8.放課後作戦会議!

 放課後に廊下で待ち合わせ。これもまた、緊張してしまう。緊張してばっかり!

 私のほうが先に終わったから、里吉くんを待つ。二組の教室でも帰りの会が終わったようで、騒がしくなりつつ一気に人が吐き出される。

 目立たないよう、三組の教室前の廊下に立っていた私を、里吉くんが見つけてくれた。

「おまたせしました。えっと……どこで話そうか」

「えっと……」

 家ってわけにもいかないし、学校で話すのもちょっとはずかしい。となると。

「『光悠堂こうゆうどう』がいいんじゃないかな」

 便利に使っている気もするけど、ふだんお手伝いしているんだから、こういう時は利用させてもらわないとね!

 ってことで、光悠堂に行くために私たちは学校を出た。

 光悠堂までの道のりはふたりきりだから、かーなーり、きまずい。じょうずに話せなくて、沈黙が流れる。

 カメラの勉強の前に、コミュ力を身につけるほうが先だったんじゃないかなって思い始めてきた。

「あの、幸穂さん」

「はいっ?」

 やば、すごく甲高い変な声がでてしまった!

 里吉くんはなにも言わず、話を続ける。

「幸穂さんは、青春ってなんだと思う?」

 今回のフォトコンテストのテーマ。青春写真。私もずっと、どうやって写真で青春を表現したらいいか頭を悩ませていた。キラキラした青春、してないもん。

 でも……ちょっとわかった。

 里吉くんといっしょに下校している「今」に青春を感じる。

 冬が近づいてきて、日の入りがはやくなって、空がコスモス畑みたいにピンクやむらさきの色になって。

 そんな中を、里吉くんとふたりで歩いている。手を伸ばしてようやく届くくらいの距離感で。

 もしかして、大人になったらこんな気持ちは味わえないのかもしれない。青春を感じた。

 ……でももちろん、そんなことは言えない。

「うーん、まだわからないかな。里吉くんはどう思う?」

「僕も……そういうキラキラした世界のことはわからないよ。写真はいつも風景や花ばかりだし」

「私も、友だちとはあんまり写真を撮らないしな」

 教室でしょっちゅう写真を撮っている子もいるけど、私は恥ずかしさが勝ってしまう。ほんとうは、ちょっとくらいキラキラした写真を撮りたいんだけどね。

 話しているうちに、光悠堂についた。

 ドアをあけると、取り付けられたベルが鳴る。中をのぞくと、奥から悠翔くんが顔を出した。

「ゆっちゃん、里吉くん! どうしたの?」

「こんにちは。フォトコンテストの作戦会議をしようってことになって。事務所かどこか使ってもいいかな?」

 私が説明すると、悠翔くんは笑顔で迎えてくれた。

「いいよいいよ、ゆっちゃんにはいつもいろいろ手伝ってもらっているからね。場所提供くらいかまわないよ」

 私と里吉くんを交互に見て、うんうんうなずいている。この前怒ったからか、意味深なことは言わなかった。ちょっと安心。

「今日は予約のお客さんもいないし、ロビーを使っていいよ。事務所はいま動画編集してるから」

「手伝おうか?」

「だいじょうぶ! フォトコンテストに出るふたりの邪魔はしないよ。じゃあ、ごゆっくり」

 悠翔くんは早口でいうと、また奥の事務所に戻っていった。

 動画編集しているのはほんとうなんだろうけど……私と里吉くんをふたりきりにさせようと必死に見える。

「じゃあ、お言葉に甘えて。里吉くん、好きなところに座って」

 私は自分の家のように、飲み物を用意したり写真を見るためのタブレットを持ってきたりして準備をした。

 光悠堂は大きな写真館ではないから、出入口・受付・ロビー・スタジオが同じ空間にある。スタジオを使うときは、ロビーの机や椅子をどかしてスペースを広げることもあるんだ。

 準備を整えて私が席に着くと、いよいよ作戦会議が始まる。

「青春写真っていうと、やっぱり人物写真が多いみたいだね」

 タブレットで検索して、過去のフォトコンテストの受賞作を見てみる。友だちと手をつないでジャンプしているとか、海辺を歩いているとかの写真が、過去の青春写真の受賞作になっていた。

「過去の受賞作と同じじゃ、ダメだよね」

「かといって、変わったものだと青春っぽくないって思われそう」

 うーん……私と里吉くんは頭を抱えた。

 というか、すっかり人物写真を撮ることが前提になっているけど、重要なことを忘れていた。

「もし、人物写真を撮るとしたら、だれがモデルになるの?」

 私の問いかけに、里吉くんは不思議そうに私を見返した。

「幸穂さんじゃないの?」

「私!? むりむり、ぜんぜんかわいくないし」

「そんなことないよ、かわい……」

 里吉くんはそこで慌てて言葉を切った。

 今、なんて?

 かわい……って言ったよね。まさか、かわいい? そんなわけ……。

「ごめんキショいよね。忘れて」

「う、うん」

 忘れるわけない! こんなうれしいことある?

 私は、体中の血が踊り狂っていると実感した。

 里吉くんが、私のことを良く思ってくれているんだってわかっただけで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて。

 こういうのが「好き」なのかな……。悠翔くんに対する気持ちは「憧れ」だったのかもしれない。でも、レナちゃんに「かわいい」って言われてもうれしいしな。まだ、自分の気持ちがよくわからない。

「モデル、ほかの子に頼んだらどうかな。たとえば」

 真琳ちゃんは? と口にしたくなる。

 本業モデルだし、きっとすてきな青春写真になる。それに、里吉くんが撮ればきっと真琳ちゃんの心からの笑顔が見られる。

 でも、真琳ちゃんと里吉くんの関係がわからないから、名前を出すことがこわかった。知りたくない事実を知るかもしれない。

 これからも、ずっと真琳ちゃんのことを聞かずにモヤモヤしたままでいればいいのかな。

 ずっと、里吉くんとそれなりに仲の良い関係でいるなら、それでもいいかなって思う。友だちとして、それなりに仲良くできたら。

 さっきの「かわいい」を聞く前までは、そう思ってた。

 けど今はイヤだ。里吉くんと、もっともっと仲良くなりたい。

「たとえば? 心当たりがあるの?」

 里吉くんが、私をじっと見つめる。

 私はその視線から逃げずに、見返した。

「最近ね、蓮見真琳ちゃんっていうモデルの子と知り合ったんだ」

 里吉くんは真琳ちゃんの名前を聞き、驚いたように目を見開いた。

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