祭りの後で

最後の花火の連射が終わって、終了のアナウンスが流れても、僕はまだ中川さんと繋いだ手を離したくはないと思っていた。

中川さんも同じ気持ちのようで、手を繋いだまま、僕と中川さんは二人で静かに空を見上げていた。


「……新島君、そろそろ私達も行きましょうか」


やがて、だんだんと周りにも人の気配を感じなくなってきた時、中川さんは静かに呟いた。


レジャーシートや焼きそば等の空きパックを片付ける為には一度中川さんとは手を離さなければならない。


この手を離したら、中川さんとの、このとても素敵な時間が終わってしまう。

そんな事はあるはずも無いのに、なんとなくそんな不安を感じていた僕は、この手をまだ離したくはなくて中川さんの手をジッと見つめた。


僕の視線が手に向いている事に気が付いた中川さんは、柔らかく微笑んだ。


「片付け終わったらまた手を繋ぎましょう。大丈夫よ、私は何処にも行かないわ」


これでは、手を離す事に不安を感じて、駄々をこねている子どもと、それを、「大丈夫よ」と、優しく諭す母親の様だ、と僕は感じると、恥ずかしくなって、「……そうだね」と、呟いて手を離した。


僕と中川さんは、空きパックをまとめると、近くに夏祭りの為に臨時で設置されたゴミ箱があったので、そこに分別をして捨てた。


そして、レジャーシートを小さく畳んで僕が持って片付けが完了すると、中川さんは、「新島君、どうぞ」と、手を差し伸べてくれた。


僕は、「ありがとう」と、中川さんの手を握ると、僕と中川さんは二人並んで歩き始めた。


「今日はとても楽しかったし、嬉しかったわ。どれもこれも、新島君が隣に居てくれたからよ。 ……ありがとう」


「僕も同じ気持ちだよ。中川さんが彼女になってくれて嬉しい」


「…‥私も新島君が彼氏になってくれた思うと、とても嬉しいわ」


そうして、僕と中川さんは互いに顔を見合わせると二人で笑った。


「…‥ねえ、中川さん」


「新島君、どうしたの?」


「その、気が早いかも知らないけど、初めての、その、デ、デートのお誘いをしたくて」


もうすぐ中川さんの家に着いてしまう。

恋人の関係になれたわけだし、今日はこのまま別れても良い、と先程までの僕は思っていたが、手を繋いで中川さんと歩いていると、次の楽しみを作っておきたくなった僕は勇気を出して中川さんに声を掛けた。


僕の言葉に中川さんは、首を横に振ると、「そんな事はないわ。とても嬉しい」と、微笑んでくれた。


「中川さんは、どこか行きたい所とかある?」


僕の言葉に中川さんは顔を赤く染めると、「……その、笑わないで聞いてくれる?」と、髪をクルクルと弄りながら僕に聞いてきた。


僕はどんな場所が出てくるのだろうか、と少し身構えながら、「笑わないよ」と、優しく中川さんに伝えた。


「水族館に行って、夜は夜景の見れるレストランで食事をするのに、その、憧れていて……」


「とても良いプランだと思うよ。僕、お店を調べておくよ。……だから、その二人で行こう」


恥ずかしながら言う中川さんの事を可愛い、と思いながら、僕は中川さんに二人で行く事を強調して言った。


「うん、そうね。初めてのデートだもの。二人で行きましょう」


そう言って、中川さんは僕の手を強く握り返すと、僕を見て微笑んだのだった。

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