3.フォトウォークって何するの?②

 向かっているのは、河川敷公園。河川敷公園には、ボランティアの人や近くの幼稚園の子たちが育てたコスモス畑があって、すっごくきれいなんだよ。

 遠くからでも、ピンク色に染まったコスモス畑が見えると心がわくわくする!

 学校の校庭くらい広い敷地がピンク色に染まるって、すっごくかわいくて、すてきだよね。

 休日ということもあり、見ごろをむかえたコスモス畑には多くのひとたちが集まっているみたい。

 河川敷の駐車スペースに車を停め、私と悠翔くんはコスモス畑に向かう。

 私は浮き足だつ思いで、足元の悪い河川敷を歩いた。

 里吉くん、来てるかな? 笑顔であいさつしなくちゃ。

「ゆっちゃん、そんな急いだら危ないよ」

 うしろを歩く悠翔くんに苦笑いされ、私は歩く速度を落とした。

「えへへ、コスモス畑がきれいでテンションあがっちゃった」

 首からさげている一眼レフカメラの揺れをおさえながら、私はへらへら笑った。

 秋風も気持ちいいし、テンションがあがらないほうがおかしいくらい。

「あ、もうみんな集まっているみたいだね」

 悠翔くんは、かたまって立っている人たちに手を振った。

 あれ、3人しかいない? 里吉くんはまだかな?

 近づいて里吉くんの姿を探すと、フォトウォーク参加者のうしろに隠れるように立っていた。

 人見知り~。

 と言いつつ私も、いつのまにか悠翔くんの後ろにさがって歩いてしまう。やっぱりちょっと、はずかしいし。

「こんにちは! みなさん、時間通り集合してくださってありがとうございます」

 聞いただけで、誰の心も明るく照らしてくれる悠翔くんの声。私のイトコとは思えないなぁ。私にないものを持っている悠翔くんに、ずっと憧れていた。

「今日は、それぞれ好きに撮影しましょう。撮り方がわからない、もっと違う表現をしたいときは、私に話しかけてくださいね。それと、まだまだ日差しも強いですし、体調等悪くなったらすぐに言ってください。水分補給もお忘れなく!」

 悠翔くんが今日のフォトウォークの説明をしている。

 フォトウォークはレッスンではあるけど、みんなで楽しく写真を撮ることが一番の目的なんだ。

「まずは、それぞれ自由に撮ってみてください」

 悠翔くんの声を合図に、参加者はそれぞれ撮影ポイントに移動していく。

 里吉くんは……と思って視線をやると、ばっちりと、目が合ってしまった。

 わ、やばい!

 気まずくなって目をそらそうとしたけど、先に里吉くんが目をそらしてしまう。人見知りあるあるすぎる……目が合うのがこわい!

 里吉くんも、こっち見てた?

 どうしよう、声、かけようかな。それとも、ひとりでじっくり撮影したいと思っているなら、迷惑かな。

 迷ってても仕方ない。とりあえず、声をかけてダメなら即引き下がればいい!

 レナちゃんも、外の世界を見たほうがいいって、言ってたし!

 私は、勇気を出して顔をあげた。

 一歩踏み出したとき、里吉くんも顔をあげてこちらに一歩踏み出した。

 え、私に話しかけようとしてる?

「あの、里吉くん。よかったらいっしょに……」

「あの、幸穂さん。よかったらいっしょに……」

 勇気を出して声をかけると、同じタイミングで里吉くんも私に声をかけた。しかも、同じ内容!

 里吉くんは顔を赤らめて、カメラを少し持ち上げた。

 同じように、カメラを持ち上げる。手が震えて、心臓がどきどきしていて、声がいつもよりうわずってしまう。

 同じことを思ってくれてたんだ。

「じゃあ、いっしょに……」

「うん、そうしよう」

 私たちは、なんとなく歩き始める。

 どこで撮れば、すてきな写真になるかな。悠翔くんの言うように、被写体探しはじっくりしないとね!

「この辺、まだつぼみが多いから、きれいにコスモスが咲いている向こうの畑に行ってみよう」

「うん」

 私たちは、少し距離を置きながら、目的の畑に向かって歩く。

 河川敷公園は、とにかく広い。

 端から端までゆっくり歩いたら、十分くらいはかかっちゃいそう。

 親子連れや犬の散歩をしている人が多くて、とってもにぎやか。多くの人がスマホやカメラで撮影している。

 青空とピンク色のコスモス畑。すっごくきれいだもん!

 けど……里吉くんと、何しゃべろう。さっきからふたりしてきょろきょろしていて、会話が始められない。

 相手がレナちゃんや悠翔くんなら会話がスムーズなのに、と思った。でも、よくよく考えれば私が話しているわけじゃなくて、相手のおしゃべりを聞いて相づちを打っているだけなんだけど。

 つまり、向こうから話題を提供してくれているだけなんだよね。

 私はいつもやさしい誰かに甘えて、場を盛り上げてもらうことが当たり前だと思ってたんだ。

 レナちゃんのいう『わたし、いろんなひとと出会ってお話することで多様性を知れて、人に優しくなれるって思ってます』という言葉が、今になって胸に刺さる。

 私も、やさしい人になりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る