3.フォトウォークって何するの?③

 よし!

「さっ、里吉くんは……その、いつから一眼レフカメラをはじめたの?」

 ちょっと噛んだけど、よさそうなトークテーマを提案できた!

 里吉くんは少し驚いたように顔をあげ、えっとね、と話し始めた。

「もともと、お父さんが僕の運動会の写真を撮るために一眼レフカメラを買ったんだ。でも、そういう時にしかカメラを使わずずっとしまいこんでて。もったいないなって思って、僕が使うことにしたんだ」

「へぇ」

 運動会や旅行のために一眼レフカメラを買ったものの、結局スマホのほうが楽だからって使わなくなるのはよく聞く話だったりする。

「でも、使い方がわからなくて。それでいろいろ調べているうち、悠翔さんの動画を見つけたんだ」

 里吉くんは、フォトウォークの参加者と楽しそうに話している悠翔くんを、きらきらしたまなざしで見つめる。

「悠翔くんの動画、わかりやすいもんね」

 里吉くんはうんうんとうなずく。

「悠翔さんからは、写真を撮ることがどれだけ楽しいかが伝わるんだよね。もっともっとカメラが好きになれた。しかも、僕の家と悠翔さんの写真館がこんなに近いだなんて!」

 里吉くんが興奮気味に語る。悠翔くんはすごいな。見ず知らずの男の子をこんなにも熱くさせるんだもん。

「悠翔くん、本当に写真が好きだからね。カメラが好きな人が増えてくれたらって思いで、すっごく忙しいのに動画制作やフォトウォークをやっているんだよ!」

 いけない。ついつい、悠翔くんの良さを熱弁してしまった。

「幸穂さんと悠翔さんて、すごく仲が良いよね」

 里吉くんの言葉に、心臓がハネた。なんてことない言い方だけど、なぜだか責められている気がして……。

「あ、そうだね……」

 別にやましいことはない。でも、里吉くんに「初恋の人は悠翔くん」って知られるのは、なんかイヤだった。それなのに、とうとつに「仲がいいよね」って言われて、なにも言えなかった。

 かんちがい、させちゃってる?

 いやいや、里吉くんが私のこと、そんなに気にしてないかな。

「あ! この辺、きれいに咲いてるよ!」

 コスモスの見ごろを迎えた畑に到着したことを幸いに、気持ちが切り替わるように張った声を出した。

「うん、ここはよさそう」

 駐車場に近いところより人は少ないし、背景もマンションなどの建物ではなく、緑が生い茂っている。

 私たちは、一眼レフカメラのレンズについている蓋をはずして、電源をオンにした。

 一眼レフカメラには液晶モニターがあるから、スマホと同じように撮れるんだ。もちろん、ファインダーをのぞいて写真を撮ることもできるよ。

 よし、考え事はいったんおいておいて、コスモスをきれいに撮ろう。

 ……と思ったけど、うまく撮れる自信はなくて、なかなかシャッターを押せない。へたな写真を撮って、がっかりされたくない。

 里吉くんは、どう撮るんだろう。

 隣に立つ里吉くんは、液晶を見ながらどうコスモスを撮るか悩んでいる。近づいたり、腰をかがめたり。

 悠翔くんのレッスンでも、「すてきな写真を撮るなら、撮影前の被写体探しが重要」ってよく言っているから、真剣だよね。

「幸穂さんは、どのコスモスを主題にすべきだと思う?」

 主題とは、メインに撮る被写体のこと。一番目立つから、好きな花を選ばなくちゃね。

「私は……花びらが白くて、でもフチがピンク色のコスモスが好きかな」

 パッと見でかわいいと思ったコスモスを指さした。

 コスモスには薄いピンク、濃いピンク、白など単色の花びらのものが多いみたいだけど、白とピンクで彩られた花びらが珍しく見えた。

「ありがとう。それを撮ってみる」

 里吉くんはレンズを回してズームにして、私の指定したコスモスを主題にして撮る。シャッター音が何回か聞こえてきた。

「どうかな」

 カメラの液晶モニターを私に見せてきた。

 里吉くんはカメラストラップを首からさげたままだから、だいぶ体を近づけないと見えない!

 ど、どうしよう。里吉くん気付いてないのかな。こんなに接近していること。

 頭のにおい、大丈夫かな。汗くさくないかな。

 ドキドキしながら、そっと近づく。

 覗き込んだ液晶画面には、私が好きだと思ったコスモスの花が中央にあった。その周辺の色とりどりのコスモスはわざとぼやけさせられていて、すごく幻想的に撮影されている。

「画面がピンクと白で埋められていて、夢の世界みたいでかわいい!」

 私は液晶画面にくぎ付けになった。なんか、プロみたいに上手!

「よかった。非現実的な雰囲気になるよう、ズームにしてコスモスだけを撮ったんだ」

「里吉くん、センスいいね!」

 カメラの液晶モニターを覗き込んでいることを忘れて、里吉くんのほうを向いてしまった。

「あっ……」

 顔が、近い。

 近くで見る里吉くんは、肌がつるつるしていて、加工してないのに加工したみたいにきれい。

 でも、長い前髪にかくれたきれいな瞳に戸惑いが浮かんでいるのがわかって、私はあわてて体をそらした。

 無邪気すぎた……。

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