プールに行きたい! 二
プールのチケットを買った僕達は着替えをしに更衣室に行く為に一旦別れた。
僕は更衣室に入って貴重品をロッカーに入れたりして水着に着替えを済ませると、中川さん達が探しやすいように目立つ場所に移動をして、中川さん達が着替えを終えて来るのを待っていた。
僕は待っている間につい、中川さんがどんな水着を着てくるのだろうと想像を膨らまさせてしまい、顔を赤くしていると、「お兄ー!」と、夏樹の僕を呼ぶ声が聞こえたので、慌てて、想像する事を止めて、夏樹の声のした方に視線を向けた。
見ると、夏樹と美春ちゃんが二人で仲良く手を繋いで、こちらに向かって走っていた。
「二人とも走っては駄目よ」
僕が二人を止めようとして、口を開こうとした時、中川さんの声が聞こえた。
僕はそちらに視線を移して中川さんの姿を見て、思わず固まってしまった。
中川さんの着ている水着は水色のチェック柄のワンピースで、可愛らしい感じが中川さんにとても似合っていた。
「……その、どうかしら?」
中川さんは僕の視線に気が付いていたのか、僕の元に来ると、緊張した様子で僕に尋ねてきた。
僕は水着姿の中川さんが近くに来た事に緊張を覚えながらも、「そ、その水着、とても可愛くて、中川さんによく似合っているよ」と、答えた。
僕の言葉に中川さんは、「ありがとう、嬉しい」と、笑顔を見せて喜んでくれた。
そんな中川さんの笑顔を見て、僕は緊張が和らいでいくのを感じた。
そうなると、視線は自然と普段の服装だと隠れていて見る事が出来ない足や胸元に向き、僕は顔が熱くなっていくのを感じた。
僕の顔が赤くなっているのを見て、中川さんは僕の視線に気がつくと、恥ずかしそうに両手で身体を隠すと、「み、見過ぎ。視線が怖いわ」と、呟くのだった。
その時、美春ちゃんの、「早く泳ごう!」の一言がきっかけで、僕は中川さんから視線を外すと、美春ちゃんの方を向いた。
「まずは荷物を置く場所を決めようね」
僕は美春ちゃんに伝えると荷物を置く場所を見つける為に、辺りを見回した。
すると、幸いにも陰になっている場所を見つける事が出来た。
僕達はその場所へ向かい、レジャーシートを敷くと、荷物を置いた。
「よし、じゃあ、怪我をしない為に準備体操をしよう!」
僕が美春ちゃんと夏樹を見ながら言うと、二人は片手を挙げて、「はーい」と、元気良く返事をすると、僕の動きの真似をしながら準備体操をし始めた。
やがて、準備体操が終わると、中川さんは美春ちゃんと目線を合わせると口を開いた。
「美春、プールでは走らない事と勝手に何処かへ行かない事、この二つの約束を守れる?」
中川さんの言葉に美春ちゃんは、「うん!」と、元気良く答えた。
僕はそんな中川さんと美春ちゃんの姉妹のやり取りを微笑ましく思いながら見ていると、中川さんの視線が僕の方を向いた。
「それと、新島君とも約束しないといけない事があるわ」
まさか、美春ちゃんと同じ扱いを受けるとは思いもしなかった僕は、思わず自分の事を指差して、「僕?」と、中川さんに尋ねていた。
中川さんは僕の言葉に大きく頷くと、「ある意味、美春より新島君の方が心配だわ」と、真剣な表情で言われた。
僕の何が中川さんにそう思わせているのだろう、と考えていると、「新島君、いい?」と、言って中川さんが話し始めた。
「新島君、プールで子ども関連の騒動を起こすと怪我とか、それこそ新島君がいつも気にしているコンプライアンスに違反する可能性が高まるから、近くに子どもがいる時には本当に気を付けてね?」
僕は中川さんの真剣な眼差しを見て、本気で心配されている事を感じ取ると、「き、気を付けます」と、弱々しく言葉を返すのだった。
僕と中川さんのやり取りが終わると、僕達はまず、水深が深くない子どもプールに向かった。
夏休みとあって、子どもプールには小さな子どもを連れた親子連れが沢山いた。
「わー、楽しそう! 夏樹ちゃん、一緒に遊ぼう!」
美春ちゃんの言葉に夏樹は頷くと、「うん、良いよ! はぐれちゃうといけないから、手を繋いで行こうね」と、言うと手を差し伸べて握ると、二人で子どもプールの中に入って水の掛け合いっこをして遊び始めた。
僕と中川さんは手持ち無沙汰になり、二人が遊んでいるのを少し離れた場所から見守っていた。
すると、隣から、「新島君」と、中川さんの小さな声が聞こえてきた。
僕が隣にいる中川さんの方に視線を向けると、中川さんは顔を赤くして何か言いづらそうに口を動かしていた。
僕がどうしたのだろう、と不思議に思っていると、中川さんは突然、僕の方を見ると、「その、さっきは言いそびれてしまったのだけど……」と、言って今度は恥ずかしくなったのか、慌てて視線を逸らした。
中川さんは視線を逸らしたまま、顔を赤く染めると、「その、新島君の水着も素敵よ」と、小さな声で呟いた。
僕は、そんな中川さんを見てとても可愛いな、と自然に思うと、「ありがとう」と、言葉を返すのだった。
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