誕生日会
中川さんと美春ちゃんへのプレゼントを買いに行ってから一週間が経った。
今日は美春ちゃんの誕生日の当日で、僕と夏樹は中川さんの家に行く為に支度をしていた。
「夏樹、準備は出来たか」
僕が言いながら居間に入ると夏樹がこちらを向いた。
「うん、お兄、そろそろ……って、なんで変なTシャツを着ているの!? 前に着ちゃ駄目だって、私言ったよ!?」
「いや、だって、今日は美春ちゃんもいるし、キャラクターがプリントされている方が、美春ちゃんも喜んでくれるかなと思ったんだけど……」
僕の言葉に夏樹は頭を抱えた。
「お兄、そのムンクの叫びみたいな絵がプリントしてあるTシャツは残念だけど、美春ちゃんが怖がるとおもうよ?正直に言って、変だよ!」
夏樹の言葉に僕はまさかそこまで言われるとは思わなかったので、とても衝撃を受けた。
僕のそんな様子を見て、夏樹が言葉を続ける。
「お兄、悪い事は言わないから、今すぐ先週着た、白いTシャツに着替えて来て」
僕は夏樹の言葉にショックを受けて肩を落としながら、着替える為に自分の部屋に向かうのだった。
「お邪魔します」
「優君! 夏樹ちゃん! こんにちは!」
「新島君、夏樹ちゃん。今日は美春の為に来てくれてありがとう」
僕と夏樹が中川さんの家に入ると玄関で中川さんと美春ちゃんが出迎えてくれた。
僕と夏樹が挨拶を返すと僕達は居間に案内された。
テーブルには様々な料理が置いてあり、どれも美味しそうだった。
「この料理を全部、中川さんが作ったんですか?」
驚きながら尋ねた夏樹に中川さんは頷くと口を開いた。
「ええ、時間は掛かってしまったけれど、折角の誕生日だから美春の好きな料理を全て作ったわ」
「それは凄いね」と、呟く僕の横では、美春ちゃんが、「やったー!」と、言って飛び跳ねていた。
僕と夏樹は手を洗うと椅子に座り、皆で手を合わせると、「いただきます」と、言って、美春ちゃんの誕生日パーティーが始まった。
好きな料理ばかりだからか、始めから美春ちゃんの食事ペースが早い。
「ほら、美春、そんなに急がなくても料理は無くならないから、ゆっくり食べなさい」と、美春ちゃんに促していた。
「あれ? 醤油はどこだろう?」
夏樹の言葉に中川さんは、「夏樹ちゃん、ここにあるわ」と、言葉を返した。
中川さんの方に視線を向けると、僕から手が届く場所に醤油があった。
中川さんは美春ちゃんのお世話で忙しいだろうし、僕が醤油を取って渡そうと手を伸ばした時だった。
丁度、僕と同じタイミングで手を伸ばした中川さんの指が僕の指に触れたのだ。
「わっ」
「きゃあ」
互いに声を上げて、手を素早く引っ込めた。
中川さんの指の温もりに顔が赤くなっていくのを感じた。
中川さんの方を見ると、中川さんの顔も赤くなっていた。
互いに気恥ずかしくなり、沈黙がこの場を支配した。
唯一、夏樹だけは、「ど定番の初々しい展開、ありがとうございます! ご馳走様です!」と、人格が変わったのかと疑うくらいテンションが高くなっており、とても楽しそうだ。
僕と中川さんの間の気不味い空気を壊してくれたのは、美春ちゃんだった。
美春ちゃんは、それまで黙々とオムライスを食べていたかと思うと、突然、中川さんの方を見てお皿を掲げると、「お姉ちゃん、お代わり!」と、口の周りにケチャップを付けながら元気に言った。
美春ちゃんのその姿は面白いかつ、可愛くて、つい笑みを浮かべた。
ふと、中川さんを見ると中川さんも笑みを浮かべていた。
僕と中川さんは顔を見合わせると互いに微笑み、食事を再開させた。
その時には先程までの気不味い空気は少しも無かった。
ケーキは夜にご両親と一緒に食べるという事なので、食事を終えると、美春ちゃんに誕生日プレゼントを渡す流れになった。
「まず、僕から渡そうかな。美春ちゃん、誕生日おめでとう!」
そう言って、僕は美春ちゃんに誕生日プレゼントの絵本を手渡した。
「わぁ、絵本だ! ありがとう、優君!」
「どういたしまして、後で中川さんに読んで貰ってね」
美春ちゃんが、「うん!」と、言って笑顔で頷くと、今度は夏樹が美春ちゃんに誕生日プレゼントを見せた。
「美春ちゃん、誕生日おめでとう! これ、私のお母さんと作ったビーズのブレスレットだよ」
夏樹はそう言うと美春ちゃんの腕にビーズのブレスレットを通した。
「わぁ、可愛い! ありがとう、夏樹ちゃん!」
「どういたしまして」
夏樹がそう言って微笑むと、隣にいた中川さんが口を開いた。
「美春、誕生日おめでとう! 私からのプレゼントはこれよ」
「わぁ、お人形とお家だ!」
中川さんが取り出した玩具に、美春ちゃんは目を輝かせる。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
そう言って、美春ちゃんは、とびきりの笑顔を見せるのだった。
美春ちゃんへの誕生日プレゼントを渡し終えて、現在、美春ちゃんは夏樹と一緒に中川さんから貰ったお人形とお家の玩具で楽しそうに遊んでいた。
僕と中川さんは二人で微笑みながらその様子を見守るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます