3.フォトウォークって何するの?④
「わ、私も撮ってみようかな!」
里吉くんから三歩離れて、私も一眼レフカメラを構えた。
ドキドキしちゃって、うまく操作できないよ。男の子の顔をあんなに近くで見たのははじめて。弟を間近に見るのとはわけが違う。
被写体を探すふりをして、里吉くんからどんどん離れる。ここでひと息入れないと、ちゃんとおしゃべりできない!
よし、撮影撮影……。
どうにかカメラに向き合うものの、里吉くんが苦戦していたように、人を写真の中に納めないようにするにはなかなか難しかった。
「幸穂さんは、どう撮るの?」
期待しているような声が、里吉くんからかかる。でも、三歩くらいの距離はおいたまま。
えっと、どうしよう。人も増えてきて、写真にうつりこんでしまう。あまり、知らない人を写真におさめたくないんだよね。
そうだ、悠翔くんのレッスンを思い出そう。
たしか……人が多くて写真が撮りにくいときは、カメラを地面すれすれまでさげて、下から見上げるように撮る。そうすると、コスモスと青空だけが撮れるし、迫力ある写真になるって言ってた。もちろん、スマホでも同じテクニックで撮影できるよ。
私はしゃがみこんで、レンズを空に向けてシャッターを押す。
液晶モニターを確認し、少し角度を変えてふたたびシャッターを押す。
同じ場所でずっと撮影していると迷惑だから、一、二枚撮ったら少し移動する。カメラを趣味にする以上、ほかの人の迷惑にならないようにするのは絶対、っていうのは悠翔くんの教えなんだ。
よし、けっこういい感じに撮れたんじゃないかな。里吉くんに見てもらおう!
私から少し離れた場所で撮影している里吉くんのもとへ向かう。撮影がひと段落したころ合いを見計らって声をかける。
まだ、どきどきしちゃうけど、スムーズに話しかけられるようになってきたかも。
「里吉くん、どうかな」
私はカメラストラップを自分の首から外して、液晶モニターを里吉くんに見せる。
「わ、すごいね。まるで自分がミニチュアサイズになって、コスモス畑に迷い込んだみたいだ」
「里吉くん、なんだか詩的だね」
「えっ、そうかな……。ごめん今のナシで」
里吉くんは顔をまっかにして、発言を取り消した。
「だめっていう意味じゃなくて、すごくすてきってことだよ! 取り消さないで!」
慌てて訂正すると、里吉くんはほっとしたように微笑んだ。
「よかった、サムいこと言っちゃったかと思って」
「私も、里吉くんの気持ちがわかる。自分の言ったことが合ってるかな、正しいかなってすぐ心配になるよね」
「そうそう! いつも、あの発言大丈夫だったかな? 傷つけてないかな? って反省会する」
「するする! それで疲れちゃうから、あんまり友だちができなくて……」
「僕も!」
あ、なんかすごい意気投合しちゃった。
里吉くんと目が合う。
今まではすぐ反らしてしまったけど、今は心が通じたからか、しっかり相手の顔を見られた。
私と同じ気持ちを抱いてくれているなんて、うれしい。共感してもらえて、しあわせ。
……いけない、自分の世界にひたってしまった。
「えっと、里吉くんも新しいの撮った?」
「うん、何枚か」
「見せて!」
里吉くんは、今度はカメラストラップを首からはずして液晶モニターを見せてくれた。
私は安心しながら覗き込む。
背の高いコスモスが一本あり、それが青空の下で凛々しく咲いていた。
「きれいだね。孤高のコスモスってかんじで」
「あとは、こっちもいいんじゃないかなって」
里吉くんは、カメラのカーソルボタンを押して、写真をいくつか先送りにする。明らかに失敗したような手ブレしたものや、見た感じきれいに撮れているものは一瞬で送られていく。
里吉くんがダメだと思ったものも、見てみたいのにな……。
もったいないと思っていると、液晶モニターにコスモスではない写真が表示された。
コスモスではなく、すっごくかわいい女の子が、ほほ笑んでいる写真。
誰だろう……?
しっかり写真を見る前に、里吉くんは慌てたようにカメラを私の視界からはずした。
「今のは、昔の写真。それにしても、あんまりうまく撮れてなくて見せられるものないなぁ」
慌てたような態度。
今の女の子の写真、私に見られたくなかったのかな。
誰だったんだろう。気になるけど、見せたくないってことは聞かれたくないんだろうし。
……見なかったことにしよう。
「悠翔くんのいる方も行ってみよう。背景にスカイツリーを入れられるところがあるんだよ」
むりに明るい声を出している自分が、なんだか嘘みたい。
あの子が、里吉くんの好きな子だったらどうしよう。私なんかじゃ相手にされないようなかわいい子。
ダメ。女の子の写真を撮ったからって、勝手に好きな人扱いするのは。
頭ではそう思っていても、どうしても気落ちしてくる。
「すごく気が合う! 好きな人になるかも」って浮かれてどきどきしていた自分が、すごく恥ずかしいし、かわいそう。
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