第14話
衝撃から立ち直った雷華院校長は、不思議なものを見るような視線で尋ねる。
「貴方は……?」
「こないだの探索で、入学から1年経たずして30層を攻略した桧山 猛ですよ。
将来有望なスーパーホープをどうぞよろしく」
おぉ、相手のことを良く知りもしないのにあからさまに見下し、ニヤニヤとする桧山くんいいぞーーっ!
実はその相手は絶対軽んじちゃいけない相手だけど、いいぞいいぞーーーっ!
ぜひこのままこの場の空気を完全にぶち壊して、雷華院校長の思考を乱してほしいものだ。
隣にいる教頭は可哀そうなくらい青ざめてるけど、まぁ自分の見る目のなさを恨んでってことで。
「そういえば報告に上がっていましたわね。なるほど、貴方が――」
目を細めてじっと自身を見つめる雷華院校長に、桧山は得意気ににんまりと笑い返す。
さてさて、桧山は彼女のお眼鏡にかなったのだろうか?
「こんなペテン野郎はほっておいて、ぜひ俺と会話するほうが有意義だと思いません?」
「ああ、そういうことですのね……。事情はなんとなく把握できました。
それで、貴方はなぜここに?」
ちらりと僕を見たあと氷緒さんたちに視線を流し、改めて桧山を見て得心がいったという表情を浮かべた雷華院校長。
え、まさか今のやり取りだけでなんか把握しちゃったの?
しかも桧山の質問には一切触れずに質問で返すそのスタイル、暗に必要以上に貴方と会話するつもりはありませんって意志表示だよね。
当の本人は気づいてないようだけど。
「そうだ、校長からも言ってやってくださいよ。この前の30層で――」
桧山はあろうことか、事の解決を雷華院校長に託すため意気揚々と当時のことを語りだした。
さすがに常識的な人であれば彼の味方はしないと思うけど、『使える』と判断されればそれも定かじゃない。
さてさてどうなることかと思ってたんだけど、見る見る間に顔から表情が抜け落ちていったから大丈夫そう??
「うーん、
「やっぱそう思うだろ?!
いやぁ、こいつらと違ってやっぱ校長は話がわかるなー」
「いえ? 貴方のことですよ??」
「は……?」
何を言われてるのか本気でわからないらしく、眉間に皺を寄せて不快感を顕にする桧山くん。
「まずはご自身の立ち位置を正確に自覚したほうが宜しいと思います。
自らを命がけで救ってくれた恩人に最大限の感謝こそすれ、何かを要求するなど言語道断。恥を知りなさい」
うわぁ、やっぱりなんか感づいてるっぽいなー。
報告上は氷緒さんたちを中心に事態の解決に努め、スキルが開花した僕と人吉さんが加わったことでレッドキャップチーフを討伐できたということになっている。
なので、普通この場合の主軸は最大戦力であった氷緒さんであり、『
さてさてどうしたものか……。
まぁとりあえず様子見かな?
雷華院さんの言葉で呆けていた桧山が再起動したようで、怒りでワナワナ震えてるからね。
「分家も分家、かろうじてその名を名乗れてるだけの操り人形が偉そうなこと言ってんじゃねーぞ!!」
「あぁ、そういうことですか……。
その境遇に同情はしますし理解できなくもないですけど、それだけ自分の力や可能性を信じているなら自分の頭で考えることを忘れてはいけませんね。
そうすればもう少しはマシになりそうですよ?」
ちらりと教頭を一瞥し、改めて桧山に視線を戻す雷華院校長。
教頭は背景を悟られたことを理解したのだろう、忌々しそうに桧山を睨みつける。
「……ッ?! 訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!!
どうなっても知らねーからなっ?!?!」
言葉で太刀打ちできないと悟ったのだろう、捨て台詞を吐いて桧山は教室を出て行った。
どうして行っちゃうんだよ、もっとやれることがあっただろ……!!
「どうやら話し合いはここまでのようですね。では、私もこれで失礼しますよ」
すっと立ち上がった教頭は笑顔で挨拶して部屋を出ていったけど、かなり強く拳を握りしめていたからよほど気に障ったのだろう。
そんな彼にまったく感心を示さず、申し訳なさそうに氷緒さんに声をかける雷華院校長。
「氷緒さん、彼の話はこちらで処理しておきますから忘れてもらって大丈夫ですよ。
すみませんね、巻き込んでしまって」
「いえ、それは構いませんが……。むしろ巻き込んだのは我々の方では?」
「どなたなのかはまだ存じ上げませんけど、おそらく彼の後ろには多少権力のある誰かしらがいるのでしょう。
今回の手柄や戦利品を巻き上げ、地盤を強化したい誰かが、ね。
うまくいけばよし、いかなくてもコマを1つ失うだけ。彼はそれにすら気づけない大変便利な捨て駒ということです」
淡々と言葉を紡ぐその姿から、彼女が桧山に対して一切の興味を失ったのだと理解できた。
その背後にいる誰かしらに見当がついたせいなのか、桧山の言動のせいなのかはわかんないけど。
氷緒さんたちも察したようで、すごく複雑な表情をしている。
さっきまであんだけ悪態つかれてたのに、優し――。
「あいつをボコボコにできる機会が……」
「……残念」
「ちょーっとだけ惜しいですねぇ」
「いっそのこと今から殴りにいくか?」
「やりすぎても回復なら任せてください」
あ、違ったみたい。
むしろ殺意マシマシだった。
「そんなことをしても貴女たちの立場が悪くなることはあっても、良いことなんてその場限りでスッキリできるだけですよ?
わたくしならゆっくり時間をかけて意趣返しをできますから、お任せくださいな」
「それはそれでどうかと……。
むしろ我々が手を出すほうが、あいつのためになるような気すらしますよ……」
「それは間違いないでしょうね。
安心してください、さすがに命までは取りませんから。
アレ呼ばわりされてるぞ、桧山。
噛みつく相手を間違えるとどうなるか、その勉強代が高くついたと思って諦めるんだな……。南無。
「まぁどちらにせよ、いずれ誰かしらの虎の尾を踏んでいただろうから時間の問題だったのだ。うんうん」
「そういうことですね。
ところで、アレには渡さないにせよドロップ品はどうするんです?
早めに方向性だけでも決めておかないと、似たようなおバカさんが沸いて出るかもしれませんよ?」
「そ、そうなんですけどね……」
歯切れ悪い返事をしながら、困り顔でちらりと周囲の様子を伺う氷緒さん。
「……売却して頭割りするのか、だれかが使うのか……。なかなか決めかねていて」
「ものがものですものね。
余計なお世話かもしれませんが、わたくしとしてはどなたかが使うのがよろしいのではと思ってしまいますけど……」
「早いうちから使うことで、15%補正まで幾分か届きやすくなりますからね。
ただ、正直使う人が使わない人にお金なりを補填できるかと言われると微妙なところで……」
氷緒さんの悩みは最もだよね。
みんな使えるなら自分で使いたいって思ってるかもしれないし。
まぁ実際には氷緒さんと水鏡さんが口にしている言い訳は、建前上のものでしかないんだけどさ。
ぶっちゃけた話、僕が倒したんだから僕のものにすべきと氷緒さんたちは考えていて、でも僕が受け取らないからどうにもできずほとほと困り果ててるという訳。
全ては僕のせいでしたー。
でもほら、しょうがないじゃん?
装備としても不要だからいらないし、売却すればまず間違いなくお金の流れから僕の存在が浮上しちゃうだろうし。
いっそのこと受け取ってアイテムボックスにでも放り込んどこうかなぁとも思うんだけど、どうやらこっちの世界ではアイテムボックスを使える人はいないようなので何が何でも秘匿しておきたい所存。
世の中ままならないね。
「ふふ、お二人のそんな姿は新鮮で面白いですね。
ただ、友人の一人としてはいささか振り回されすぎなのかなとも思ってしまいます。
ねぇ、月涙さん?」
「え……??」
まるで『全部知ってるんですよ?』とでも言いたげに、じっと僕を見つめる雷華院校長。
はぁ、こーゆー駆け引きみたいなの、苦手なんだよなぁ。
僕はどうしたもんかと、雷華院校長と視線をぶつけながら頭を悩ませるのだった―――。
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1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!
現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!
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