第15話
結論から言おう。
雷華院校長にはある程度のことは話してしまい、協力者候補になってもらうことにしたよ。
単純に勘が鋭いのかずば抜けた情報網があるのかわからないけど、彼女の中ではレッドキャップチーフを討伐したのは僕の功績によるものが大きいと結論を出しきっていたからね。
あれこれ言い訳を並べたところで時間の無駄だと思うし、万が一強硬手段に出られちゃったりしたら
氷緒さんたちも勘違いしてたんだけど、僕はべつに
単純に僕の力が公になるとあらゆる面で面倒だという理由と、僕自身が近接戦闘の技術を磨きたいからというだけだからね。
言い方は悪いけど、ただの自己満足でありこだわりであり保身でしかないんだ。
初めてやるRPGゲームの主人公キャラが、すぐにラスボスに挑めるだけのステータスと装備をもってたらやりたいと思う?
一度クリアしたあとの2週目3週目ならともかく、少なくとも僕は最初からそんな作業のようにゲームを進めるのは嫌だと思う派なんだ。
それに、近接戦闘には並々ならぬ憧れがあるからね。
せっかくのチャンス、生かさない手はないでしょ。
まぁできる限り隠しておきたいのは本当だけどさ。
奥の手ってのはギリギリまで隠し通すから奥の手なんだし。
「しかし驚いたよ。まさか月涙が異世界では近接戦闘を
「……それを聞いてようやく疑問が解けた。
ずっと、なんで初心者のフリをするんだろって思ってたから」
「こっちで
ということである。
そう、何を隠そう僕は異世界では魔法一筋の完全中~遠距離型だったのだ。
近接も必要ですよとは言われてたけど、当時の僕からすれば敵に近づくのも近づかれるのも恐怖以外のなにものでもなかったからね。
敵に近づかれたくなくてひたすら魔法を練習してたら、気づけば僕に近づける敵はいなくなってたんだよ。
あ、ちなみに今日は桧山げきおこ事件から三日たっていて、今は空き教室に僕と氷緒さんと水鏡さんの三人でいるよ。
「確かに滅多にいないが、いることにはいるんだぞ?
燃費が悪すぎて、ダンジョン攻略で役立つかと言われれば否と答えるほかない、という注意書きはつくけどな」
「……ちなみに、月涙はこっちでも魔法は使えるの?」
「そういえば試したことありませんでしたね。どれどれ――。
あ、普通に使えます」
僕が無詠唱で『
「なんというか、本当に規格外だな君は……。もちろんそれが全力という訳じゃないんだろう?」
「実際に試してみないと断言はできませんけど、たぶん初級ダンジョンなら今の僕でも魔法だけでクリアできそうですね」
「……燃費が良いのは、やっぱりスキルじゃないから?」
「うーん、どうなんでしょうね?
実際に魔法スキルを使ってる人を見れば何か気づくかもしれませんけど、実物すら見たことないのでなんとも」
「ふむ……。であれば、今からダンジョンに行って検証してみないか?」
「その口ぶりだと、氷緒さんか水鏡さんのどちらかが魔法を使えるってことですか?」
「……梓は火の魔法が使える」
「……え? 氷じゃなくて……?」
「火だと何か問題があるのか?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど……」
この流れで魔法が使えるのが氷緒さんって聞けば、名前の通り氷属性?! って思っちゃうじゃんね。
さてさて、怪訝な表情を浮かべる二人とともにダンジョンにやってきましたよっと。
あくまで魔法スキルの検証が目的なので、場所は初級ダンジョンの2層だ。
「では、使ってみるぞ。
私は1発で倦怠感が、3発で疲労感が、4発で重疲労が、5発でまったく身動きが取れない感じになってしまう。
なので、打てても3発までだからよろしく頼む。
『
氷緒さんがスキルを使うと、前にかざしていた手のひらの先に小さな火の玉が生成され、その場でぐるぐると周りの空気を取り込むように回転しながら5秒ほどかけてバスケットボールサイズの火炎球に成長。
ぼっという音とともに前に射出され、大人がバレーボールを全力で放ったときくらいの速度で目標目掛けて飛んでいった。
不意をついたこともあって、ゴブリンが気づいたときには時すでに遅し。
避ける間も無く直撃した火炎球は、ごうごうと燃え盛り瞬く間にゴブリンを魔石へと変えた。
しかしまぁなんてコスパの悪いスキルなのだろう。
あの威力を出すためだけに、とんでもなく無駄の多い方法で魔法を顕現させている。
ぶっちゃけあれを使うくらいなら近接メインで、となるのも頷けるひどさだ。
「あー、とても言い難いんですけど金輪際使うのやめたほうが良いですよ、それ」
「今のだけで何かわかったのか?!」
「わかったも何も、それはいわば調整前の魔法みたいなものですよ。
無駄が多すぎて使い勝手が悪いばかりか、応用すらできない欠陥品ですね」
「調整前……?」
不思議そうに首を傾げる二人。
そうか、そもそもスキルに頼りきりなんだから自力でどうこうするっていう概念すらないよね。
「見ててくださいね?」
僕はそう言って、今しがた氷緒さんが見せてくれた火炎球とまったく同じものを再現してみせた。
そしてお次に、驚く二人を無視して同じ威力をさらに圧縮させただけの火炎弾を放ってみせる。
「最初のが氷緒さんの模倣魔法。二つ目のが使用魔力はそのままに、圧縮させることで速度と威力を上げたものになります。
本来の魔法は、こうして状況や用途に応じて改変して使うものなんですよ」
「言わんとせんことは理解できるが、しかしそれをやれと言われると土台無理ではないか?」
氷緒さんの言葉に、うんうんと頷く水鏡さん。
「それは大前提として、魔法はスキルを使わなければ放てないという先入観があるからでしょう?
現に僕がこうして魔法を使えてる時点で、お二人にできない理由はないじゃないですか。
そのための魔力ですし」
「「あっ……」」
僕と彼女らに条件の違いがないことに思い至ったのだろう、二人は雷に打たれたかのように身を震わせて固まってしまった。
「……念のため聞くが、今も自身に制限をかけたままなんだよな?」
「はい、もちろんです。
そんな僕の、氷緒さんに比べればおそらく20分の1以下の魔力値であろう状態でも同じことができます。
ちなみに僕は、今の規模ならあと20発以上は撃てますね」
「……世界が変わる」
水鏡さんの言葉に何を大袈裟な、と思ったんだけど氷緒さんが深刻そうに頷いてるからマジなのかもしれない。
近接戦闘こそ力を入れてるけど、未知の部分に関する探究は誰もしてこなかったのだろう。
感覚が鋭い人なら、スキルを使用したときの感覚を意識しながら練習すればできそうなものなのになぁ。
「氷緒さんは火の適正があるので、おそらくですけどそのスキルは潜在的な部分を色濃く反映した形で習得されるんでしょうね」
「検証は必要だが、本当にダンジョン――というよりも冒険者の認識が一変しそうな情報だな。
しばらくは絶対に口外しないほうが良いだろう、わかったな二人とも」
「……もちろん。国のモルモットになるのはごめん被る」
「こわー……。僕もそんな事態は遠慮願いたいので、極力触れません」
「うむ、そうしてくれ。ちなみに、今後これらを発表するつもりはあるか?」
「ありませんね」
「だろうなぁ……」
氷緒さんも予想はしていたんだろうけど、いざ僕に断言されるとガッカリしたように肩を落とした。
僕が発表する気がないだけで、別に他の人がしてくれるならかまいませんよ??
こんな情報で財産を築こうなんて思ってないし、同業者の人たちが強くなってくれればより僕の存在は霞むし。
「……月涙、私は魔法スキルをもってない。適正がない?」
「えーと、どれどれ……。
いえ、水鏡さんもありますね。風の適正だと思います」
「……やった!」
本当に嬉しかったのだろう。
超珍しいことに、水鏡さんは笑顔を浮かべてガッツポーズをとる。
そんなこんなで、僕は二人に頼まれて魔法の先生をすることになるのだった―――。
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1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!
現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!
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