃあるんですけど、おそらく僕にしかできないので今後を考えると二人にはぜひ裏技なしで覚えてほしいんですけど……」


「言わんとせんことはわかるが、この世界ではまったく魔法は普及していないんだ。異世界と同じ基準で言われても困るぞ」


「……月涙は鬼じゃないって信じてる」


「ええー……」


 二人の圧に負けて、裏技――僕が魔力の主導権を握ることで体外から操作を行い、感覚を直接身体に叩き込む方法を取ることになった。


「これはなんというか、ちょっとこそばゆいな……。自分の中の大切な何かを月涙に預け、自分の全てを委ねている……そんな感じだ……」


「……これはもう責任を取ってもらうしかない……」


「言いたい放題ですねっ?! やめますよ?!?!」


 氷緒さんは、そんなひどいこと言わないでと言わんばかりにややうるんだ瞳を向けて来て。

 水鏡さんはここまでやっておいてやめるなんて許されると思ってるの? とでも言わんばかりにジト目を向けて来た。

 なんていうか、どっちも普段とのギャップが凄くない??


「うむ、うむっ! スキルのときよりだいぶ楽だなこれは!!」


「……魔法って楽しい……!」


 だいぶ感覚をつかんだようで、氷緒さんは火炎球を二発三発と打ちまくり。

 水鏡さんは風刃という、薄い刃状の風を指定した方向に飛ばす魔法を打ちまくってた。


 氷緒さんはどうやら放出型の魔法はあまり得意じゃないようで、スキルに比べれば格段にマシだけどそれでも多めに魔力を消費してしまうようだ。

 あの感じからすると15発くらいで倦怠感を覚えて、20発も打てば重疲労状態に陥るんじゃないかな?


 一方の水鏡さんはかなり放出型の魔法に適正が高いようで、風刃なら40発くらい打てそうである。

 むしろもう次のステップに進もうとしているくらいだから、かなりコツを掴んだみたいだね。

 

 その日は一日二人の様子を見つつ好きなようにしてもらい、翌日再びダンジョンにやってきた。

 昨日の様子を見つつ僕なりに出した結論を二人に伝えていく。


「火緒さんは、火炎球は緊急時の選択肢として取るくらいで平時の戦闘に組み込むのはやめたほうが良さそうですね。方向性を変えましょう」


「む、そうか……?

 まぁ確かに、発動までの速度も使用する魔力も京禾に大きく劣るものな。

 しかし、違う方向性というのは? ほかになにかできることがあるのか?」


「ええ、放出型が苦手な人はたいがい纏衣型のほうが得意な傾向にあるので。こんなんですね」


 僕はそう言って、抜いた片手剣に火属性の魔力を纏わせ疑似的な魔剣を作り出して見せた。

 刀身の周囲に炎を凝縮したような真っ赤な刃が形成され、軽く振るうと炎が迸る。


「これは美しいな……。私のスタイルにも合いそうだし、ぜひ習得したい!!」


「まずは体内で魔力を操作することに慣れましょう。魔力を放出せずに一か所に留め、それを少しずつ違う部位に移動させることを意識して修練してください」


「うむ、わかったぞ!」


 氷緒さんがすぐに実践し始めたの見届けてから、今度は水鏡さんに向き直る。


「水鏡さんは放出型のようなので、まずはそちらを鍛えていきましょう。今の水鏡さんに必要な技術は2つ。

 より効率的な魔法の発動技術と体外での魔力操作です。

 手のひらの上に風球を作り出し、自身の周囲を一周させたら消す。これを繰り返しましょう」


「……わかった。積み重ね、だね」


 こくりと頷いた水鏡さんは、手のひらに風球を作り出そうと集中し始める。

 さてさて、僕の仕事は二人をゴブリンから守りつつ、ついでに近接技術を磨くことだ。

 僕の修行に関しては二人が癖や改善点を指摘してくれたので、それらを意識して行っている。

 

 こうして来る日も来る日も修練に励むこと一週間。

 各々の進捗はまぁまぁといった感じかな?

 氷緒さんは右手に溜めた魔力を右肩まで動かせるようになったし、水鏡さんは風球を八分の一周くらいまで動かせるようになっている。


 僕も僕で剣の振り方のコツを掴み始め、5回に1回くらいは剣を振るうことでゴブリンの首を両断できるようになってきたし。

 ちょっと力のかけ方を間違えたり、振るうときに剣筋がブレると刃が途中で止まっちゃうんだけどさ。


 あ、ちなみにレッドキャップチーフを討伐したときに得られた経験値だけど、止めを譲ったことで思いのほか減ったようだった。

 氷緒さんたちは平均して4レベル前後上がったようだけど、僕は2レベル上がっただけで済んだんだよね。

 相変わらず上昇値は1だったので計2ずつ、そこまで感覚が変わらなくて済んだから良かったよ。


 そうしてそれぞれが試行錯誤することさらに一週間。

 日々真面目に取り組む二人は、かなり魔法の技術を自分のものにしてきたように思う。


 氷緒さんはかなりゆっくりだけど全身を周りきるまで集中力を切らさずに維持できるようになったし、水鏡さんも5回に1回は風球を維持したまま周囲を一周させることができるようになったよ。

 僕も3回に1回は斬れるようになったしね。


 でもそろそろ停滞感も否めないから、さらに一歩進んでもらうことにしよう。


「さて、ずっと同じことばかりだと飽きてくるでしょう?

 なので、二人にはさらに難易度を上げてもらいたいと思いまーす」


「ようやく少し形になってきたと喜んでいたところだったんだが……?」


「……鬼畜」


「何を言ってるんですか。

 なんだかんだ言いながら、お二人は目標が高ければ高いほど燃えるタイプでしょう?」


「「……」」

 

 図星をつかれた自覚があるのか、ふいっと視線を逸らす二人。

 まったく、修練は難しければ難しいほど楽しいというのに何を恥ずかしがってるんだか。


「火緒さんは右手に溜めた魔力をこの石ころに移せるように、水鏡さんは両手で1つずつ風球を作りそれぞれ右回りと左回りで交差するように一周させてくださいね」


 なんだかんだで僕から出された課題に嬉々として挑戦する二人だったが、今回のはそううまくいかないから頑張ってくださいね?

 なんてったってこれができてしまえば、あとは形にするだけというくらいのレベルだからさ。


 正直な話もっとゆっくりやってても良いんだけど、そろそろ雷華院校長からの圧も強くなってきたんだよね。

 どうやら僕たちがしていることにかなり興味津々みたいで、こないだなんて混ざろうとしてきたくらいだもん。


 いくら協力者候補になってもらったとはいえ、あんなお偉いさんを連れてダンジョンなんか潜れば至る所から注目を集めちゃうからね。

 ほんと勘弁してほしいよ。


「くそっ、また溶けたぞ!!」


「……左が右で右が左で……」


 うんうん、二人ともだいぶ苦戦してるらしい。


 氷緒さんは石に魔力を移そうとして体外に放出してしまい、その熱で石がどろりと溶けてしまったり石に無理やり魔力を流そうとして魔力の圧で砕いてしまったりということを繰り返していた。

 自分以外のものに魔力を移すのは非常に困難であり、特に石などの魔力を通す性質をほとんどもたないものは相当の技量が必要になる。

 でも現状氷緒さんの武器は鋼鉄製なので、石よりもちょっとマシというくらいで大差ないと言っていいレベルだからね。

 使うたびに武器をダメにしていたんじゃ意味がないでしょ?


 水鏡さんは二つの風球をそれぞれ別々に動かすことが難しいようで、二つとも同じ方向に動いてしまったりどっちも動かなかったりと中々うまくいかないようだ。

 放出型のオーソドックスな戦術は自身の行動をアシストする魔法を使いつつ攻撃魔法を放ち、必要に応じて動き回る必要がある。

 特に彼女の場合は近接戦闘も優れているので、風魔法による速度強化と攻撃魔法によるけん制、死角からの攻撃を織り交ぜたスピード重視のスタイルがかみ合うと思う。

 そうなると必然的に同時に2つ、もしくは3つの行動をしなきゃならないって訳。


 二人の様子を見つつ、僕は僕でさらなる修練に明け暮れる日々。

 とても充実した日々を送っていると時間が経つのが早く、気づけばさらに2週間が経過していた―――。




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