お出かけしよう!
今日も何事も無く一日が終わり、俺が帰宅しようと立ち上がると、自席で頭を抱えたまま座っている中川さんに気が付いた。
「中川さん、どうしたの?」
僕が声を掛けると顔を上げた中川さんが、「……ああ、新島君」と、呟いた。
かなり疲れているようだ、と僕が思っていると、「今年もやってくるのよ」と、恐ろしい物でも見た時の様な表情で言葉を発した。
「……花粉?」
もう既に来ているか、と思いながら、僕は言ったが、案の定、「違うわ」と、言って中川さんは首を横に振った。
「……ゴールデンウィークよ」
その言葉に僕は納得した。
「成程、連休中は美春ちゃんが家にいるから悩んでいたのか」
「ええ、そうなの。連休中は両親が休みの日もあるけど、いない日もあるからどうしようかと思って」
「美春ちゃん、一日中家にいると飽きてしまうよね」
僕の言葉に中川さんは頷いた。
「近くの公園だといつもと同じだし、かといって人混みの中、私一人で美春を連れて出掛けるのもハードルが高くて」
「だったら、中川さんさえ良ければ、僕達と一緒に出掛けようよ」
僕の言葉に中川さんは驚くと、「嬉しいけど、良いの?」と、尋ねてきた。
「勿論だよ、夏樹も二人に会いたがっていたし、僕も中川さん達と出掛けたいと思っているよ」
すると中川さんは何故だか、顔を赤らめて、「わ、私達と出掛けたいの? そ、そう言って貰えると、美春も喜ぶわ」と、焦りながら言った。
僕は不思議に思ったが、「どうかしたの?」と、聞く前に中川さんは、「候補はまた後で連絡をするわね」と、言って去って行ってしまった。
どうしたのかと考えたが、僕にはまったく思い付かなかった。
僕は家に帰ると、夏樹が居間でテレビを見て寛いでいた。
「夏樹、ゴールデンウィークに中川さん達と出掛けようって話になったんだけど、一緒に行くか?」
「勿論行くよ! 美春ちゃんにお兄の妹の座は渡せないけど、私の妹ではあるからね!」
僕はどう言葉を返せば良いのか、しばらく考えたが思いつく事が出来なかった。
「……夏樹、俺はどう言葉を返せば良いと思う?」
僕の言葉に夏樹は、「スルーするのも優しさだと思うよ?」と、言って悲しそうに笑みを浮かべるのだった。
僕は自室に入ると、荷物を置き、早速中川さんに夏樹も出掛けたがっている事をメッセージで伝えた。
数分後、スマートフォンが鳴ったので確認すると、中川さんからのメッセージが届いており、美春ちゃんが夏樹も一緒に行ける事が分かって、とても喜んでいる事と、美春ちゃんが動物園に行きたがっている事が書いてあった。
ここら辺で動物園と言ったら、電車で数駅行った先にある駅の近くにある動物園の事だろうか、と思い、メッセージを送信して尋ねると、「私もそう考えていたわ」と、返信があった。
同じ意見に安心すると、僕と中川さんは日時の相談をし始めたのだった。
当日、僕と夏樹は動物園の前で中川さん達が来るのを待っていた。
「優くーん、夏樹ちゃーん!」と、声が聞こえてそちらを見ると中川さん達がこちらに向かって来ていた。
「お待たせ」と、中川さんが言ったのを皮切りに互いに挨拶を交わした。
一通り挨拶を終えると、夏樹がこちらを見ながらジェスチャーをして、何かを伝えようとしていた。
しかし、まったく分からず首を傾げていると、途中から面白がった美春ちゃんが夏樹の真似をし出した。
やがて、これ以上ジェスチャーをしても意味が無いと思ったのか、夏樹は肩をすくめると中川さんの方を向いた。
「中川さん、今日の服装も大人っぽくて素敵ですね!」
夏樹の言葉に、中川さんも、「ありがとう、夏樹ちゃんも素敵な黄色のシャツが可愛いわよ」と、自然に返し、互いに褒め合い始めた。
「私も可愛い?」と、美春ちゃんが自然にその輪に入っていった。
女子って凄いな、と思っていると、夏樹が僕の方を見ると、こちらに来て、「お兄、女子とお出掛けする時は、服装を褒めないと」と、耳打ちをしてきた。
「え、いや、そう言われても」と、言葉を返すも、「いいから褒める!」と、小さい声でも強く言われると、それ以上は言い返す事が出来ない。
男は勢いだ、と気合いを入れると中川さんの方を向くと、僕は勢い良く口を開いた。
「中川さん、その、今日の服装が素敵で、えっと、可愛いね」
僕がなんとか言い切ると、隣でよく言った、と言うように夏樹が隣で大きく頷いていた。
反応が気になり、視線を中川さんに戻すと、中川さんは顔を赤らめて、ソワソワしていた。
「あ、ありがとう。その、新島君の服装も格好良いわよ」
普段あまり見ない可愛らしい仕草に少し戸惑いながらも、「あ、ありがとう」と、言葉を返すと、隣で、「ん? 意外とちょろくて可愛いぞ?」と、夏樹が呟いていた。
何を言っているんだ、と僕は夏樹に尋ねようとしたが、「私は?」と、美春ちゃんが自分の事を指差しながら聞いてきて、僕は夏樹に聞く事が出来なかった。
「美春ちゃんも、可愛いよ」と、僕が言うと、「やった〜」と、美春ちゃんは喜んだ後、僕の手を掴むと、「動物を見に行こう!」と、引っ張ってきた。
疑問もあったが、僕はそのまま引っ張られるがままに入り口に向かって一歩を踏み出したのだった。
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