プールに行きたい!
「プールに行きたい!」
僕達はいつもと同じように保育園に美春ちゃんを迎えに行って、その帰りに公園で遊んでいた。
美春ちゃんは滑り台を滑り下りて、立つと、突然大きな声で言ったのだ。
「……美春、突然、どう……」
「私もプールに行きたい!」
中川さんが驚きながらも美春ちゃんに尋ねようとしているのを遮って夏樹も美春ちゃんと同じように大きな声で言った。
「……夏樹まで突然どうしたんだ?」
「お兄、もう今日から夏休みだよ! という事はプールに行かなくちゃ!」
僕の疑問に夏樹はさも当然と言わんばかりだ。
夏樹の後ろでは、美春ちゃんが、「そーだ、そーだ!」と、言って腕を振り回していた。
僕は別にプールに連れて行くのは構わないのだが、中川さんはどう思っているのだろうか。
そう思って、中川さんの方を見ると、僕の視線に気が付いた中川さんが僕と視線を合わせた。
その瞬間、中川さんの顔がみるみる赤く染まっていく。
「中川さん、どうしたの!?」
中川さんの突然の変化に僕が慌てて声を掛けると、中川さんは両手で顔を隠しながら、「プールに行くという事は、水着になるという事よね?」と、小さな声で呟いた。
中川さんの問いに、僕はプールだから水着になるよな、と思いながら、「そりゃ、水着にならないと泳げないからね」と、言葉を返した。
そう言葉を口にして、僕はちょっと待てよ、と思い、今の自分の発言を思い返した。
水着にならないと泳げない、という事は当然、中川さんも水着になるというわけで……
僕はそこまで考えると、つい水着姿の中川さんを想像してしまい、顔が熱くなるのを感じた。
ようやく、中川さんの顔が赤くなっていた理由が分かった僕は、このまま中川さんとプールに行く流れになるとまずいと思った。
それは中川さんは恥ずかしいのは当然として、僕も目のやり場に困ってしまう。
この前の勉強会で顔を赤くして勉強どころではなくなったのと一緒で、今度は泳ぐどころの騒ぎではなくなってしまうだろう。
そこまで考えて、僕は一つ思い付いた。
夏樹はもう小学校三年生で手が掛からないし、美春ちゃんも言う事はしっかり聞いてくれるので、僕一人でプールに連れて行っても問題は無いだろう。
僕はそう思い、「中川さん、その、もしあれだったら、僕一人で、美春ちゃんと夏樹をプールに連れて行けるよ?」と、中川さんに提案をした。
すると、僕の言葉を聞いて中川さんは突然慌て出した。
その中川さんの突然の行動に、僕はどうしたんだろうと思っていると、中川さんは、「いや、その、水着姿になるのは恥ずかしいけど、新島君なら見せても良いと言うか、プールには一緒に行きたいと思っているというか……」と、早口で呟いた。
つまりは、一緒にプールに行っても大丈夫、という事だろうか。
そう思った僕は、「プールに一緒に行くという事で大丈夫?」と、中川さんに確認した。
すると、中川さんは、僕の言葉に勢い良く、首を縦に振って答えた。
中川さんと一緒にプール。
とても楽しみだが、僕は水着姿の中川さんを直視出来るのだろうか、と不安になるのだった。
あれから二日後、僕と夏樹はプールの入り口の前で、中川さんと美春ちゃんが来るのを待っていた。
僕の服装は中川さんと会う時にはお決まりになりつつある白いTシャツとチノパンで、今日も夏樹のチェックをクリアしてから家を出ていた。
「お兄、私のレクチャーその一は覚えてる?」
夏樹の問いに僕は頷いた。
「勿論、服装を褒めるだろ?」
その夏樹のレクチャーその一は散々守ってきたから、今回も大丈夫だろう。
夏樹は僕の答えに満足そうに頷くと口を開いた。
「お兄、美春ちゃんの水着姿を見て、興奮して鼻血を出しちゃ駄目だよ?」
「出す訳ないよ。仮に美春ちゃんの水着姿を見て、興奮して鼻血を出していたら、コンプライアンス案件になっちゃうだろう?」
その場面を想像して、僕はゾッとした。
冗談としても笑えない。
「それなら、中川さんの水着姿を見たらどう? 鼻血出ちゃう?」
夏樹がニヤニヤしながら尋ねてきた。
僕は、「ある訳ないだろ?」と、答えたかったが、絶対とは言い切る事が出来ず、「多分、出ないと思う」と、答える事が精一杯だった。
そんな僕の言葉を聞いて、夏樹は、「お兄も、随分素直になったね」と、言って、笑みを浮かべるのだった。
しばらく夏樹と待っていると、「優くーん! 夏樹ちゃーん!」と、声が聞こえると、美春ちゃんがこちらに向かって走って来るのと、それを追い掛ける中川さんの姿が見えた。
「中川さん、美春ちゃん、こんにちは。美春ちゃん、今日も元気だね」
僕が美春に言うと、美春ちゃんは嬉しそうな顔をして、「うん! 今日はプールで沢山泳ぐんだ!」と、言って元気一杯だ。
その後、僕は中川さんに視線を移した。
中川さんの服装は、前回、僕が褒めたからという理由で着て来てくれた紺色のワンピースだった。
「中川さん、今日も素敵なワンピースだね」
僕が言うと、中川さんは、「ありがとう」と、言って嬉しそうに笑った。
美春ちゃんが、「早く、プールに行こう!」と、待ちきれない様子で言うと、僕達はプールの入り口に足を向けるのだった。
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