ご報告
中川さんと分かれて、僕は家に帰ると、浴衣から普段着に着替えた夏樹が居間でテレビを見ていた。
「あ、お兄、お帰り。 ……お、その様子だと中川さんの事で何か良い事があったんだね?」
僕が帰って来た事に気が付いた夏樹は僕の表情を見ると微笑みながら言った。
「ああ、中川さんと付き合う事になったよ。今更だけど、夏樹はずっとアドバイスをくれていたんだな。本当にありがとう」
中川さんの事が好きだ、と自覚した今、ようやく夏樹が何故、レクチャー等をしてくれていたかを理解した僕は陰ながらサポートをしてくれていた夏樹に感謝の気持ちを伝えた。
「それなら、次のレクチャーは…… えっ? 付き合ったの? 今日?」
僕の言葉を聞いて、得意げに話していた夏樹は、言葉の途中で驚いた表情を浮かべると、慌てて僕に尋ねてきた。
「そうだよ。夏祭りの時に僕から告白して付き合う事になったんだ」
「えっ!? 今日付き合った事もびっくりなのに、お兄から告白したの!?」
目を大きく開いて驚く夏樹を見て、僕から告白をする事はそんなに驚く程なのか、と少しショックを受けた。
しかし、僕自身、中川さんの事が好きだというのを自覚したのはつい先程なのだから、夏樹の反応も妥当と言えば妥当なのか、と一人納得していると、夏樹が浮かない表情をしている事に気が付いた。
「どうしたんだ、夏樹?」
「お兄と中川さんの事を応援していたから、二人が付き合えた事はとても嬉しいけど、思っていたより早かったから、お兄が遠くに行っちゃう様な気がして寂しくなっちゃった」
「夏樹にはまだまだアドバイスをしてもらわないといけないんだから、僕が遠くにいったり、夏樹を寂しがらせる訳ないだろ」
僕は夏樹を不安にさせない為に明るい口調を意識しながら、夏樹の頭を優しく撫でた。
そうすると、夏樹は、「お兄、ありがとう! 大好き!」と、言って僕に抱き付くと、顔を上げると、「それと、中川さんと付き合えて良かったね。おめでとう!」と、言って微笑むのだった。
次の日、美春ちゃんが僕と夏樹に会いたがっていると、中川さんから連絡を受けて、僕達は公園に向かった。
「あっ、優君と夏樹ちゃんだ!」
「美春ちゃん、それに、な、中川さん、こんにちは」
「こ、こんにちは。新島君」
僕は中川さんの顔を見て、この人が彼女なんだ、と思うと、なんだか緊張してしまった。
それは、どうやら中川さんも同じだったようで、互いに頬を赤く染め、視線を合わせる事が出来ないぎこちない挨拶になってしまった。
そんな空気を壊したのは美春ちゃんだった。
「ねぇねぇ、砂場で遊ぼう?」
美春ちゃんは僕の手を引っ張っりながら、そう言った。
この空気をどうしたら良いか、分からなかった僕は心の中で美春ちゃんにお礼を言うと、「分かった、行こうか」と、言って、僕達四人は砂場に向かった。
「中川さん、昨日、お兄と付き合ったって聞きました。おめでとうございます!」
「う、うん。なんだか恥ずかしいけど、嬉しいわ。ありがとう」
砂場で遊び始めてしばらく経つと、夏樹が笑顔で祝福して、中川さんは少し照れ臭そうにしながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ねぇねぇ、付き合ったってなぁに?」
僕が中川さんと夏樹のやり取りを微笑ましく見守っていると、砂場で遊んでいた美春ちゃんが顔を上げて、僕に尋ねてきた。
「えっと、彼氏と彼女になったって事かな」
この説明で伝わるだろうか、と思ったが、夏樹ちゃんは、「あっ」と、言うと納得した表情をしながら驚きの一言を言った。
「私もいるよ! 一緒だね!」
「……えっ、美春、どういう事?」
美春ちゃんの衝撃の一言に中川さんは呆然としながら尋ねた。
「えっとね、俊哉君が、私の事が好きだから、彼女になってって、言ってくれたの。だから私は、『良いよ!』って、言ったんだよ」
「…‥最近の小さい子は、そんなにもませているの?」
美春ちゃんの言葉に呆然とした顔で呟く中川さんの隣では、夏樹が、「えっ、この中で恋人が居ないのは私だけ? もしかして大分遅れてる?」と、慌てた様子で呟いた。
「美春ちゃんが進み過ぎているだけだから大丈夫だぞ、夏樹」
僕は愕然としている夏樹の肩に手を添えながら、なるべく優しい口調を意識して、そう伝えたのだった。
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