3.フォトウォークって何するの?①

 あれから里吉さとよしくんとは、たまに目が合って会釈するだけしか交流はなかった。あっという間に1週間がたち、いよいよフォトウォークの日。

 風のない秋晴れで、写真日和!

 私も今日のために悠翔ゆうとくんの動画を見て、一眼レフカメラの使い方をおさらい。最近カメラを手に取ることはなかったから、予習復習しておかないとね。里吉くんに、下手って思われたくないし。

 一眼レフカメラって、オートモードで撮影すれば誰でも簡単にきれいな写真を撮れるんだ。でも、オートモードで撮影するだけだと、スマホで撮った写真との違いがわからなくなってしまうの。スマホのカメラって、めちゃくちゃ高性能だから。

 自分で細かい設定をして撮影することで、スマホでは撮れない自分なりの世界を映し出すことができるんだ。

 それが一眼レフカメラのおもしろいところであり、むずかしいところなんだけどね。

 撮影場所である河川敷まで、悠翔くんの車で向かうことになった。ほかの参加者は現地集合だから、里吉くんとも現地にいくまで会えない。

 撮影開始は午後二時からで、夕焼け空を写真に収められる四時過ぎまで行われる予定。

 この二時間で、すてきな写真を撮れるようになればいいんだけど……。

 気持ちが落ち着かなくて、車中でもずっとカメラをいじくってしまう。

「ゆっちゃん、今日はずいぶんやる気だね」

 運転中のため、目線は前方のまま、悠翔くんが私に話しかける。

「もっと、じょうずに写真を撮りたいなって思って」

「前向きでうれしいよ」

 最近、あまりカメラを持っていなかったこと、バレてたのかも。そりゃわかるよね……。悠翔くんからのもらいものなんだもん。使ってないなって思ったらがっかりしちゃうのも当然。

「でも……私、写真をじょうずに撮れなくて。自信ないんだよね」

 言い訳めいた言葉が口をつく。

 私の暗い顔をちらっと見て、悠翔くんはうーんと唸る。

「悠翔くんの写真はすごいよ。見ているだけでその風景の中に瞬間移動できちゃう。人物を撮れば、その人の人柄が伝わってくる。私も、そういう写真を撮りたいな」

「そーだなぁ、ゆっちゃんに必要なのは、技術じゃないのかも」

 信号待ちの車内で、悠翔くんはこちらを見て言った。

「技術じゃ、ない?」

「写真って、機材をそろえて技術を覚えれば、誰でもある程度プロっぽくは見せられるんだ。でもそこから先は、気持ちかな」

「えー、精神論なの?」

 少し茶化すように言ってみたけど、悠翔くんは笑わなかった。

「すばらしい風景をどう伝えるか、人物をどう撮ったら伝わるか。その気持ちって、見てくれた人に案外伝わるんだよ」

「人に、伝える気持ち……」

 今まで、写真を撮る時になにを考えていたかといえば……「じょうずだと思われたい」「ほめられたい」だった気がする。「さすが写真館のイトコ、すごいね」って。

 信号が青に変わり、車は再び動き出す。

 見慣れない景色が窓の外を流れていく。目的の河川敷はもうすぐ。

 悠翔くんは再び口を開く。

「たとえば花を撮るなら、その花の一番きれいなところを見つけて伝えてあげる。人を撮るなら、その人のすてきなところをみんなに見てもらう。そう思うと、今までとちょっと違った写真が撮れるかもね」

「そっか……」

「写真は、見てもらう人へのお手紙だとおもって、心をこめてみてね」

 お手紙を書くときに、自分をよく見せよう、ほめてもらおうって思わないもんね。

 写真に対する姿勢、まちがってたかも……。そりゃじょうずにならないよね。

 はぁ。なんか、気分が暗くなってしまった。

「もちろん、技術はとっても大切だから、今後も俺の動画やフォトレッスンで勉強するように!」

 最後はおおげさに言って、悠翔くんはその場のふんいきを明るくしてくれた。

「それに、じょうずじゃなきゃ写真を撮っちゃいけないなんてこともないし。楽しんでくれたら、俺はそれだけでうれしいよ!」

 悠翔くんがフォローしてくれる。

 私も、落ち込んだ姿をこれ以上見せちゃいけないって思って、笑顔を作った。

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