買い物デート 二

「新島君、今日は本当にありがとう。これで美春も喜んでくれると思うわ」


「中川さんの力になれて良かったよ」


僕は微笑む中川さんに頷くと、言葉を返した。

中川さんは、美春ちゃんへプレゼントを渡す時の事を想像しているのだろうか、プレゼントを抱き締めてとても嬉しそうな表情を浮かべている。


そんな様子の中川さんを見ながら僕はまったく違う事を考えていた。

現在、僕と中川さんはショッピングモールの出入り口付近で立って話をしていた。

そして、今の中川さんの言葉を合わせて考えると、完全にこれは解散する流れだと思って、僕は焦りを感じ始めた。


現在の時刻は夕食時の少し前で、この時間に帰るとなると、レクチャーその二、ご飯に誘うを達成していない事がすぐにバレてしまい、夏樹に叱られてしまうだろう。

しかし、それ以上に、僕は中川さんと話していたいと思い始めていて、その思いからまだ解散したくないと感じていた。


「中川さん、あのさ……」


僕が声を掛けると中川さんは、「ん? どうしたの?」と、言って振り返った。


僕の言葉の続きを待っているだろう中川さんと目が合うと、恥ずかしさから目を逸らしてしまいそうになる。

しかし、何とか踏み止まると、「こ、この後、ご飯を食べない?」と、勢いで言い切った。


僕の勢いに圧倒されたのか、中川さんはポカンとした表情を浮かべると、「べ、別に良いけど、突然言うから驚いてしまったわ」と、少し嬉しそうな顔をして言った。


僕はその中川さんの表情を見て、嫌だとは思われてはいないと感じて安心したと同時に、どうやら格好良くは誘えなかったみたいだ、と少し反省をした。


「それで、何処で食べる?」


中川さんの一言で勢いに任せて誘ったせいで、場所の事をまったく考えていなかった事に今更気が付いた。


これでは、更に格好悪いぞ、と僕が焦っていると、辺りを見回していた中川さんが声を上げた。


「それなら、あそこはどうかしら? よく美春とも一緒に食べているお店なの」


そう言って、中川さんが指差したお店は全国展開しているファミレスだった。


「良いね、僕も夏樹とよくここで食べるよ。それじゃあ、ここにしようか」


僕から誘った手前、店が決まらず、変な空気にならなくて良かったと一安心して、中川さんと共にそのファミレスに足を向けたのだった。



店員に席を案内され、座ると、僕はメニュー表を中川さんに見せた。


「中川さんは何食べる?」


僕が聞くと、中川さんは迷わずメニュー表にあるミートソースパスタの写真を指差した。


「美春が好きでここに来たら食べたがるから、いつも私とシェアをして食べているの。で、気が付いたら私も好きになっていたのよ」


そう言って少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる中川さんを微笑ましく思うと、僕もメニュー表を見た。


「僕はマルゲリータピザにしようかな」


僕の言葉に中川さんが頷く。


「ここは、ピザも美味しいものね」


僕は定員さんを呼ぶと、ミートソースパスタとマルゲリータを注文した。


注文を終えると、僕と中川さんの間に沈黙が流れた。

いつも美春ちゃんや夏樹を中心に話題が展開しているので、中川さんと二人だと何を話したら良いのか分からなくなってしまう。

しかし、何か話題を振らないと、中川さんも気不味いだろうとソワソワしていると、そんな僕を見て面白く思ったのか、中川さんが笑みを浮かべた。


「いつも元気な二人が居ないと静かね」


「いつも、美春ちゃんと夏樹に巻き込まれていたからなんだか落ち着かないね」


僕の言葉に何故か中川さんは呆れた表情を僕に向けてきた。


「気が付いたら新島君が騒動の中心になっている方が多い気がするのだけど……」


そんな中川さんの言葉に、僕は今までの出来事を思い返してみた。


「……あれ? 不思議とそんな気がしてきた……」


まさかの事実に僕は頭を抱えていると中川さんが声を掛けてきた。


「今日思ったのだけど、新島君は子どもが関わると、なんだかおかしな事になるけど、そうでないと特に何も無いのよね。現に今日はおかしな事が起こっていないし」


「えっ? もしかして僕って周りに子どもが居ないと面白くない?」


僕の言葉に中川さんは首を横に振った。


「……誰もそんな事を言ってはいないでしょう」


それでも、「そうなのかな……」と、不安そうな僕を見て、中川さんは再び口を開いた。


「それに今日は、二人で出掛けられて、その、楽しかったわよ?」


中川さんのその言葉に、僕は、「えっ?」と、驚くと、中川さんは顔を真っ赤にして顔を僕から逸らした。


中川さんの言葉に嬉しくなった僕は、「ありがとう、僕も中川さんと買い物が出来て、楽しかったよ」と、微笑みながら中川さんに告げた。


僕の言葉を聞いて中川さんは、こちらを見ると、未だ恥ずかしそうな表情で、「……どういたしまして」と、言って笑みを浮かべた。


その表情が可愛く感じ、つい見惚れていると、そのタイミングで注文の品が運ばれて来て、僕と中川さんは二人揃って慌てるのだった。

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