告白

僕と中川さんはあれから幾つかの屋台を回り、僕や時に中川さんの食べたい物や飲みたい物を購入していった。


一通り、買いたい物を購入する事が出来た、と感じた僕はスマートフォンで時刻を確認した。


夏祭りでは毎年花火が打ち上げられていて、その時間までまだ余裕はあるが、このまま移動をして買った物を食べて待つ形でも良いだろう、と僕は思った。


「中川さん、レジャーシートを持って来たから、そろそろ花火が見える所に移動して食べながら待っていようか?」


僕の提案に中川さんが頷くと、花火が良く見る事が出来る場所まで移動をした。


まだちらほらとスペースが空いている場所があって、僕と中川さんはその内の一つにレジャーシートを敷いた。


「新島君、まず何から食べる?」


「それじゃあ、焼きそばから食べようかな」


レジャーシートに座ると、中川さんと一緒に焼きそばを食べ始めた。


「美春の事を助けてもらうまでほとんど話した事も無かったのに、二人で夏祭りに来てるって、改めて思うと不思議な感じがするわよね」


食べている手を止めると、中川さんは僕を見ながらしみじみと言った。


「正直、出会った時はこんなに仲良くなる事が出来るだなんて思いもしなかったよ」


「そうね、美春の事を助けてくれた人が、まさかクラスメイトだなんて思いもしなかったもの」


「確かに、僕もまさかクラスメイトが居たなんて夢にも思わなかったな」


僕の言葉に互いに目を見合わせて、二人で笑った。


「最初は変な所とか特技が沢山あって不思議な人だと思っていたの」


「……客観的に見ると、確かにそう見るかも……」


中川さんはそんな風に僕の事を見ていたのか、と少しショックを感じつつ呟くと、中川さんは僕の方を見て微笑むと口を開いた。


「でも、出会ってすぐに、優しくて、面白くて素敵な人だって思ったわ」


「僕も中川さんの事、優しくて、妹思いで素敵な人だって思っているよ」


中川さんが褒めてくれた事が嬉しくて、僕も中川さんに抱いていた印象を伝えた。


中川さんは、「ありがとう」と、呟くと、言葉を続けた。


「……私は今、新島君と一緒に居る事が出来て、とても嬉しくて楽しいの。だから、これからも今日みたいに二人で何処か出かけたり、その、一緒に居たりしたいと思っているの」


中川さんの言葉を聞いた時、まだまだ沢山の時間を中川さんと過ごしていたい、と僕は思った。


「…‥僕も、中川さんと同じ気持ちだよ」


僕の言葉に中川さんは、「…‥一緒ね」と、呟いた。

その瞬間、花火が打ち上がり、周辺が一瞬明るくなって、中川さんが微笑んでいる姿が照らし出された。


その光景を見た瞬間、僕は自然と、好きだ、と思った。

それと同時に、これが恋なんだ、と理解して、僕はこの気持ちに自然と名前を付ける事が出来た。


そう思った時、僕の中で色々な気持ちが湧き出てきた。

映画を一緒に観に行きたい、動物園や水族館にも一緒に行きたいし、中川さんとお揃いの物だって欲しい、それに、彼女になって欲しい、と僕は強く思った。


「…‥中川さん」


そう思った瞬間、ついに僕は気持ちが抑えきれなくなって、中川さんに声を掛けた。


「……うん」


僕のいつもと違う雰囲気に何かを感じ取ったのか、中川さんは真剣な眼差しで僕を見ると、静かに呟いた。


「……僕、中川さんの事が好きだ」


近くに座っていた女性が僕の言葉に驚いた様な表情を浮かべているのが、視界の隅に映った。

こんな人が多い場所で告白するべきでは無いと思っているが、僕の中川さんに対するこの気持ちはもうどうしようもなく止める事は出来なかった。


「……うん、私も好き」


少し照れながらも、真っ直ぐに僕を見ながら伝えてくれた中川さんの気持ちに、僕はとても嬉しくて、胸が一杯になった。


しかし、気持ちを伝えただけで終わる事は出来ない。

この言葉を伝えなければいけない、と僕は思い、口を開いた。


「……僕と付き合って下さい」


僕の言葉に中川さんが息を飲む気配が伝わって来た。


「……はい、喜んで」


中川さんがそう言った瞬間、フィナーレを飾る花火の連射が始まった。


花火に照らされて笑う中川さんはとても綺麗だ、と僕は思った。


僕は嬉しくなって中川さんの手を握ると、中川さんが握り返してくれた。

僕と中川さんは、何を言うのでもなく、静かに空を見上げた。

僕はその花火の連射がまるで僕と中川さんの事を祝福してくれている様に感じたのだった。

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