間接キス
僕と中川さんは子どもプールで楽しそうに遊んでいる美春ちゃんと夏樹を二人で話をしながら見守っていた。
ふと、プールに設置してある時計の針を確認すると時刻は既に正午になっていた。
「二人とも、もうお昼だから一度プールから上がってご飯を食べようか」
そろそろいい時間であるし、お昼ご飯を食べながら休憩を挟むべきだろう、と思った僕は、美春ちゃんと夏樹に向かって声を掛けた。
美春ちゃんと夏樹は、「はーい!」と、返事をすると二人仲良く手を繋いで、こちらに向かって来た。
「優君、お腹空いた!」
美春ちゃんは、僕の元に来るなり、まるで疲れを感じていないように、お腹をさすりながら元気に言った。
僕はそんな美春ちゃんの様子を見て微笑むと、食べ物のお店が集まっている場所を指差した。
「あっちで何か買って食べようか」
僕の提案に、三人は頷くとお店が集まっている場所に向かった。
丁度、お昼時とあって、そこはとても混んでいた。
美春ちゃんと夏樹から目を離さないようにしないといけない、と僕は気を引き締めた。
「良い匂い! どれも美味しそう!」
食べ物の匂いを嗅いで、夏樹が目を輝かせている。
お店には、焼きそば、たこ焼きやフランクフルト等の定番の食べ物が並んでいた。
「夏樹、何食べる?」
美春ちゃんは中川さんと一緒に食べる物を選んでいるので、僕は夏樹と一緒に食べる物を決める為に声を掛けた。
「焼きそばも良いし、たこ焼きも美味しそう。迷っちゃうよ〜」
「それなら、焼きそばとたこ焼きをそれぞれ一つずつ買って、僕と分け合って食べるか?」
どうやら夏樹は焼きそばかたこ焼きで迷っているようだ、と思った僕は、夏樹と分け合って食べれば良いと思い、そのような提案をした。
「お兄、良いの? ありがとう!」
夏樹は僕の提案に笑顔を見せながら、お礼を言ってくれた。
買う物が決まったので、僕と夏樹は列に並び、焼きそばとたこ焼き、それとペットボトルを二本購入した。
中川さんと美春ちゃんは、今、何処に居るのだろうか、と思い、辺りを見回すと、丁度購入し終えたようだったので、僕と夏樹は中川さん達の元は行き、合流をした。
そのまま僕達はレジャーまで戻ると、購入した物をそこに広げた。
中川さんが持って来てくれたウェットティッシュで、手を綺麗にすると、四人で手を合わせ、「いただきます」と、言って食事を開始した。
「ねぇねぇ、優君、夏樹ちゃん」
僕と夏樹が、二人で焼きそばとたこ焼きを分け合って食べていると、美春ちゃんが声を掛けてきた。
僕と夏樹が揃って美春ちゃんの方を向くと、「見て、見て! お姉ちゃんが買ってくれたの!」と、言って手に持ったフランクフルトを見せてくれた。
「わぁ、美味しそうだね」と、夏樹が言うと、美春ちゃんは笑顔を見せ、「夏樹ちゃんも食べる? 良いよ!」と、言って、夏樹にフランクフルトを、「あーん」と、言って差し出した。
夏樹は、「あーん」と、口を開き、フランクフルトを一口食べると、「美味しい! ありがとう、美春ちゃん」と、言って、笑顔を見せた。
僕は美春ちゃんと夏樹のやり取りをほのぼのとした気持ちで見守っていた。
すると、僕が見ている事に気が付いた美春ちゃんは、僕と目を合わせると、「優君もフランクフルト、食べる?」と、言うと、「あーん」と言って、フランクフルトを差し出してきた。
僕は少し迷ったが、美春ちゃんの優しさを無下にするのも良くないと思い、「あーん」と、口を開き、フランクフルトを一口食べた。
「とても美味しいよ! 美春ちゃん、ありがとう」
美春ちゃんは皆に喜んで貰える事が嬉しくなってきたのか、中川さんの方を見ると、「お姉ちゃんも、あーん」と、フランクフルトを差し出した。
中川さんがこのまま、フランクフルトを食べたら、僕と間接キスをする事になる、と思い、僕は焦った。
どうやら、それは中川さんも思ったらしく、慌てて両手を横に振ると、「私はいいから、美春が食べちゃいなさい」と、美春ちゃんに言った。
てっきり中川さんも食べてくれると思っていた美春ちゃんは、その言葉を聞いて、「……食べてくれないの?」と、悲しそうな顔をして呟いた。
そんな美春ちゃんを見て、中川さんは、「た、食べるわ!」と、慌てて言うと、「あ、あーん」と、顔を真っ赤にさせて口を開くと、フランクフルトを一口食べ、「お、美味しいわ」と、小さな声で呟いた。
僕は、中川さんと間接キスをしてしまった、と思うと、恥ずかしくなり、顔が熱くなった。
美春ちゃんは、皆にフランクフルトを食べさせる事が出来た事に満足そうに笑った。
そして、僕と中川さんが顔を真っ赤にしている事に気付くと、「お姉ちゃん、優君、お顔が真っ赤だよ!? お熱!?」と、慌てて心配をしてくれた。
僕と中川さんは、美春ちゃんに指摘された事で、さらに顔を赤くしながらも、美春ちゃんに心配が無い事を伝えていると、隣に居た夏樹が、「美春ちゃん…… 恐ろしい子……!」と、呟くのだった。
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