なんとも言えない特技
チケットを購入して、動物園の中に入ると早速沢山の動物に出迎えられた。
「わぁ、象さんだ〜」
その中で近くにあった象の檻を見つけて、駆けて行こうとした美春ちゃんの手を慌てて中川さんが掴んだ。
「美春、はぐれたら大変だから手を繋いでから行くわよ」
中川さんはそう言うと美春ちゃんは、「うん」と、返事をし、共に象の檻へ向かって行った。
僕は辺りを見回した。
周りには子ども連れの家族が多く見てとれた。
「連休中だから、やっぱり人が多いな」
僕の言葉に夏樹が大きく頷いた。
「そうだね、美春ちゃんから目を離さないようにしないとだね。この中ではぐれちゃったら探すのは大変だ」
「そうだな。夏樹も離れないようにな」
「うん、気を付けるね」と、笑顔で言った。
夏樹と話をしていると象の檻の前で美春ちゃんが大はしゃぎで手を振っているのが見えた。
「おーい、優くーん、夏樹ちゃーん、来て来て〜!」
僕と夏樹が中川さん達の元へ向かうと、美春ちゃんが像を指差した。
「優くん、見て見て、お鼻が長いよ!」
美春ちゃんはとても興奮しながら教えてくれた。
「そうだね、長いね〜」
僕が答えると、美春ちゃんは首を傾げた。
「なんで長いのかな?」
「お水を飲むためだよ」
美春ちゃんの質問になるべく分かりやすさを意識しながら僕は答えた。
僕の答えに美春ちゃんは、「おー、沢山飲むんだね!」と、驚きながら言った。
僕が美春ちゃんとの会話でほのぼのしながら像を見ていると、「あっちにライオンさんがいる〜」と、美春ちゃんの声が聞こえた後、手を握られたので、僕は手を握り返した後、「ライオンの所へ行こうか」と、言って歩き出した。
「待って、新島君、その子誰?」
中川さんの言葉に、「えっ?」と、言って立ち止まると手元を確認した。
「Hi」
目が合うと、まさかの英語が飛び出してきた。
「ホワイ?」
僕はあまりの衝撃で思わず英語で返していた。
僕と手を繋いでいたのは美春ちゃんではなく、見た事も無い白人の男の子だった。
美春ちゃんは何処だ、と辺りを見回すと、美春ちゃんは夏樹と手を繋いでいた。
どうしたものか、と思っていると、「ごめんなさい!」と、流暢な日本語で言いながら白人女性が走って来た。
「こちらこそごめんなさい」と、謝り、男の子と手を振って別れると、「優君のお友達?」と、美春ちゃんが聞いてきた。
「いや、初めて会った子だよ」
僕は首を横に振りながらそう答えた。
「んー? 手を繋いでいたのに?」と、美春ちゃんは首を傾げて不思議そうな顔をしている。
「そういう事もあるんだよ」と、苦笑いをしながら美春ちゃんに言葉を返していると、「それにしても、なんでさっきの子は新島君と手を繋いでいたのかしら」
中川さんの質問に答えたのは夏樹だった。
「お兄の周りには何故か子どもが寄ってくるのですよね」
「えっ、樹液が出てるの?」と、中川さんが呟いた。
「……僕は木だったのか」
「それに、お兄は子どもを引き寄せる特技があるんです」
「……歌では無くて?」
中川さんの言葉に頷くと、夏樹は僕の方を向いた。
「お兄、あれをやって見せて?」
「分かった、久々にやってみるか」
「えっ、またこの流れなの?」と、呆れた表情で中川さんは呟いた。
僕は辺りを見回すと一人の男の子と目が合った。
あの子で良いだろう、と僕は一度目を閉じると、目を限界まで見開いた。
すると、僕の目を見た男の子は笑顔になると、こちらに向かって走ってこようとした。
その子の両親は僕に背中を向けていたが、男の子が動き出そうとした気配を察知すると、慌てて手を握って止めた。
その後、僕は中川さんの方を見ると、「どう?」と、中川さんに呟いた。
すると、中川さんはとても慌てた様子で片手を激しく横に振りながら口を開いた。
「いやいや、何をしているの!? とても驚いたんだけど!」
中川さんの隣では僕の顔を見た美春ちゃんが、「優君、おもしろーい」と、言いながら、大笑いをしている。
「限界まで目を見開くと、笑いながら子どもが来るだよね。うっかりやってしまうと、すぐにコンプライアンス違反の危機だよ」
「……なんか突っ込んだり、呆れたりするのですら疲れたわ」
「……ついに理解をされる事を諦められてしまった」
疲れた表情で言った中川さんの言葉にしょげていると、夏樹が慌てて口を開いた。
「中川さん、お兄の事を理解してあげて下さい! お兄が傷付いています!」
夏樹の言葉を聞いて、中川さんが気不味そうな表情を浮かべると、「ご、ごめん」と、呟いた。
「それにしても、なんでそんなになんとも言えない特技ばかり持っているの?」
中川さんのその質問に僕は記憶を思い返して原因を探ってみた。
「……全力で夏樹の相手とかをしていたら、なんか気が付いたらこうなっていたね」
結局、原因が思い付かずに悲しくなっていると、「お兄が不憫過ぎる……」と、夏樹が、「およよ」と、泣き真似をしながら呟いた。
「うん、仲が良い兄妹ね……」と、遠くを眺めながら何かを諦めた表情で呟くのだった。
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