夏祭りの約束
「お兄、そういえば、私、今年の夏祭りはお友達と行くね」
四人でプールに行った数日後、僕と一緒に今でテレビを見ながら寛いでいた夏樹が今、思い出したかのように言った。
「夏祭り? そういえば、今週末だっけ?」
「そうだよ、お兄、忘れてたの? 折角のイベントなんだから今からでも中川さんを誘ってみたら?」
あの後、中川さんと次の出掛け先をどうするのか何度かやり取りしたが、まだ決まっていなかったので、提案をしてみるのも良いかもしれない、と僕は思った。
早速、中川さんに連絡を取ってみよう、と思い、スマートフォンを取り出して見ると、丁度、中川さんからメッセージが届いてる事に気が付いた。
そのメッセージの内容は、「美春が保育園の友達と今週末の夏祭りに行くから、美春は居ないのだけど、良かったら一緒に夏祭りに行かない?」と、いったものだった。
僕は、「夏樹も小学校の友達と夏祭りに行くから、居ないけど、僕と一緒で良ければ行こう」と、少し気恥ずかしくなりながらも、勇気を出して送信をした。
すると、すぐにメッセージの着信を知らせる音が鳴った。
確認をすると、中川さんからで、「是非、一緒に行きましょう。待ち合わせ場所はいつもの公園で、午後五時で良い?」という内容だった。
僕は、「ありがとう。それで、大丈夫だよ」と、送信した。
そして、すぐに返ってきた中川さんからのメッセージには、「それでは、また当日に会いましょう。楽しみにしているわ」と、書いてあり、僕は嬉しい気持ちになった。
すると、それまで黙ってスマートフォンを弄る僕を見ていた夏樹が突然、声を上げた。
「おっ、お兄、中川さんを誘えたの? 良かったね!」
「……そうだけど、どうして中川さんを誘える事が出来たって分かったの?」
僕は夏樹に中川さんを誘えた事を一言も言ってはいないのに、どうして分かったのだろう、と不思議に思った。
僕の言葉に夏樹は何故か呆れた表情をすると、口を開いた。
「なんでって、お兄、全部表情に出ていて、今、とても嬉しそうな顔をしてるんだもん」
夏樹がすぐ分かるくらいに表情に出ていたのか、と思い、僕は恥ずかしくなった。
「そうだ、お兄、中川さんと夏祭りに行く時に甚平を着て行ったら? 確か、去年、お母さんに私の浴衣と一緒に買ってもらっていたよね」
去年、夏祭りに行く為に夏樹が母に浴衣を買ってくれるようにお願いをした際に、僕も甚平を一着くらい持っておいた方が良いという理由で買ってもらった物が、おそらく、僕の部屋のタンスの奥に眠っているはずだ。
しかし、僕が甚平を着て行ったとして、中川さんが浴衣を着ていなかったら、互いに気不味くなるのではないのだろうか、と僕は思った。
「確かに、買ってもらったけど、中川さんが私服だったら、恥ずかしくないか?」
僕の言葉に、夏樹は力強く首を横に振った。
「それは、無いよ、お兄。中川さんは絶対に浴衣を着て来るよ。だから、お兄も甚平を来て行った方が良いよ」
夏樹の確信を得たような力強い言葉に、僕は自然と頷いていた。
「……そうか、それなら折角の夏祭りだし、甚平を着て行くかな」
「それが良いと思うよ。……それと、お兄」
「夏樹、どうした?」
「中川さんと良い夏祭りになると良いね」
夏樹は笑みを浮かべると、そう言って、僕に声を掛けてくれたのだった。
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