第13話


 ダンジョンから無事帰還して、3日が経ったよ☆

 今日も良いお天気で嬉しいな☆


 え? テンションがおかしくてうざいって?

 しょうがないじゃん、只今絶賛厄介ごとに巻き込まれ中なんだから。

 さすがの僕もこんなふざけたテンションにでもなっていないと、桧山くん――いや、もうこんなやつくんはいらないな。

 桧山をぶっ殺しちゃいそうアル☆


 ま、事態を飲み込めない人たちのために超簡潔に説明するとね?

 『元はと言えば30層のボスを倒したのは自分だ、よってあの部屋で落ちたすべての戦利品については自分に権利がある。そして無断でレアボスを横取りしたお前たちは、責任をとって許しが出るまで自分のパーティに所属して自分の命令に絶対服従しろ』って言ってる訳☆

 そしてこれ幸いと、その主張に教頭まで乗っかってきてるから余計にタチが悪い☆☆


 はぁ……。


「君はすごいやつだと思っていたが、まさかここまでとは思わなかったぞ」


「だろ? そんな俺に仕えられるんだ、感謝しろよな」


「「「「「……」」」」」


 桧山の言葉に、この場にいる僕、氷緒さん、水鏡さん、上条さん、葛西さん、人吉さんは言葉を失った。唯一教頭だけがニヤニヤしてるけど。

 こういう言い方もアレだけど、こいつってこんなに頭の悪いやつだったっけ。

 いや、あのドロップ品が頭をおかしくさせてるのかな?


 というのも、最後のボス――レッドキャップチーフを倒した際、まさかのドロップ品があったのだ。

 通常魔物を倒したあとには魔石だけしか残らないんだけど、極々稀に何かしらの特殊なアイテムが残ることがあって、それらをドロップ品ていうんだってさ。

  で、今回は幸か不幸かその稀に当たってしまったようで『レッドスカーフ』というアイテムが手に入ってしまった。


 聞いて驚くなかれ、このレッドスカーフだけど競売にかければ30億円以上で売れるそうだ。

 装備するだけで筋力と敏捷力のステータスに5%の補正が入り、さらに装備した状態で自分より格上の相手に勝利すると一定数ごとに補正値が1%上がり、最大で15%まで上がるらしい。


 レベルが高い人からすれば上昇値もバカにできないくらい高いだろうし、格上の定義がわからないけど15%も補正が入った日には完全にぶっ壊れアイテムと化すよね。

 むしろ30億でも安すぎない? って思っちゃうくらいには頭おかしいと思う。


 ま、僕は別にいらないけど。

 お金も使う事がほとんどないからあっても持て余すだけだし、仮に15%の補正が入ったところで僕の場合は+1とか2の世界だからね。

 こう言っちゃなんだけど、もはや誤差でしょ。

 

「んで、早くレッドスカーフってやつを渡してほしいんだけど?」


「獲物を横取りしたんですから、当然正当な持ち主に返すのが筋。

 貴女ほどの方が、まさか横領なんてしたりしないでしょう?」


 したり顔で桧山くんがよこせと要求し、教頭もククッと嫌味な笑みをこぼしながら後に続く。


「お言葉ですが、彼は30層のボスであるホブゴブリンリーダーにすら手を焼いていたんですよ?

 75層の階層主であるレッドキャップエリートに敵うはずもない。

 助けたことを感謝こそされ、横取りしたなどと言われる筋合いはないと思いますが」


「あそこは初級ダンジョンです。

 見た目がだったからと言って、それがそのまま75層と同じ強さであったとイコールで結びつけることなどなぜできるんです?

 現に貴女方だけで倒せたのでしょう? 未だ60層止まりの貴女と、50層すらクリアできていない彼女たちだけで、ね」


 教頭はそう言って嘘つきどもめと言いたげに一同を一瞥したあと、再び氷緒さんを口角を上げながら見据えた。

 話が通じなさ過ぎて疲れるけど、まぁ上役なんてこんなんばっかだよなぁとも思ってしまう。

 権力なんて見た目だけのハリボテに酔いしれ、を見れなくなった人に良い未来なんて訪れやしないのにさ。


「……もういっそのこと――」


 わー、ストレスで氷緒さんが思考放棄し始めてる。

 たぶんだいぶ物騒なこと考えるよ、あれ。

 そして残念なことに水鏡さんたちも同じようで、誰も止めようとしていない。


 え? 僕?

 もちろん止める気は無いし、なんなら参加するまであるよ。

 僕らを止めることすらできないならエリートに勝つなんて100%不可能だし、一番手っ取り早く証明できそうじゃん??


 なんて思っていたんだけど、扉をがらりと開けて入ってきた人の登場によってこの計画は霧散することになった。


「お邪魔しますね」


「……校長っ?!」


「はい、校長です。お疲れ様です教頭先生」


「お、お疲れ様です……?」


 校長と呼ばれた女性のあまりのマイペースっぷりになのか、その存在になのかはわからないけどあの教頭が珍しくタジタジになっている。

 氷緒さんを始めとする指導員の人たち全員も緊張した様子で固まっているから、この人の存在そのもののほうなのかな?

 まぁ校長ってことはこの学園の最高責任者ってことだろうし、さすがの氷緒さんたちも権力者には敵わないってことなのかな、なんて勝手に解釈したんだけど。


 成り行きをぽけーっと眺めていた僕に危機感をもったのか、水鏡さんが驚愕の事実をそっと耳打ちしてくれた。


「……あの人の表向きの顔はこの学園の校長。でも実際は、旧華族の一員。変なことしちゃだめだよ」


「ええー……」


 ほんとにええーである。

 なんでそんなことを知っているのかとか、そんな人がなんでここに現れたのか、とか。

 疑問はつきないんだけど、それよりもさらに気になることが1つ。


 そんなお偉いさんに見えないくらいあの人若くない? どう見ても氷緒さんと変わらないか、むしろ少し下の可能性すらない? 

 ……って言うのは冗談で、あの人めっちゃ僕のこと見てない??


「初めまして、で良いんですかね?

 入学式の日に同じ場所にいましたが、会話もしていませんものね。

 わたくし、雷華院 天乃らいかいん あまのと申します。よろしくお願いしますね?」


「……これは勘違いじゃなければ、僕に言ってます?」


「ええ、もちろんです」


「……月涙 夜つきな よるです。よろしくお願いします」


 僕が挨拶を返すと、めっちゃニコニコする雷華院さん。


 というか2度目のええーだよ。

 さすがの僕でも『雷華院』という名前は知ってるし、まず間違いなく目の前の女性はその本家筋――それも相当重要な立ち位置にいる人だろう。

 

 教室の扉についている窓から、こちらを心配そうに覗き見ているSPのような人たち。

 あの氷緒さんですら頭が上がらない様子に、この若さではまずありえない役職。


 氷緒さんは超大財閥である『氷緒カンパニー』の令嬢で、一般人からすればいわゆる天上の人だ。

 その血筋をもってしても萎縮してしまう相手ということは、雷華院本家の直系なのかな?

 『雷華院家』は旧くから続く日本三大名家の一角だからね、それならこの反応に納得もいくってものだよ。


 問題は、なんでそんな人がわざわざ僕に挨拶してるのか、ってことだけど。

 有象無象に丁寧に挨拶をしてくれるお偉いさん――可能性はゼロではないけど、まぁ宝くじの3等に当たるくらいありえないよね。うん。

 腹に一物抱えてそうな雰囲気醸しまくってるもん。


「初期ステータス、レベルアップボーナスがともに1で固定の冒険者――。

 そんな噂を耳にして、ぜひお話してみたいと思っていたんです。

 今日は氷緒さんに会いに来たのですけど、お会いできてラッキーでした」


 うふふとお上品に微笑みつつ、まったく笑えない言葉を口にする雷華院校長。

 長い黒髪に姫カット、黒い瞳に柔和な印象を受けるややたれた目元。

 ゆるふわ系お嬢様って感じの印象を受けるのに、なんというか仕草や表情の全てがどこか演技臭い。


「あはは、お恥ずかしい噂をお耳に入れてしまい恐縮です」


「うふふ、やっぱり噂話なんてアテになりませんね。直接お会いできなければ騙されてしまうところでした」


「……というと?」


「ご本人を前にして口にするのは憚られますが、お許しくださいね。

 わたくしの耳に入る貴方の噂は、『無能』『寄生虫』『大嘘つき』『厚顔無恥』『疫病神』など散々なものばかりでした。

 ですが貴方を直接見た印象は、そんな噂とはかけ離れたものだったので」


 雷華院校長の言葉に桧山が顔を顰め、教頭は目に見えて狼狽えている。


「光栄です、とお答えしても良いのか悩むところですね。

 我が事ながら、それらの噂はそう大きく的外れな訳ではないと思いますので」


「またまたご謙遜を。わたくし、これでも人を見る目には自信があるんですよ?」


「……ありがとうございます」


 これあかんやつや。

 異世界にもこういう人いたけど、なんの根拠もないくせに自分の勘を絶対的に信じてる人だ。

 しかも雷華院さんのような瞳に確固たる自信が溢れてる人は、恐ろしいことにその勘が当たっていることがほとんどというおまけつき。

 

 おそらく僕に何かしらを感じ、この人の中ではもうどう取り繕おうと僕に無能の烙印を押すことはないだろう。

 ごまかしが効かないタイプ、苦手ーーーっ。


「校長せんせーの人を見る目ってのも、案外大したことないんだ?」


 あ、この雰囲気をぶっ壊してくれるスーパーマンがここにいたわ。

 今だけは応援してあげるよ、桧山くん!

 お仲間だったはずの教頭ですらびっくりして固まってるけど、さすがだよ桧山くん!!


 立場上そういったことを言われる経験なんて、ほとんどなかったんだろう。

 心底驚いた様子できょとんとする雷華院校長を横目に、僕は心の中で桧山くんに最大限のエールを送るのだった―――。



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1章までは定期的に更新していく予定なので、今後ともよしなに!

現在更新は滞ってますが、別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければ!!


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