買い物デート
そして、迎えた土曜日、僕は待ち合わせ場所であるショッピングモールの入り口の前で中川さんを待っていた。
服装は勿論、夏樹の指示通りの白の無地Tシャツにチノパンだ。
家を出る前に夏樹の身だしなみチェックがあり、それに合格をしないと家から出られないという、まるで出国検査のようだった。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」
振り返り、中川さんの姿を見て、僕は固まってしまった。
中川さんは紺色のワンピースを着ていた。
僕はいつも制服や動き易いズボンを履いた服装しか見た事が無かったので、普段と違う中川さんの大人っぽい格好にギャップを感じて、思わず見惚れてしまった。
「……新島君、どうかした?」
「い、いや、なんでも無いよ。僕も今来た所」
黙っていた僕を心配して、声を掛けてくれた中川さんに慌てて言葉を返すと、僕は夏樹から受けた、「会ったら服装を褒める」というレクチャーその一を思い出した。
夏樹からレクチャーを受けた時は見たままを言えば、褒めた事になるだろう、と気楽に考えていたが、今日の中川さんの格好を見ると、何故か気恥ずかしくなり、上手く言葉が出てこない。
しかし、中川さんは再び黙ってしまった僕を不思議そうに見ていて、このままだといつまで経ってもショッピングモールの中に入る事すら出来ないだろう、そう思い僕は意を決して重い口を開いた。
「……そ、その中川さんの今日の服装、大人っぽくて素敵だね」
僕の言葉に中川さんは、「へっ?」と、呟いて固まると、次の瞬間、「に、新島君、急にどうしたの!?」と、言って慌て出した。
夏樹のレクチャー通りにして、まさか中川さんが慌てる事になるとは少しも思っていなかった僕は心の中で夏樹に、「夏樹のせいでおかしな事になっているぞ」と、文句を言った。
しかし、流石に、「夏樹が言えと言ったから」と、中川さんに伝える訳にもいかず、僕は、「な、中川さんがいつもと違う服装だったから」と、なんとか言葉を返した。
その僕の言葉を聞いて少し落ち着いてきたのか、中川さんは、僕の方を見ると、「た、確かに普段はあまり着ないかもしれないわね。 ……その、服装を褒めてくれてありがとう。嬉しかったわ。後、その、新島君の格好も素敵よ……」と、言うと顔を赤くして顔を背けてしまった。
その中川さんの様子を見て、可愛いな、と思うと同時に、自分の頬も熱くなっているのを感じるのだった。
その後、しばらく時間を使って僕と中川さんは気持ちを落ち着けると、ようやくショピングモールの中に入った。
中に入ると様々なお店があった。
ブラブラしているとあっという間に時間が過ぎてしまうだろう、と思った僕は、中川さんに、「まずは玩具屋さんを見てみようか?」と、提案をした。
中川さんは、僕の提案に、「そうね、そうしましょう」と、言葉を返すと、僕達は玩具屋に足を向けた。
玩具屋に入ると、様々な種類の玩具が置いてあった。
僕はそれらを見ながら、中川さんに、「美春ちゃんは普段何で遊んでいるの?」と、尋ねた。
「ぬいぐるみとか、あっ、後、最近おままごと遊びが上手になってきたわね」
中川さんの言葉を聞いて、僕は近くにあった玩具を手に取った。
「それなら、これはどうかな? 夏樹もおままごと遊びが出来るようになってから、これでも楽しく遊んでいたんだ」
そう言って、僕は中川さんに家と小さな人形がセットになった玩具を見せた。
中川さんはその玩具を見て微笑むと手に取った。
「懐かしいわね。私も昔、良く遊んだわ。確かにおままごとが出来るようになったら、この玩具でも楽しく遊べそうね。これにしようかしら」
中川さんはそう言うと、玩具をレジに向かって会計を済ませた。
店の外に出ると、中川さんが口を開いた。
「新島君、ありがとう。お陰で美春への誕生日プレゼントを買う事が出来たわ」
「どういたしまして。そうしたら、今度は僕が美春ちゃんにプレゼントする物を探しに行くのに付き合ってくれる?」
「えっ!? つ、付き合う!? そんな急に!?」
僕の言葉を聞いて、中川さんは何故か顔を真っ赤にして慌て出した。
「中川さん、どうしたの? 落ち着いて! 僕が渡す分のプレゼントを買いに行くのは駄目だった?」
「えっ、いや、つい慌ててしまったわ。大丈夫よ。この玩具屋さんで買う?」
なんとか落ち着いてくれて良かった、と思いながら、僕は中川さんからの質問に首を横に振った。
「いや、僕は夏樹にもプレゼントした絵本にしようと思っているんだ。だから、本屋に行こう」
そう言って、僕と中川さんは本屋に足を向けるのだった。
本屋に着くと、僕と中川さんは絵本コーナーに向かった。
そこで、僕は一冊の絵本を手に取った。
「その絵本が夏樹ちゃんにプレゼントした物なの?」
「そうだよ。この絵本はね、生まれてきてくれてありがとう、そして誕生日おめでとうというメッセージが込められているんだ」
「素敵な絵本ね」
中川さんはそう言うと微笑んだ。
僕はその絵本を購入し、解散する空気になった時、僕は夏樹に受けたレクチャーその二を思い出したのだった。
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