5.レナちゃんは癒しの存在
月曜日。里吉くんのカメラに写っていたかわいい女の子と、悠翔くんの態度にずーっともやもやしながら学校へ。
あの子、かわいかったな。
長い髪は色素がうすいのか茶色っぽくて、クールな瞳はすべてを見透かしているような……とってもきれいな子で、いっしゅんしか見なかったはずなのに、ずっと頭から離れない。
それに、悠翔くんのことも頭から離れない。いつからあんなにおせっかいになったんだろう。里吉くんと私を、むりやりくっつけようとしているとしか……。
モヤモヤイライラしながら廊下を歩いていると、レナちゃんがほかのクラスの子と楽しそうに話しているのを見つけた。
私に気付くと、レナちゃんはその子と笑顔でバイバイして別れ、私に向かってぶんぶん手を振る。
「幸穂ちゃぁん、おはよー!」
テケテケ駆け寄ってきて、本当にかわいい。
きゅっと私にハグしてくれる。
「レナちゃん、おはよう」
レナちゃん、なんで私なんかと仲良くしてくれるんだろう?
私の何がいいんだろう?
私は勉強や運動ができるわけでもないし、レナちゃんみたいに社交性があるわけじゃない。悠翔くんみたいに、周りの人を明るくできる人柄でもない。里吉くんのカメラに写っていた子みたいに目を引くかわいさもない。里吉くんみたいに、好きなものを貫くこともできず、ちょっとイヤなことを言われたくらいでカメラをやめてしまうような子。
自己分析してみて、さらに落ち込んできちゃった。
自分に自信がなくなるようなことが続いたからか、気持ちがすごく弱っているみたい。
なんか、もう。ぜんぶイヤになってきちゃったな……。
「幸穂ちゃん、どうしたの!? なんで泣いてるの?」
レナちゃんに言われて、涙が流れていることに気が付いた。
「え、やだ、なんで泣いてるんだろう……」
隣のクラスの里吉くんに見られたら困る。私は慌てて涙を拭い、レナちゃんに笑顔を見せた。
「なんでもないよー。秋花粉かな? もう朝のホームルーム始まるから教室入ろう」
「え、でも……」
レナちゃんは、すごく心配そうに私を見ている。でも、ここで話したらまた泣いてしまいそうだから、がまん。
あーあ。私が不真面目なら「学校さぼって私の話聞いて!」ってレナちゃんに言うんだろうな。でもそんなことできない。心が疲れていても真面目に授業は受けるよ。
*
その日の授業は、どうにか無心でこなした。
レナちゃんはなにか聞きたそうなそぶりはしつつも、問いただすことはしなかった。ありがとう、気遣ってくれて。
でも、目の前で泣かれてどうしたのかって気になるだろうし、レナちゃんには心配かけたくないから伝えないとね。
「レナちゃん、いっしょに帰ろう」
私の誘いに、レナちゃんはノドをごくりと鳴らした。どんな理由で泣いていたのか、その理由がわかる! って感じなんだろうけど、そんなおおげさな話じゃないんだよね。冷静になると、改まって話すのがはずかしいくらいの内容だなって思う。
「たいした話じゃないんだけどね」
下校しながら、フォトウォークでの出来事をレナちゃんに話した。
「なにそれ! どっちの男もサイテーです!!」
思いのほか、レナちゃんはご立腹だった。
「そ、そんなに怒ることかな……」
「悠翔さんはデリカシーがないし、里吉くんはそんな美少女と知り合いだなんて! 幸穂ちゃんを少しでも傷つける人は許せませんっ」
「ま、まぁ里吉くんの写真は、ちらっと見ただけだからよくわかんないけど……」
「なんで幸穂ちゃんがフォローするんですか!」
「フォローっていうか……だって、まだどういう関係かわからないし……」
私の言葉で、レナちゃんはふっと怒りの表情を沈めた。
「たしかに。暴走しました」
くやしそうに、レナちゃんはほほをふくらませた。
私の先走りで、怒りという感情をレナちゃんに抱かせてしまって申し訳ない。
私は、あえて明るい声をあげる。
「泣いてないで、本人に聞けばいいじゃんって話なんだけどねっ」
しかしレナちゃんは、あいかわらずむすっとした顔のまま。
「それはそうなんですけど、簡単に聞けないから人は涙を流すんです。こうすればいいじゃん、っていう正論に意味はありません」
大人びた雰囲気で、悟ったようなことを言う。レナちゃん、人生二回目なんじゃないかなって思うときがある。
雰囲気に見合わず、冷静に私の味方をしてくれるレナちゃんのおかげで、私は冷静さを取り戻せた。こんなこと話してもな……とは思ったけど、言葉にしたことで頭の中が整理できた気がするよ。
「私の味方をしてくれるレナちゃんがいるから心強いよ」
「わたしは、いつでも幸穂ちゃんの味方です!」
さっきまですごーく弱っていたけど、レナちゃんのおかげですっかり元気になってきた。
問題は解決してないけど、共感しあえるっていいね。
「私も、レナちゃんの味方だよ!」
私たちは、へへっと笑いあいながら通学路を歩いた。
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