7.フォトコンテストへの参加!?
よけいなおせっかいをする悠翔くんの写真館「光悠堂」にはもういかない!
て、思ってたけど、「お手伝いに来て」と呼ばれ、長年の習慣でつい出向いてしまった。だって、帰宅部だし塾も行ってないから、ヒマなんだもん。
心の中で言い訳しながら、私は光悠堂のドアを開いた。
「ゆっちゃん、ほんと助かる! はい、これ」
私のモヤモヤなんて知らない悠翔くんは、顔を見るなり数十枚はあるチラシを手渡してきた。
チラシに書かれているのは、有名カメラメーカー主催のフォトコンテストのお知らせ。フォトコンテストは、写真をコンテストに応募して、賞を競い合う場所のことだよ。
「お店のラックに入れておいてほしいんだ」
「はぁい」
これだけで、私がやるべき仕事がわかる。古いチラシを片づけて、新しいチラシを置く。
【ご自由にどうぞ】と書かれたラックには、いつもカメラのパンフレットや光悠堂の料金プラン表なんかが置いてある。そのラックを整理して、フォトコンテストのチラシを置くスペースを作り、設置した。
私は、新しいチラシを1枚手に取る。フォトコンテストか。
悠翔くんは、動画撮影のためのカメラの準備をしながら私に声をかける。
「さいきん、ゆっちゃんカメラがんばってるみたいだし、フォトコンテストに参加してみない? 俺も審査員のひとりだから、参加者が増えてくれたらうれしい」
さすが有名フォトグラファー。審査員なんてのもやっちゃうんだ。
「おもしろそうだけど、私なんてまだまだ……」
写真がへたなこと、まだ改善できてないし。フォトコンテストはプロみたいな大人ばかりが参加することが多いのに、ヘタな子どもが参加するなんて。
「中高生向けの青春部門っていうのがあるから、気楽に参加してほしいな。コンテストに出すことで、また違ったカメラの魅力に出会えると思うし。スマホで撮った写真でもオッケーだから、学校のお友達にも宣伝しといてね! 青春部門、去年の参加者少なくてさー」
「スマホでもいいんだ。それなら気軽に応募できそうだね」
里吉くんも、誘ってみようかな……。
学校でも、話すどころか顔を見ることも多くない。隣のクラスなのに、会いに行かないと会えない。でも、会いに行く理由がない。
だから、これはチャンス!
「ゆっちゃん、終わったら動画撮影のお手伝いをお願いね」
「はぁい」
私はラックに設置したチラシを数枚、持って帰ることにした。
*
翌日の給食の時間を終えたタイミングで、まずはレナちゃんにチラシを渡した。
「フォトコンテストですか。楽しそう! どういう写真を送るんです?」
「青春部門なら、風景でも人物でも、なんでもいいって。ただ、青春を感じられる写真じゃないとダメみたいで」
「青春を感じる……つまり、審査員のオトナが好きそうな中高生の青春を撮ればよいのですね?」
「すごいこと言うね……」
レナちゃんはときどき、かわいい声で厳しいことをいう。
涼しい顔で、レナちゃんは私の顔をじっと見た。
「幸穂ちゃん。ほんとうにこのチラシを見せたい人には、まだ見せてないですよね?」
レナちゃんにはお見通しだった。
「え、まぁ」
「例の真琳ちゃんのこと、気になりますか?」
真琳ちゃんのことは、レナちゃんに話してある。
面白い子ですねって、めちゃくちゃ興味持っていた。
「そりゃあ気になるよね……」
「もし、里吉くんの好きな人が真琳ちゃんだったら、幸穂ちゃんはどうするんですか?」
どうしたいのかを聞かれると、口ごもってしまう。
「私は……まだ里吉くんとは友だちですらないし。真琳ちゃんがいてもいなくても、もっと仲良くなりたいことに変わりはないよ」
まだ、自分の気持ちはわからない。でも、もっと仲良くなりたいのは事実。
この先、どんな気持ちになるかはわからないけど……少なくとも、今は。もっと仲良くなりたいって思う。
「だったら、気にせず声をかけましょう。だって、幸穂ちゃんはわたしがほかの子と仲良くしていても、ぜんぜん気にならないでしょう? お友だちですから」
「……たまに、気になるけどね。私より仲良しの友だちなのかなって」
思わず本音がもれる。友だちに嫉妬するなんてヘンかもしれないけど、いろんな子と仲良くしているレナちゃんを見て、心穏やかじゃない日だってある。
嫉妬深いことを言ってしまったかなってちょっと後悔しかけたけど、レナちゃんは満面の笑みだった。赤ちゃんみたいな、心の底からうれしそうな笑顔に、思わず目を細める。
「わぁい。幸穂ちゃん、ヤキモチ焼いてくれてるんですね~」
「なんで喜んでるの。ヘンなの」
レナちゃんは椅子に座ったまま、嬉しそうに体をゆらす。
こうやって、喜怒哀楽をストレートに表現してくれる人ばかりなら、いろいろ難しいことを考えなくてすむのにな。
私もできてないけど……。
でも、「里吉くんと、仲良くなりたい」って、ちゃんと伝えないと!
意を決して立ち上がる。ひとつ深呼吸して、レナちゃんに決意を伝える。
「里吉くんのとこ、行ってくる」
「ご武運を!」
レナちゃんは、小さく拍手しながら応援してくれた。
私は鏡を取り出して、顔のチェックをしてから隣のクラスへ向かった。
私は廊下から二組の教室をのぞく。お昼休みで、男子のほとんどは校庭に遊びに行っているみたい。
里吉くんは……いた。遊びに行っていない男の子たちと、窓際の席で静かにおしゃべりしていた。
私が元気キャラの子なら、大きな声で呼ぶんだけど、できそうもない。せっかく友だちとしゃべっているのに、邪魔するのもな……だめだ、どんどんできない言い訳を探してしまう。かといって、いつまでもチラシを持ったまま出入口をうろうろしているのも目立つし、どうしよう。
お昼休みの時間には限りがあるのに、うじうじしてたらもったいない!
私は勇気を出して、二組の教室に入っていった。教室はどこも同じ形なのに、違うクラスは空気感が違ってまったく違う景色になる。
なんだか足が震える。
がんばれ、私。
里吉くんたちのグループの側に近づき、足を止める前に声をかけた。
「さ、里吉くん! これ参加してみない?」
里吉くんが気付く前に声をかけて、チラシを机の上に置いた。
「わ、幸穂さん」
里吉くんが私を「幸穂さん」と呼んだことに、まわりの男の子たちがざわっとした。付き合っているわけでもないのに下の名前で呼ぶって、けっこう珍しいもんね。
「お邪魔してごめんね、それじゃあ!」
私は里吉くんの返事を待たず、足早に二組の教室を出た。
今の、ぜったいヘンだった。ぜんぜんよくない!
失敗したー……。
三組の教室に戻ると、レナちゃんは私の表情を見て察してくれたみたい。
「幸穂ちゃん、ナイスファイトです。チラシは渡せたんですよね」
「うん、まぁ……」
渡したというか、置いてきたというか。
どうしてやさしくチラシを渡して、少し雑談して、すっと帰るっていう簡単なことができないのー!
私は机につっぷして、早退したい気持ちでいっぱいになった。午後の授業なんてやってられないわけで……。
「幸穂ちゃん」
レナちゃんがつっついてくる。
「ごめんレナちゃん。今は落ち込ませて」
「そうではなくて」
「なぁに」
のろのろと顔をあげると、レナちゃんは私の右上を見ていた。
振り返ると……里吉くんが。
「ヒッ」
おばけでもみたかのような声になってしまった。慌てて口を抑える。
「急にごめんね。ありがとうフォトコンのこと教えてくれて。あの、よかったらまたいっしょに撮りに行くのはどうかな、と思って……その……」
誘われている……!
「うん、いっしょに行こう!」
私はこくこくとうなずいて、里吉くんに返事をした。
里吉くんは、安心したようなうれしそうな表情を浮かべる。
「じゃあ、幸穂さんは放課後あいてる? 作戦会議しようよ」
「うん、あいてる。じゃあ……廊下で待ってるね」
私の返事を聞いて、うんとうなずいて里吉くんは三組の教室から去っていった。
はぁ、びっくりした!
落ち着こうと思って息を吸ってはいてしたけど、まだ心臓がバクバクいってるよ。
「なぁんだ。なんだかんだ、うまくいってるじゃないですか」
ニヤニヤ顔のレナちゃんは、両手でハートを作りながら言った。
「ちがうよ、友だちとしてだよ!」
頭の中には、凛とした真琳ちゃんの姿がちらつく。でも、いい。
いっしょにフォトコンに挑戦するなんて、すごく楽しそう。私は、里吉くんと仲良くなりたいんだもん。きっと、これがきっかけで仲良くなれるよね。
はやく放課後にならないかな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます